剣と魔法の異世界でTRPGを。

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

第一章 チュートリアル

第1話 こんな世界でもTRPGを。

 剣と魔法の異世界に来たら、何をしたいと思うだろうか。




「――では、マスターシーンを読み上げますね。

『洞窟の奥に到達したきみたちは、広い空間に出る。

 青く光るクリスタルが壁一面から伸び、その中央には、まがまがしいドラゴンが鎮座していた』――」




 魔法を自在に使って、空を飛んだり変身したりしてみたい?

 強大な魔物と戦って、胸躍る冒険がしたい?

 現代知識を応用して成り上がったり、はたまた片田舎でスローライフを送るのもいいかもしれない。




「――では、ここから戦闘になりますね。

 イニシアチブを確認して、開始の行動があれば宣言してください――」




 けれど、たとえば現実世界には月に行く技術があるけれど、誰もが行けるわけじゃない。

 誰もがアイドルやスポーツ選手になれるわけじゃないし、猛獣退治は専門家に任せた方がいい。




「――おめでとうございます。これにてメインシナリオ終了です。

 エンディングを回していくので、やりたい演出があれば宣言をしてください――」




 結局のところ、異世界だって同じだ。




「――最後に、経験点の計算をします。

 セッション中に活躍したと思う人について、相談しましょう――」




 誰もが自在に魔法を使えるわけじゃないし、自由に冒険ができるわけじゃない。

 自分にできない何かにあこがれて、自分じゃない自分になりたいって思うのは同じなんだ。




「あのっ、王子のサポート、すごくありがたかったです!

 攻撃したときにすごいダメージが出て、気持ちよかったです!」


「いやあ、あのときはダイスの目がよかった。

 大臣こそ、女性キャラクターのロールプレイが様になっていて、可憐だったぞ」


「いやいや、いい歳したおじさんがついノリノリで年ごろの女子を演じてしまって、お恥ずかしい限りですぞ。

 対照的に兵士長は冷静沈着ですぞ! 盾役として華麗に立ち回っていて、見事でしたぞ〜!」


「なんのなんのでござるよ。拙者は演劇は王子や大臣ほどではないでござるから、役割をこなすのに注力しただけでござる。

 しかし今回はメイド嬢がかっこよかったでござるな! 全部を見捨てないと決めたあの口上、しびれたでござる!」


「そんな、あのっ、わたしあのとき夢中で!

 だから、あの、つまり!」


 楽しく会話していたみんなの顔が、こちらに向く。

 みんな、やりきったという、すがすがしい笑顔で。


「夢中にさせてくれるゲームをありがとう、ゲームマスター!」


 ――ゲームをやっていて、きっと一番うれしい時間。

 僕も笑顔になって、みんなに返す。


「どういたしまして。そしてこちらこそ、ありがとうございます。

 僕も、とっても、楽しかったです!」




 どんな世界にいたって、違う自分を夢見ることは、きっと楽しいことなんだ。


 だから僕は、この剣と魔法の異世界で、テーブル・トーク・ロール・プレイングを――TRPGをやっている。

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