第30話 レベルアップ

 物語が進む。

 シナリオのボスに到達する。戦う。


「王子のキャラクターの攻撃を受けて、ボスはうめき声を上げます!

『バカな、このオレサマが敗れるなど……だがオレサマは尖兵にすぎぬ、真の闇は、これから広がるのだ……!』

 ヒットポイントは0になって、ここで戦闘終了です!」


「よしっ!」


「しかし何やら、不穏なことを言ったでござるな?」


「はい。ボスを倒したことで立ちこめていた霧が晴れ、そしてみなさんは気づきます――」


 描写を告げる。

 山の向こう。空に不気味な黒い雲が立ちこめ、まがまがしい紫色の雷光がまたたく。

 闇に対抗する力を得たプレイヤーキャラクターたちは気づく。あれこそ世界を危機におとしいれる闇の力、その一端だと。


 それに対するリアクション、そしてエンディングの描写を入れて。


「――これにて第一話『暗黒の胎動と集いし力』終了です!

 みなさんありがとうございました!」


「「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」」


 みんなで終了を喜び、ねぎらう。


 王子は握っていた鉛筆を手放して、興奮さめやらぬ様子で喋った。


「いやあ、続きへのヒキがあるのはいいな!

 これで終わりでなくてまだ先があるというのは、わくわくしていい!」


「なかなかに大規模な物語になりそうでござるな!」


「ハンカチ十枚使い切ったであります〜!」


 楽しそうに語ってくれる。

 聞いていてうれしくなるけど、まだ今日のセッションでやることがある。


「みなさん、経験点の計算は忘れずにやっちゃいましょうねー」


「うむ! この身らのキャラクターの冒険の証じゃ! きちんとつけんとな!」


 経験点を計算する。それぞれの活躍を語り合う。


「メイドの切り札特技がバッチリハマっていて――」


「兵士長さんが守ってくださったおかげで、安心して切り札特技を使えました――」


「女神殿のサポートのおかげで、安定してみんなの盾になれたでござる――」


「大臣の思いっきり作り込んだキャラクターが愉快で――」


「王子の安定した攻撃力があるので、ワガハイはロマンに振り切れて――」


 わいのわいの、盛り上がる。

 みんな文句なく、『よい活躍をした』欄にチェックを入れた。


 それを見届けて、僕は告げた。


「さて。単発セッションであれば、これで終了なのですが」


 みんなの視線が、僕に向く。


「同じキャラクターを連続して使っていくキャンペーンにおいては、この経験点は冒険の記録以上の意味を持ちます」


 みんな、興味深そうに聞いている。

 僕はその期待に応えるべく、説明する。


「この経験点を消費して、キャラクターを強化することができるんです。

 能力値を上げたり、新しい特技を習得したり……

 それまでの冒険の経験を糧に、キャラクターが成長するということですね」


 メイドさんが、ほうと息をついた。


「それまでの、経験を糧に……」


 そうして、キャラクターシートに目を落とす。


「こうやって冒険してきたことが、血肉になって、それだけじゃなくて、これからどんどん冒険するたびに、その経験で強くなっていくってことですよね」


 他のみんなも、興奮したり浮き足立ったりした様子で声を上げた。


「さらなる防御特技を取って、拙者のキャラクターもさらに鉄壁になれるでござるな」


「むふふー! ワガハイのキャラクターももっとド派手に暗黒魔法を彩ることができますぞー!」


「この装備にはこの特技もシナジーがあったんだが、取得しきれなくてあきらめたんだよな……

 特技を増やせるなら、あっちのコンボも試せるな」


「この身はもっとサポートしたいのじゃ!

 攻撃も防御もサポートして、みんなをたくさん活躍させたいのじゃ!」


 盛り上がる。

 みんなの楽しそうな顔を見ると、うれしくなる。

 僕はうなずいて、テーブルに手をついて、言った。


「それじゃあ、やっていきましょうか。

 キャラクターを強化して、強さの水準を上げる――『レベルアップ』の作業を」




 キャンペーンは、まだ始まったばかり。

 キャラクターはさらに強くなって、冒険はどんどん壮大になっていく。

 みんな、続きを楽しみにしてくれている。

 もちろん、僕も。




 ちなみに、いくつものセッションを繰り返して物語をつづるキャンペーンだけど、物語の完結までやりきれないこともけっこうあったりする。

 モチベーションがなくなってしまったり、話の続きを考えられなくなってしまったり、場合によっては参加者同士の仲が悪くなってしまったり、原因はいろいろと。

 ただまあ、一番多い原因は、参加者のスケジュールが合わなくなってしまったというのじゃないかなあと思う。


 その点でいえば、参加者のほとんどが同じお城で働いている今回のキャンペーンは、スケジュール調整がしやすく完走しやすい環境だと思う。

 ただそれでも、イレギュラーというものは起こるわけで。

 セッションをできなくなる状況は、不意に来たりするのであった。

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