第26話 熱がやまない
シナリオを進める。
今回の目玉はバトル。
みんながフルスクラッチした、自慢のキャラクターの強さが際立つような。
「中間戦闘、『識別』判定は成功ですね!
では敵データ公開です、どうぞ!」
「えっ、すごく強い敵がいるんですけど!? 今まで中間戦闘でこんなのいなかったのに!」
「案ずるでないぞ、この身らのキャラクターにかかれば問題なしじゃ!」
戦闘、動く。
「まずは小型モンスターの先手! 鋭い牙が襲いかかります!」
「拙者のキャラクターの『かばう』!
防御特技も使用して、ダメージは0でござる!」
「ええっダメージ受けないんですか!?」
「次はワガハイたちの番ですぞ〜!
『闇色の炎が深淵に揺らめく……呪われし血のあたしの力、受けてみなさい!』敵全体を対象とした範囲魔法攻撃、行きますぞ〜!」
「この身のキャラがサポート特技を使うのじゃ! その『命中』判定の達成値をアップじゃ!」
ダイスを振る。
みんな前のめりだ。
いつものテーブルが狭く感じる。
「その達成値なら全員に命中ですね!
では大臣のキャラクターの攻撃、ダメージは……その数値なら小型の敵はすべて消し飛びます!」
「えっ一撃ですか!?」
メイドさんがいいリアクションをしてくれる。
僕からすれば、想定通り。
小型モンスターは先手を取りつつ兵士長のキャラなら完封できる程度の攻撃力しか持たず、大臣のキャラの範囲攻撃で一気に倒せる程度の耐久力。プレイヤーキャラクターの強さを印象づける引き立て役だ。
そして、残る大型モンスターは。
「――メイドのキャラに続き、俺のキャラも行くぞ!
特技と装備の相乗効果により、ここから二連続攻撃を叩き込む!」
「その火力なら……大型モンスターも、ここで倒れますね!」
「攻撃される前に倒せちゃいました!?」
結果だけ見れば、完勝。
もし動かれたら大きなダメージを受ける代わりに、行動の遅い大型モンスター。このパーティーなら、動かれる前に倒せると踏んだ。
みんなのキャラクターが十全に持ち味を発揮できたからこその、無傷の勝利だ。
ダイスの目が悪くてミスる可能性もあったけど、そうなっても立て直せる余力はあることも計算できている。
こういう決め打ちみたいな構成、人によってはイヤがる場合もあるだろうけど、今回はうまくハマっている。
「ははは、楽しいな! キャラクターが狙った通りに機能するというのは!
このままどんどん行こうか!」
ストーリーを進める。
情報を開示し、ボスの目的と現在地が明らかになる。
「うっうっうっ、本官もう感動が止まらなくてぇ……!
すみません誰かハンカチ余ってないでありますかぁ……!」
「三枚持ってきたのにもう使い切りおったんか」
そして、ボス戦。
「――ボスは全体攻撃魔法を発動! プレイヤーキャラクター全員に攻撃をします!
威力強化の特技も使って、食らえばこのくらいのダメージが出ますよ!」
「まずいぞ、やられてしまう!?」
「ぬうっ、拙者のキャラが『かばう』にしても全員は守りきれんでござる!」
「――わたしが!」
メイドさんが発言する。
キャラクターシートに鉛筆を走らせる。特技の使用欄にチェック。
テーブルから身を乗り出すほどの前のめりで、特技の使用の宣言。
「セッション中に一回だけ使うことのできる切り札特技です!
範囲攻撃の対象を、わたし一人だけに変更します!」
「おお! ならば拙者がそのメイドのキャラを『かばう』でござる!」
「でかしたのじゃメイド!」
「『闇に呪われたこの命が、また生きながらえてしまった……でもあなたたちとなら、もっと生きてもいいと思えるわ』」
キャラクター構築がうまくハマる。
強力なボスの特技をしのぎ、反撃する。
「――その攻撃でボスのHPはなくなります! 撃破です!」
「いよっしゃあ!! やったぞ!!」
王子のキャラの攻撃がトドメになり、戦闘終了。
大熱戦だった。
エンディングシーンも終えて、振り返りと経験点計算。
「やはりメイドの切り札が絶妙でしたぞ! あれは魂がふるえたんですぞ!」
「いえっそんな! たまたまうまくハマっただけで、切り札以外ではパッとしなかったですし使えなかった特技もありますし、それより安定してずっと強かった王子のキャラの方が……」
「まあ俺のキャラは常に効率よくダメージを出せるコンセプトだからな、おおよそイメージ通りに動けた。
だが実際に動かしてみるともう少し微調整したくなるな」
「この身ももっといい感じにしたいと思ったのじゃ! 今回のメンバーならこっちよりあっちのサポート特技の方が役立ちそうだったとか思ったのじゃ!」
「拙者もまだまだ調整したいところが……」
「次からはハンカチ十枚持ってくるでありまぁす!」
話が盛り上がる。
ゲームが終わっても、熱気はやまない。
「……なら、次は」
みんなの視線が、こちらに向いた。
熱気が、やまない。
僕の胸の中から、どんどん熱が上がってくる。
こんなにも楽しんでくれて、密にセッションをしてくれる人たちがそろっているなら。
「これまでのセッション、僕たちは一本のシナリオで物語が終わる、一話完結のシナリオで遊んできました」
全員の視線の前で、僕は言葉を発する。
今回、初めてフルスクラッチをやった。
ステップアップのペースが、早すぎるかもしれない。
でも、きっと大丈夫。
「そうじゃない遊び方があるんです。
同じキャラクターをずっと使って、連続したシナリオを何話もかけて遊ぶ、そんな遊び方が」
熱気が、やまない。
それは僕の言葉を受けて、新しい遊び方に心を躍らせた、みんなの心の熱気だ。
「それは、つまり」
王子が、口を開いた。
「これまでの、ひとつの物語で終わりの小さな冒険ではなく。
いくつもの試練を乗り越えて、最終的に大きな目標を達成するような……たとえば……」
喋りながら、王子の目が、輝いた。
「……勇者が旅をして魔王を討伐するような、そんな大冒険ができるのか?」
がたりと鳴った椅子は、女神様のものだった。
「魔王討伐……!」
強く食いついたような表情。
女神様だけじゃない。他のみんな、兵士長も大臣もメイドさんも、強く興味をひかれた顔をしている。
その表情を見て、僕はうなずいた。
「やりましょうか」
熱が、やまない。
TRPGを深く遊びたいという熱が。
「連続したシナリオで行うセッション群――『キャンペーン』を」
その熱に沿って、僕たちはTRPGを、遊び続ける。
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