第8話 コミカルなシナリオ
一日、準備時間をもらって、次のゲームの準備をした。
一回目のゲームの感触、プレイヤーのみんなの傾向、あとはあの夜、メイドさんが読んでいたリプレイの内容も加味して。
その翌日、つまり今日、二度目のTRPGをやる。
応接室に僕と、プレイヤーの人たちが集まった。
「今日はどんな冒険ができるか、俺は楽しみだぞ!」
「胸躍るバトルがしたいでござるな!」
「わたしも、あの、頑張ります!」
「別に期待はしてないのですぞ! ただちょっと遊んでやってもいいのですぞ!」
あれ、大臣が
「勘違いしないでほしいのですぞ! 異世界人のことを認めたわけではないのですぞ!
ただ王子たちが楽しそうに遊んでて、キャラクターになりきるというのにちょっと、ほんのちょーっとだけ魅力を感じたから、一回くらいお試しで遊んでやってもいいと思っただけですぞ!」
あっ、はい。
あくまでもお試しと言い張る大臣を尻目に、王子が楽しそうに尋ねてきた。
「さて、ゲームマスターよ。今日はどんな冒険をするんだ?
前回ドラゴン退治をして、今回はさらに強力なモンスターと戦うのか?」
「ああ、いえ」
僕は今日のゲームの資料を取り出した。
「今回は、もっとコミカルなシナリオをやりたいと思います。
みなさんは駆け出し冒険者となって、『お騒がせ盗賊団』を捕まえてもらいます」
「ふむ?」
片眉を上げた王子の表情は、期待半分、不信半分。だと思う。
それはそうだろう。こないだドラゴンを倒したところで、今回はただの盗賊団では格が落ちるし、それではつまらないと思うはずだ。
でも。だからこそ。
「こういう方向性のシナリオも、真剣なシナリオとはまた違ったおもしろさがあるんです。
ある意味TRPGの花形じゃないかなって、僕は思ったりするんですけど。
物語がコミカルなら、キャラクターを演じる自由度も高かったりしますし、ロールプレイを楽しみたい人には、変に格式高いよりもコミカルな方が遊びやすいかもしれません」
僕の言葉を聞いて、王子はにやりと笑った。
「なるほどな。演劇においても、えてして主役の若く格好のいい役者より、脇を固める悪役や狂言回しやトラブルメーカーの方が、実力があったりするものだ。
格の低い者を演じる楽しみ、味わってみようではないか」
「王子にとっては、前回も十分格下の役でござるがな」
王子と兵士長が笑い合った。
たぶん、この二人は問題なく、楽しんでくれる。
前回のプレイでも終始安定していたし、シナリオの傾向が変わっても対応できると思う。
気をつけるとしたら、あとの二人。
緊張した顔のメイドさんと、不満そうな顔の大臣。
「今回は、コミカル……前回とは、また違う……でもあの本では、確か……」
「えーワガハイはかっこいい大立ち回りがしたかったですぞー。
小物をちまちま叩くお話しなぞつまらんですぞー」
まずは大臣の方を向いて。
「シナリオヒロインの
「ウォッホン、小物なりのかっこいい生き様、楽しんでみるのもオツですぞ?
別に空想のかわいいおなごと仲良くなることになぞ興味はないですが? そういうのを目指してみるのも一興ですぞ?」
うん、大臣は大丈夫だな。
そして、メイドさんは。
目を向けると、メイドさんはこちらにしっかりと顔を向けてきた。
「……頑張ります! 勉強したので、うまくやります!」
その顔は、意気込みを感じる顔だった。
僕はうなずいて、それから全員を見渡して言った。
「もしもやりづらかったり、困ったりしたときは、どんどん相談してください。
以前に言ったことの繰り返しになりますが、TRPGは全員が楽しむことが目標です。
うまく楽しめないことがあれば、それは全員で協力して、より楽しいプレイができるように創意工夫していきましょう」
全員が見返して、うなずいた。
そこで僕は、ばつが悪そうに頭をかいた。
「なんて、えらそうなこと言いますけど、僕だって完璧じゃないです。
シナリオと相性が悪くて楽しみ切れなかったり、ロールプレイが白熱しすぎて他のプレイヤーをそっちのけにしちゃった経験もあります。
そのうえで、次はもっと楽しめるようにしようって思えるのが、TRPGを楽しむコツなのかなって、まあ僕の持論というか、半分言い訳なんですけど」
つい話が脱線してしまう。
咳払いをひとつして、気を取り直して。
「難しい話は、置いといて。
みんなで仲良く、楽しく、遊びましょう」
みんなが笑顔で、それにリアクションを返してくれた。
キャラクター作成をする。みんな前回とは違う職業やライフパスに。
オープニングを読み上げる。
「剣と魔法がきらめく大陸。
混沌うねる大地はしかし、あまねく希望をその背に宿す。
本日語るはそんな世界のほんの一幕、駆け出し戦士の大捕物。
未熟な胸に大志をいだき、対するはやはり未熟な盗賊。
はたから見れば喜劇なれど、あなどるな彼ら必死なのだ。
――シナリオ『あばよ!へっぽこ盗賊団』。ここに開幕」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます