第14話 「勝ち」

 最終決戦。

 追い詰められた犯罪組織のボスは、自身の体を最後の生け贄としてドラゴンを復活させる。


「――では、マスターシーンを読み上げますね。

『洞窟の奥に到達したきみたちは、広い空間に出る。

 青く光るクリスタルが壁一面から伸び、その中央には、まがまがしいドラゴンが鎮座していた。

 それはボスの成れの果てであり、世界を破壊する力を秘めたドラゴンである。

 だが復活直後で、まだ真の力が出せないらしい』」


 倒すなら今が好機と、みんなが理解する。


「では、『識別』判定を……成功ですね。

 これが、ドラゴンのモンスターデータです」


 提示した能力値に、みんな息を呑む。


「これは……」


「今までの敵とは、明確に違うでござるな……」


「ワガハイたちの攻撃力で、これを倒すには……」


 数値を見ただけで、察する。

 明確に強敵だと。

 そして。


「……でも、やってやれない相手じゃないはずです!

 勝ちましょう! みんなの力で!」


 倒せない相手じゃないと、判断する。

 判断できる。それだけの経験を、これまでのゲームで積んできた。


「……では、最終戦闘、開始します!」


 あとは決意と運命を、ダイスに乗せる。


 バトル。メイドさんの剣士が、大臣の魔法戦士が、切り込む。

 兵士長の盾役がみんなを守り、王子の補助魔法使いが、ダメージ増強や減少をうまく割り振る。

 激戦。激戦。

 その中で、ギミック発動!


「――剣士の持つお守りが、光を放ちます!

 ドラゴンの鱗が焼け、防御力が低下!」


「メイド殿、それは確かあの少年からもらったものではござらんか!」


「はい……! 途中のイベントで、友好度が一定以上に達しましたって言われて……!

 えっと、つまり、あの子が力を貸してくれているんですね!」


「ここは攻め時ですぞ〜!

『みんな、今だわ! あたしに続きなさ〜い!』」


「キャラクターとしてツッコむぞ、『おまえが仕切る場面ではないだろう』」


 ダメージを押し込む。

 行動宣言に、ダイスを振る手に、キャラクターシートにHPヒットポイントをメモする手に、力が入る。

 そして、ついに。


「――ぴったり! ぴったりです!

 その一撃でぴったりドラゴンのHPがゼロに! 倒れます!」


「や、やったー!!」


 歓声。

 みんな両手を上げてはしゃぎ、ハイタッチをしたりした。

 メイドさんから王子へ、それから大臣へ、兵士長もメイドさんへうなずき、そうしながら王子とガッチリ握手したりした。

 はしゃいでいたメイドさんがはっとして、ご無礼をと謝って、何を水くさいことをと王子が笑い飛ばした。

 そしてまた、みんなではしゃいだ。


 そうして、エンディングを演出して。


「――これにてシナリオ『邪悪竜の儀式と封印の少年』終了です!」


「ありがとうございましたー!!」


 わっと、みんなで笑う。

 みんな口々に、喋り出した。


「わたし、最初すごく緊張したんですけど、楽しかったです主人公役!

 攻撃も楽しくて、あのっ、王子のサポート、すごくありがたかったです!

 攻撃したときにすごいダメージが出て、気持ちよかったです!」


「いやあ、あのときはダイスの目がよかった。

 大臣こそ、女性キャラクターのロールプレイが様になっていて、可憐だったぞ」


「いやいや、いい歳したおじさんがついノリノリで年ごろの女子を演じてしまって、お恥ずかしい限りですぞ。

 対照的に兵士長は冷静沈着ですぞ! 盾役として華麗に立ち回っていて、見事でしたぞ〜!」


「なんのなんのでござるよ。拙者は演劇は王子や大臣ほどではないでござるから、役割をこなすのに注力しただけでござる。

 しかし今回はメイド嬢がかっこよかったでござるな! 全部を見捨てないと決めたあの口上、しびれたでござる!」


「そんな、あのっ、わたしあのとき夢中で!」


 本当なら、今は経験点計算として、僕が取り仕切ってみんなに活躍を語ってもらうんだけれど。

 そんな必要もなく、そういうタイミングだからとか関係なく、自然にみんなそれぞれの活躍をほめたたえている。

 いいセッションだった。掛け値なしに。

 本当に、楽しかった。

 

「だから、あの、つまり!」


 余韻にひたっていたら、唐突に。

 楽しく会話していたみんなの顔が、こちらに向く。

 みんな、やりきったという、すがすがしい笑顔で。


「夢中にさせてくれるゲームをありがとう、ゲームマスター!!」


 僕は、つい、きょとんとしてしまった。

 それで浮かんできた笑顔は、きっと不恰好だったけど、間違いなく本心から、笑っていた。


「……どういたしまして。そしてこちらこそ、ありがとうございます。

 僕も、とっても、楽しかったです!」


 みんなで、笑う。はしゃぐ。

 それは勝利の喜びだ。

 ここにいる全員が、間違いなく、楽しかったんだ。

 つまり、このTRPG、「勝ち」なんだ。


「――では、経験点の計算は問題なしですね!

 忘れずチェックをつけておきましょう」


 全員が鉛筆を走らせ、キャラクターシートの『よい活躍をした』欄に、堂々とチェックを入れた。

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