第6話 「よい活躍をした」

 夜。

 あてがわれた、お城の客室の一室で。


「ふー……」


 僕はベッドに寝っ転がって、充足したため息を吐いた。


 ごはんはおいしかった。お腹いっぱい。

 けれど一番に胸を満たすのは、今日のTRPGのこと。


「みんなの初セッション、楽しかったなあ……反省点もあったけど……」


 つぶやきながら、今日の冒険を記録した紙――レコードシートを見返す。

 セッションのひとつひとつを、思い返していく……




   ◆




 ドラゴン退治の冒険。みんなは腕利きの冒険者。

 冒険者が集まる酒場で情報を得る、という情景を伝えた。


「町娘がみなさんに、涙ながらに訴えます。

『黄金の鱗のドラゴンは町中を荒らして宝石を強奪し、洞窟の中に貯め込んでいるんです。

 その中には、母の形見の指輪もあるんです。

 どうかお願いします冒険者さん、私たちの宝石を取り戻してください』」


 町娘のロールプレイをすると、みんな感嘆していた。


「最初の語りもよかったが、演技も素晴らしいな」


「拙者の目には、可憐な町娘が見えたでござる」


「わたしよりも、女性らしいかもです」


「みすぼらしい異世界人と思っていたのですが、男が演じるおなごというのも……なかなかグッとくるものですぞ〜」


「いやあ、ははは」


 なんだかめちゃくちゃほめられた。

 あれ、今、しれっと大臣いなかった?


 町娘のセリフを受けて、王子。


「俺のキャラクターは、『貧乏な生まれ』で『一攫千金を狙うため』に冒険者を志したから、こんな返答だな。

『人助けには興味がないが、金目の物を貯め込んでいるなら、取り戻せば分け前がもらえるだろう。

 報奨金も出るだろうし、黄金のドラゴンの鱗とあればそれ自体が価値の高い物に違いない』」


「王子っ、王子ともあろう方がはしたないでござるぞ!」


「兵士長、これは役柄だぞ。ごっこ遊びと言われたではないか。

 まさか悪役を演じる役者が、プライベートでも悪人だと思っているわけでもないだろう」


「そうでござるがー……」


 王子はノリノリだ。

 嬉々として、普段と違うであろうキャラクターを演じている。


 そして洞窟に向かい、戦闘。


「ドラゴンの眷属二体が攻撃をしてきます!

 攻撃対象はダイスで……王子の軽戦士と、メイドさんの癒し手!」


「ぬぅ、拙者の『かばう』能力は一人しか守れんでござる! ここは王子を……」


「待て兵士長。俺はこの攻撃を受けても早々に死にはしない。

 癒し手を守った方が、効率がいいだろう」


「えっ、そんな、王子を差し置いてわたしが守られるんですか!?」


 このへん、普段の身分があってやりにくそうだったな。


「えっと、わたしの手番ですか……?

 あの、どうしましょう、回復……ですか?」


「拙者よりも王子を回復するでござるよ」


「え、えっと、それでいいですか?」


「ダメージは兵士長の重騎士より、俺の軽戦士の方が受けているんだよな? なら妥当な判断だ」


「はいっ、では、王子を回復します!」


「ありがとう。……いや、今の俺は一攫千金を狙う貧乏人だからな。

『俺に恩を売っても、返す物は何もないぞ』……くらいにしておくか」


「あのっ、王子、普段よりワイルドで、かっこいいです……!

 あっいえ! 普段の王子がかっこよくないわけではなく!」


 そんなこんなで、冒険は進み。


「確認でござる! ゲームマスター!

 さっきの説明では、剣を両手で持てばダメージが増えると言っていたでござるな!?」


「兵士長、何を!?」


「盾を捨てて、剣を両手持ちに替えるでござる!

 このまま長引けば、拙者は耐えても王子たちがもたんでござる!

 行くでござるぞ! ドラゴンに攻撃ー!」


 ダイスを振るという名の、殴り合いを続け。


「……ではその攻撃で、ドラゴンの致命傷に届きます!

 ドラゴンは咆哮ほうこうを上げますが、それを最後にぱったりと倒れ伏しました!」


「よし! よし! よし!」


「やったでござるな王子! お見事!」


 王子と兵士長が歓声。メイドさんはほっとして。

 エンディングをやって、終了処理。


「では最後に、経験点の計算をします」


「経験点?」


「そのセッションでの経験や目的の達成度合いなんかを数値にして、キャラクターを成長させるポイントになるんですが……

 今回はドラゴンを倒したり、依頼を達成したというのも計算されますが、算出項目に『よい活躍をした』というものがあります。

 これは戦闘で活躍したり、盛り上がるロールプレイをしたり、あるいはデータ管理や、相談の取りまとめなんかも含めます。

 ぜひみなさん同士で話し合って、他のプレイヤーがどんな活躍をしたか、振り返ってみてください」


 王子と兵士長は互いに見合って、それから笑った。


「兵士長の戦いぶりを活躍と言わずしてなんと言おう!

 味方を『かばう』勇姿に、最後は盾を捨てて決死の覚悟で戦う意気!

 もしああしなくて倒すのが一歩遅れていたら、俺たちの方が死んでいたかもしれない!」


「王子こそ、自分とは違う出自の人間を演じる姿、堂に入っていたでござるよ!

 最初こそハラハラしたでござるが、わくわくしたでござる!」


 二人でわいわい話し合って。

 それから、メイドさんの方に向き直った。


「回復も助かったぞ! 癒し手がいなければ、早々にやられているからな!」


「あ……」


 メイドさんは、一瞬きょとんとして。

 それから、ふんわりと微笑んだ。


「……はい。お役に立てたなら、よかったです」


 レコードシートの『よい活躍をした』欄に、全員がチェックを入れた――




   ◆




 うとうととしながら、反省点を考える。


(戦闘バランス、カツカツだったな……

 レベル1用の適正データだったけど、全員慣れてないから、最適行動が取れてないことがあった……

 ルールミスならともかく、プレイミスは指摘しづらいんだよな……行動を誘導してるみたいで……)


 それから、最後の経験点計算。


(よい活躍で挙げられたの、『王子のロールプレイ』と『兵士長の判断』に対して、『癒し手の回復』なんだよな……

 メイドさん、行動を逐一確認してて、自発的に動いてた感じじゃなかったし……でも数合わせで急に誘われたんだし、仕方ない……かな……)


 そのまま、いつの間にか眠ってしまった。

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