第23話 シナリオ改変
何日か空けて、またいつものメンバーでのセッション。
今日のゲームマスターは、兵士長。
「――シナリオ『盗賊団のからくり砦』。ここに開幕でござる」
公式シナリオのひとつ。
遊びながら、王子が楽しそうに笑った。
「なるほど。今回のシナリオは、判定を繰り返して仕掛けを解いていくタイプか。
パズルをやっているようで、これもまた楽しいな」
「この身のキャラは判定を手助けする能力が豊富じゃぞ! 存分に頼るがいい!」
ダイスを振り、その出目でみんな一喜一憂する。
そう。このシナリオは判定による進行を楽しむのが中心のシナリオ。
ロールプレイによって情報を集めたり、劇的な物語に驚いたり悩んだりといったタイプのものではない。
それはつまり、内容を知っていたとしても、おもしろさが目減りしにくいものだった。
内心、にやりとしてしまう。
僕が楽しめないんじゃないかという懸念に、こういう応え方をしてくれた。
そういう心遣いが、うれしい。
シナリオが佳境へと進んでいく。
「盗賊団はお宝の部屋を守るべく、とっておきの仕掛けを起動させるでござる。プレイヤーは判定で――」
内容を伝えながら、ふと兵士長の言葉が止まる。
どうしたのかと、僕たちは兵士長の方を見た。
兵士長は、手元のシナリオ集とメモ書きに目を落として、うーむとうなっている。
それからややあって、目線を僕の方に向けて、尋ねてきた。
「ひとつ、提案なのでござるが。
この盗賊団の戦力と技術力を整理したとき、どうにも効率のいい配置をしていない気がして、気になるのでござる。
もし可能なのでござれば、シナリオを少しいじって、より万全の体制を取らせてもよいでござるか?」
横で聞いていた王子が、ほう、と声を上げた。
メイドさんの少し不安そうな視線や、女神様のうかがうような視線を感じる。
少し、考えて、尋ねた。
「それは、ゲームの難易度が、上がることになる?」
兵士長は、おそらくは、とうなずいた。
難しい判断だ。
土壇場の急なシナリオ調整は、ゲームバランスを崩してしまうかもしれない。
それはクリアできるできないの問題だけではなく、楽しいゲームプレイができるかの保証もなくなってしまう。
普通なら、おすすめしない。
けれど今回のセッション、このメンバーにおいては、どうだろう。
迷っていたところに、声がかかった。
「いいではないか。
俺たちのキャラクターも余力があるし、多少敵が強くなっても歯応えがあっていいだろう」
王子。
僕も兵士長も、他のみんなも、王子に視線を向けた。
王子は自信に満ちた笑みを浮かべて、堂々と言った。
「やってやろうじゃないか。
兵士長の本気の戦略に、真っ向から挑戦すればいい。
よしんばそれでクリアできなかったとしても、それはそれとして全力の挑戦を楽しめばいいし、もしも楽しめなかったのなら次はどうすれば楽しめるか考えればいい。
俺たちは、何度でもゲームをできるのだから」
にっと、笑って。
みんな、王子のその顔を見ていた。
そして最初に反応したのは、メイドさんだった。
「わたしも、やれます。キャラクターの
全力で戦いたいですし、兵士長さんの提案に、応えたいです……!」
それに呼応して、女神様や大臣も。
「うむ。やってやるのじゃ!
限界まで攻めたヒリつく冒険など、めったにやれるものではないからの!
ゲームだからこそ、そういう戦いがあってもいいものじゃ!」
「もしもやられるようなら、死にゆく戦士のかっこいいロールプレイをするだけですぞ!
『ああ、あたしの暗黒深淵魔術が、散ってゆく……呪われた生から、やっと、解き放たれる……』あっなんかむしろ負けロールやりたくなってきましたぞ!」
それぞれに、盛り上がる。
場があったまって、期待に満ちた雰囲気になった。
そしてみんなの視線は、僕に向く。
ああ。
こんなに期待されたら、ダメと言えるわけもない。
それに僕も。
「分かりました。認めましょう、シナリオの改変。
ここで遊んでいる全員がそうしたいと思っている以上、ダメと言う理由もありません」
僕だって、遊んでみたい。
兵士長の考える、万全の戦略の敵と戦うシナリオ。
みんなの賛成を受けて、兵士長はうなずいた。
「ありがたいでござる。
しからば、ゆかせてもらうでござる」
兵士長はメモ書きを広げる。
細かい字や図がびっしりと書かれた、専門外だから分からないけど、たぶん戦略図みたいなもの。
本物の軍略家みたいに――兵士長なんだから、本当に本物なんだけど――兵士長は、敵兵の行動を告げた。
「盗賊団は侵入者を排除するため、とっておきの切り札を持ち出し――」
全員のわくわくが、空気で伝わる。
その中で僕は、違うことに心を躍らせていた。
――俺たちは、何度でもゲームをできるのだから。
王子の言葉。
当たり前のように、これからもゲームをできると。
ゲームをやる気があると、思ってくれている。
そのことが、うれしい。
だから、ひとまず。
不慮の事故には。具体的には積み上げた本の雪崩の下敷きになるようなことは、もうないようにしよう、なんて思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます