第34話 アイデアと想像力で

 オンラインセッションの準備を行う。

 それほど煩雑な準備じゃない。通信環境を確認。

 インターネットならチャットアプリやダイスボットが正常に動作するか、マイクがきちんと音を拾うかとか確認するんだけど、今ここにおいては、女神様の水晶玉がちゃんと機能するか。

 あとは、スケジュールの調整とか。


「俺たちだけで、女神様の加護を独占するのもしのびないからな。

 他の兵士たちも、家族や友人と話したいだろう。交代で使うといい」


 水晶玉の通信をいつ使うか。

 使用状況と女神様の余力、それに参加者全員の空いている時間を確認して、そこに予定を立てる。


 そしてセッション当日。

 いつもの応接室には、僕と王子と大臣。

 そしてテーブルに置かれた水晶玉の向こう、遠征先で兵士長とメイドさんが、そして神殿では女神様と神官さんが、スタンバイした。


『こちら、準備完了でござる。いつでも始められるでござる』


『この身らもいつでもオーケーじゃぞ!』


 全員の準備が整ったことを確認して、僕は参加者たちに声をかけた。


「それでは、やっていきましょうか。

 なにぶん普段と違うやり方なので、不都合があるかもしれません。もし何かあれば、どんどん言っていきましょう。

 始める前に、みなさんキャラクターがレベルアップして、やれることが増えています。

 参加者間でやれることをすり合わせるため、それぞれどんな成長をしたか、キャラクターの紹介をしていきましょう。

 そうですね、PC番号順に、メイドさんから」


『はっ、わっわたしからですか!?

 わっ分かりました、えっとわたしのキャラは――』


 それぞれに自己キャラクター紹介をする。

 個性を伸ばしたり、物足りなかった部分を補ったり、選択肢を増やしたり。

 それから僕は、オープニングを読み上げる。


「――キャンペーンシナリオ『虹を架ける勇者たち』。第二話『侵略の闇、世界を覆う暗雲』。ここに開幕」


 進めていく。

 参加者の半数以上が顔の見えない中で。


「ゲームマスターよりみなさんへお願いです。

 オンラインセッションの中でも、今回のように声だけで行う『ボイスセッション』では顔が見えない分、誰の発言か、誰に向けての発言かが分かりにくくなります。

 できれば今僕がしたみたいに、誰の発言か分かりやすく言ってもらえると助かります」


『兵士長よりゲームマスターへ、了解したでござる』


「大臣より全員へ、ロールプレイいきますぞ〜!

『暗黒が共鳴してる。あたしの中の闇がうずいてる。でもパパとママとの約束だもの、あたしは絶対に屈したりしないんだから!』」


『大臣は言わんでも丸わかりなのじゃ』


 笑い合う。白熱する。

 ゲームは進む。


『兵士長よりゲームマスターに質問でござる。

 今の説明だとこの仕掛け、無理やり壊して進むこともできそうでござるが』


「試してみます? と言いつつ、ゲームマスターは顔がにやにやしていますと言っておきます」


「あからさまに罠だろうな。こんなに分かりやすい穴を、このゲームマスターが放置しているはずがない」


『あのっ、メイドより提案なんですけど。

 わたしのキャラクターの持っているアイテムで、『器用』判定に有利になるアイテムがあるので、それを使って調べれば……』


『判定するならこの身のキャラにお任せじゃ! サポート特技を使うのじゃ!』


 みんな、活発にアイデアを出してくれる。

 顔が見えないオンラインセッションでも、みんなの表情が目に浮かぶくらいに。


「――大臣はロールプレイするのですぞ! そのNPCに言うのですぞ!

『その程度の闇の侵食で、へこたれてるんじゃないわよ!

 あたしなんて生まれたときから闇をかかえてて、それでもパパとママに約束して乗り越えようとしてるんだから!

 だから……あんたがそんなに苦しいなら、その苦しみも、あたしが全部支えてあげるわよ!』

 そう言って手を取って、この場所から連れ出すのですぞ〜!」


「あっ連れてきます? どうしましょうか、それは想定してなかったんですけど」


『すみません、わたしも、メイドからもお願いしたいです。

 一緒に連れて行ってあげた方が、きっとこの人も助かる道が見つかる気がするんです』


『兵士長よりゲームマスターへ提案でござるが、このNPCがこの場を離れられん理由が……でござったら……の情報で……』


「あ、確かにそうつなげば、この人がついてく理由になりますね。

 んー……分かりました。そういうことなら、この人のパーティへの同行を許可しましょう」


『うっうっうっ、神官は泣いているであります……!

 みなさんの知恵と勇気と優しさが、この人に救いの道をもたらしたのでありますねぇ……!

 この人の心情がもう、ひとりでに想像されて、涙がどんどんあふれてくるであります〜!』


『あいかわらず聞いてるだけで楽しそうじゃのー神官』


「王子から提案だが、神官にそのNPCのロールプレイをしてもらったらいいんじゃないか?

 その想像力を表に出してもらえれば、俺たちも楽しそうだ」


『いいんでありますか!? え、いいんでありますかゲームマスター?』


「神官さん、やれそうです? ならゲームマスターとしては、全然オーケーですけど」


『はっ、そうまで言われますれば! 不肖神官、ロールプレイさせていただくであります!

『うっうっうっ、こんなに気にかけてもらえて、本官は幸せ者でありますぅ……!』』


『いや神官そのままじゃろうが』


「このNPC、職業が神官だったことにしときましょうかねー」


 物語が進む。

 戦闘に入る。


「いつもの戦闘マップが見えなくて使えないので、今回は簡易マップでやりますね。

 座標は直線方向のみ、PCグループのブロックから二マス離れて敵グループ――」


 今できることで、できるセッションを行う。

 インターネットのオンラインセッションなら画像共有が使えるものもあって、そういうのがあるといつもの戦闘マップも使えたりするけれど、ないならないでやりようはある。

 システム自体にやり方が規定されていることもあるし、なければアイデアと想像力でおぎなえばいい。

 もともと、TRPGってそういうものだ。

 紙と鉛筆と会話で、大冒険をするゲーム。


『『かばう』からの反撃特技を使うでござる! 攻撃してきた敵の防御力を下げるでござる!』


「射程は届くな? なら俺は投擲武器で攻撃するぞ!

 武器の効果と特技の効果を合わせて、モンスター二体に二連続攻撃を叩き込む!」


『補助魔法も持っていけなのじゃ! 威力強化の特技を後乗せたっぷりなのじゃ!』


 ああ、やっぱり楽しいな。

 元の世界でもこの世界でも、オフラインでもオンラインでも、TRPGは、楽しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る