第51話 閉会式

 それから、コンベンションは進んでいった。

 女神様の卓をうまく進行させて、他のテーブルのセッションの様子も見て回ったり。

 メイドさんも、お茶やお菓子を配って回ったりとたくさん動いてくれた。

 卓につく行商隊長さんが、お菓子の包みを開きながら貼りついた笑みを浮かべた。


「んっふっふ、なるほどセッションの際は手や紙を汚さないよう、個包装のお菓子が好まれるんですねぇ〜。

 こうしてセッションの機会が増えるのであれば……んっふっふ、商機が見えましたねぇ〜」


 そして別のテーブル、ぎゃーぎゃーと騒ぎ。


「カップをひっくり返して、お茶をこぼしたんですぞ〜!」


「盛り上がりすぎたでありまぁす! ロールプレイに熱中しすぎたんであります〜!」


「……んっふっふ、ふたのできる飲み物の容器も、需要がありそうですねぇ〜」


 そうして、セッションは進み。

 各テーブルの進行状況と時刻を確認して、僕は全員に呼びかけた。


「それではみなさん、すべての卓が終了もしくは終了間際となっています。予定の時刻通り、閉会式を行いたいと思います」


 みんなの視線が、こちらに集まる。

 一礼して、あいさつを述べた。


「まずはみなさん、TRPGをとても楽しんでくださったようで、うれしく思います。合間合間に見て回っただけでも、みなさんがそれぞれに楽しんでいるのが伝わりました。

 ただ僕も断片的にしか分かりませんし、みなさんも他のテーブルのセッションがどんな様子だったかは分からないと思います。

 そこで各テーブルのゲームマスターさんには、自分のところのセッションがどんな様子だったか、クリア状況や見どころ、印象的なことなど、教えていただきたいと思います。

 それではまずは、王子から」


 うながすと、王子はうなずいて立ち上がり、今日の見どころを語った。


「まず結果でいえば、大成功のセッションだった。

 古代遺跡での宝探しをするというシナリオだったんだが、宝の獲得、ボスの撃破、さらに隠し財宝の発見までこなしてみせて、俺の期待を上回る大盛り上がりだった。

 途中、罠を起動させてしまってリソースが苦しくなる場面もあったが、それで安全策を取るか果敢に攻めるかの相談がロールプレイもまじえて白熱して、ゲームマスターの俺が見入ってしまうほどだった。

 経験点計算も完了し、互いの活躍をてらいもなくほめたたえて、最後までなごやかな卓となった。

 同じ城にいても普段ほとんど顔を合わせない者もいたが、これをきっかけに人となりを知ることもできたのではないだろうか」


 王子がテーブルに目を向けて、プレイヤーの人たちも満足そうにうなずいた。

 僕からゲームマスターに感謝を伝えて、次は大臣の番。


「こちらのセッションはなんとかエンディングまで済ませて、あとは経験点計算だけですぞ! ついつい白熱しすぎて長引いてしまったんですぞ!

 今回のシナリオは愛憎渦巻くシティアドベンチャー! 魂の叫びを繰り広げる白熱のロールプレイがあらたなロールプレイを呼び寄せて、みんなでのどが枯れるほど熱中したんですぞ〜!

 熱いロールプレイを返してくれるプレイヤーがいる一方で、そこまでのロールプレイをしない人間も適切な意見提案をしてくれたりデータ管理で活躍してくれたりと、少なくともワガハイの目から見て全員がきちんと活躍したいいセッションだったんですぞ!

 ワガハイのテンションについてきてくれたみんな、よくやったのですぞ!」


 大臣の呼びかけに、テーブルの面々がうぇいうぇいとはしゃぐ。

 そして最後に、女神様。は、むすりとした顔で立ち上がった。


「えー、大成功っぽい他の二卓に比べて、こちらはさんざんだったのじゃ。

 まず中間戦闘! バランスきちんと見てもらってたのに三連続ファンブルってなんなんじゃ! 予定が全部パーになったのじゃ!

 それでTRPG隊長に軌道修正してもらってなんとかかんとか最終戦闘までたどりついたら、今度はクリティカル三連発じゃ! ボスが全力出す間もなく溶けてったわ!

 それで早くに終わりすぎたから今までこの身のトークショーで場をつないでたのじゃ!

 なんなんじゃ!? この身、神じゃぞ!? なんで神が運命に翻弄ほんろうされんといかんのじゃ!?」


 むきーっとわめき散らして、それからスンッと落ち着いて、両手でピースをしてみせた。


「でもプレイヤーがゲラゲラ笑ってくれたから結果よしじゃ」


 テーブルのプレイヤーたちが、ねぎらうように女神様に笑ってみせた。

 なごやかっぽい。一時はどうなるかと思ったけど、よかった。


 すべての卓の様子を聞いて、あとは僕のあいさつ。


「重ね重ねになりますが、みなさんが楽しんでくださる様子を見られたことが、主催の僕にとっても一番うれしいことです。

 できればこの一回にとどまらず、二回三回とイベントをやりたいなと思いますが」


 楽しみにしてるぞ、と野次よりの激励。

 頭を下げて返答して、それからみんなに呼びかけた。


「まずはこのコンベンションを、きちんと終わらせたいと思います。

 最後まで終わっていないテーブルは最後まで楽しんで、終わったところは後片づけをしていきましょう。

 キャラクターシートはぜひとも持ち帰ってください。今日の冒険の、みなさん一人一人の記録で、証明です」


 プレイヤーの何名かが、自分のキャラクターシートに視線を落とした。

 その表情を見て、うれしいような微笑ましいような気持ちが上がってきて、けれどその気持ちを表すのはそこそこに、イベント主催者として締めの言葉を述べた。


「それでは、厳密にはまだ終了ではないかもしれませんが、締めのあいさつをして閉会式としたいと思います。

 みなさん、ありがとうございました!」


『ありがとうございました〜!』


 みんなの声が重なる。

 その感謝の声は、とても気持ちよく響いた。



 異世界にて、初めてのコンベンション。無事に閉幕。

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