第27話 アプリコット


「青木、悠里、もう大丈夫だ」


放課後、青木徹也と石井悠里が職員室へ来た。糸原はテストの丸つけをする手を止めて二人の方を向く。


「先生の方こそ大丈夫なんですか?」


「処分は免れないと思う。そもそも今月で辞職する予定だった」


糸原は、先生を辞める予定だった。思ったような結果は得られなかったが【もう1人の問題児も誰か分かった】。香里奈の件は、もうじき解決出来る。


「結局青木くんに盗聴器を渡したのは誰なんですか?」


「大丈夫。元から【3人目】なんていなかった」


「いなかった?」


「うん。朝の件は、香里奈の件に関わっている人を探すための行動だった。僕は石崎香里奈のノートを読んで、三人の生徒が関わっていると考えた。でも名探偵水流でも三人目は見つけられなかった。だけど今回の行動で三人目はいないことが分かった」


「あいつ探偵だったんすか!?」


悠里と青木は驚きの声を上げる。そして青木は、石崎のノートについて聞いた。


「そういえばノートはどこで手に入れたんすか?確実に香里奈の文字だし」


糸原はきっぱり答えた。


「本人から渡された」


「やっぱり石崎香里奈は糸原先生のところにいるのですか?」


糸原は首を横に振って否定する。


「詳しく言うと、先生になる前は【そういう仕事】だった。香里奈は依頼主だった。ノートは本人に書かせた。でも今は行方不明だ」


「そういう仕事って先生も」


その先の言葉を止める鈴木先生。


「糸原先生。仕事溜まってますよ。早くやらないと残業確定です」


「あー、そうだったそうだった。ごめんな2人とも。先生の昔のことは【そのうち】分かるから2人とも部活に行ってくれ。時間取らせて申し訳なかった」


「そ、そんな」


糸原は2人を職員室から出そうとする。忘れてはいけない。糸原は職員室でも盗聴されている。


「あー、ごめん。青木は課題が提出されてない件で少しだけ話があるから残ってくれるかな」


「ば、バレたか。先生忙しいんじゃないっすか」


「忙しくさせてるのは誰だと思ってる。全員課題出してることが最初から分かれば名簿に記録していく必要なんてないんだよ」


「じゃ先生、私は部活に行きます」


「うん。時間取らせて申し訳なかった」


青木は嫌な表情で残る。悠里は友達と部活に向かった。


「で、青木、課題の件なんだが」


糸原は青木を席に座らせるとパソコンを打っていく。青木は文字を見て目を見開く。


『私の机にも盗聴器が仕掛けられている。以後発言には気をつけなさい』


「課題はいつ出しますか?」


「え、えっと明日に出します」


『実はこちらも複数盗聴器と隠しカメラを仕掛けさせてもらっている』


糸原が盗聴器と隠しカメラを仕掛けたのは職員室、保健室、校長室、教室の4箇所である。


「明日出すように。ちなみに他の科目はどうなんだ?」


「えっと、英語が終わってないっす」


『だけどもう1つ盗聴器を仕掛けたい。それを青木にお願いしたい。それは、』


青木はその続きの文を見て驚いた。糸原は冷静に聞いた。


「英語の成績1になりますよね、鈴木先生?」


英語の先生、鈴木先生は笑みを見せてキッパリと言った。


「1ですね」


さて、いない3人目を見つけよう。


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