第32話 サネカズラ
「聞きたいことが一つだけある。香里奈とは親友ではなかったのか?」
「友だちでも親友でも何でもない!私は常に成績上位でなければならなかった。だから香里奈が邪魔だった。だから、だから」
石井は涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる。糸原は石井の頭に優しく手を置く。
「香里奈は言っていた。石井は、入学して初めて出来た大切な友達だと。そこに成績の評価は絡んでいない。もう一度だけ聞く。本当に香里奈は友達じゃないのか?考えてみれば石井は香里奈には何も手を加えてない。自らが青木の監視役になることで、守ろうとしていたんじゃないか?虐待の怖さは石井が一番知っている。警察などに相談しても無駄なことを知っている」
「やめて!」
虐待の怖さ。石井の家族関係が崩れたのは、父からの虐待とDVが原因だった。母親は悠里を連れて家を出ていこうとしたが、母親は病気持ちで、子どもを育てていけるお金が無かった。母親は1人で家を出ていくことになり、帰ってくることは無かった。
その後、近所からの通報により悠里は3年間施設で過ごすことになる。そして父親からの希望、それに悠里も承諾して再び家に戻ることになった。父親からの虐待はなくなったが、それでも成績が落ちると手を出すことがあった。
「このナイフ。私を殺すために持っていたわけではないよね。これで石崎徹を殺す予定だった。この後石崎徹と会うことは石井の家に置いてある盗聴器で確認済みだ」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
石井は泣いた。そして何度も謝った。
・・・・
石井を車に乗せる。石井は、自販機で買ったお茶を飲んで大きく深呼吸をした。
「ちなみに盗聴器を仕掛けたのは青木だ」
「あの日……ということは青木は私よりも糸原先生を信用したんですか?」
「うーん、先生というよりは香里奈を信用したのかな」
「香里奈を?」
「うん。あっ、コンビニ寄りたいから少し遠回りさせてもらう」
糸原はわざとらしくそう言うと待ち合わせのコンビニに車を走らせた。毎日アイスを買って帰る、いつものコンビニ。
駐車場に車を止めると、糸原はスマホで連絡を取る。その様子を不思議に見つめる石井。
「石井。1番会いたい人に会わせる」
「1番会いたい人?」
糸原と石井は車を降りてその人を待つ。一人の女の子がコンビニから出てきて歩いてくる。そして石井に向かって手を振る。石井は目を丸くする。
「悠里!」
「香里奈!」
そこにはコンビニ袋にアイスを入れた香里奈がいた。
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