第12話 アネモネ

糸原は、クリオネのキーホルダーを分解して盗聴器を取り外す。取り外したことはバレるかもしれないが、直接聞いてくることはしないだろう。


「金森先生が、なぜ?」


糸原が指でOKサインを出すと鈴木先生がほっとため息をついて聞いてきた。色々知りたいことはあるだろうが、今話しても理解出来ないだろう。


「鈴木先生に盗聴器を付けたのは念の為だと思います。目的は私の盗聴です」


糸原はバラバラにされたキーホルダーの中の小さな箱を鈴木先生に見せる。ここまで巧妙に作られているものは相当高価であると感じる。


「全てを話すと長くなるので実際に私の家に来てもらった方が早いと思います。まだ時間ありますか?」


糸原は鈴木先生を信じることに決めた。本来であればまだ時間が欲しかったが、思っているより向こう側の動きが早かった。


「はい。糸原先生の家に行きます」


鈴木先生は糸原の家で思わぬ人物に出会うことになる。


・・・・


コンビニでいつも通りアイスを2つ買う。新発売のパリパリチョコアイスだ。新発売や期間限定という言葉には弱い。


鈴木先生は糸原の家に来るという嬉しさと、疑問を抱えながら階段を上がる。


糸原は玄関のドアの前で、再度確認する。


「まず、何を知っても驚かないでください」


「はい」


鈴木先生の覚悟を決めた表情。糸原自身、鈴木先生を連れてきたことを今後悔している。しかし、何より時間が無い。


糸原たちは部屋の前に立つ。糸原はドアをリズムをつけて叩く。すると、ドアの向こうから別のリズムで返ってきた。


「合図のようなものです」


不思議そうに見つめる鈴木先生に、糸原は鍵を入れて回す。中からはテレビの音が聞こえてくる。


「ただいま」


ドアの向こう側から「おかえりなさい!」と声が聞こえて女の子が笑顔で糸原を見る。


そして、隣にいた鈴木先生に驚いて硬直する。一方の鈴木先生も驚きのあまり声が出ない。頭の処理が追いついていかない。


ポニーテール結びからボブになり、写真との印象は変わっている。しかし、子どもっぽい可愛さと写真から想像出来る笑顔が脳内で結びつく。


「あなたは…」


女の子は柱の後ろに立ち、まじまじとこちらを見つめてくる。そして何かを訴えるかのように糸原先生を見る。


「大丈夫。この人は安心だよ」


鈴木先生は目の前に立つ女の子の名前を呼んだ。


「石崎香里奈…」


香里奈は首をちょこんと縦に小さく振った。

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