第36話 ガーベラ
「伊藤陽葵さんは誰かによって殺されました。その事件を解決するために私は探偵になりました。もう一度だけ聞きます。伊藤陽葵を知っていますか」
石崎徹の口元は笑っていた。糸原は確証を得た。石崎徹を辿っていけば陽葵の名前はある。
「そうか。君は陽葵さんの知り合いか」
「……!」
糸原は拳を上げた。警察が慌てて糸原を止めようとするが間に合わない。
糸原は、石崎徹の顔面スレスレでその拳を止める。糸原の推測は間違ってはいなかったようだ。
「まぁ陽葵の件はいいでしょう。本題に戻ります。あなたは仕事のストレスから家族に対してDVや虐待をしていた。理由は仕事が上手くいかなかったから。あなたが認められるにはお金が必要だった」
石崎徹は有名な教育者であるが、石崎徹の考えは中々学会で認められることがなかった。石崎徹はストレスで妻をDV。香里奈とその姉を虐待。姉が、父から逃れるように大学進学するとそれがエスカレートしていった。
「あなたは教育学会の裏で不審なお金の流れがあることを知る。そして売春が行われていることを知った。あなたは娘を売春に出して、得たお金を教育学会に流していた。そのお金で偉い大人たちから評価を買った」
石崎徹の研究は、結論として日本の学力を向上させることになったが、認められるには時間がかかった。それには裏金に関する大人たちの権力が関係していた。
「私の研究が認められるにはお金が必要だった。私は娘を評価の道具として使った」
今度は本気で殴ろうとした。その拳を引き、殴ろうとした時、
「先生、やめて」
糸原の拳を香里奈が止めた。そして香里奈が父親の頬を平手打ちした。
パンッ
音が空気に響く。香里奈は涙を流していた。
「私はあなたの子どもに生まれてきて後悔しています。産まれて来なければよかった」
香里奈の言葉を聞いた石崎徹は俯く。
「糸原さん、香里奈さん、そろそろいいでしょうか」
香里奈は頷く。石崎徹はパトカーに乗り込んだ。パトカーを見つめる香里奈の横顔。
「香里奈、これあげる」
「水流くん、いいの?」
水流が珍しくチャップチュッパを渡した。水流が大好きな限定夕張メロン味だった。水流の優しさを初めて感じたかもしれない。
香里奈は糸原と水流に頭を下げる。
「糸原先生、水流くん、解決してくれてありがとうございます」
こうして、石崎徹と香里奈の案件に一区切りがついた。
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