第35話 ヒマワリ
夜中の3時の事だった。
石崎徹の家には数台のパトカーが止まっていた。糸原らは車を降りて警察に挨拶をする。
「お疲れさまです」
「お疲れさまです。毎回糸原さんと井上さんにはお世話になります」
「いえいえ、協力出来て良かったです」
「すでに校長と金森の家にも警察が到着しているとのことです。そして先程石崎徹を逮捕しました」
「ありがとうございます。あとは警察に任せたいと思うのですが、最後に石崎徹さんと話していいですか?」
警察の方は少し迷ったが了承した。数メートル先のパトカーには石崎徹が乗っていた。そんな父を見つめる月葵の表情。虐待や売春をしてきた父とは言え、親は親である。糸原には、月葵の心境は分からない。
「どうする、父親に挨拶するか」
「話さないけどついて行く」
「分かった」
糸原、月葵、水流は石崎徹の元へと向かった。
・・・・
パトカーを降りる石崎徹。その手には手錠がかけられている。石崎徹は香里奈と目を合わせようとしない。
「初めまして、香里奈の元担任の糸原と申します」
「初めまして、石崎徹です」
糸原の言葉に対し、石崎徹は顔を上げた。そして石崎徹もニコリと笑った。両者ともに下手な作り笑いだ。
「タバコ吸います?しばらく吸えなくなりますよ」
石崎徹は手錠をかけられている両手でタバコを受け取った。糸原はそのタバコに火をつけた。石崎徹はゆっくりと吸って煙を吐く。
「全く、水流さんと糸原さんが繋がっていたとはな」
「おじさん、僕たちが繋がったのはたまたまだよ。あなたが探偵事務所に来ることは予想外だった」
「水流とは、仲悪いんで一緒に探偵捜査はしません。警察の捜査を誘拐から自殺家出の調査に切り替えの指示を出したのは僕ですが、まさか水流のいる探偵事務所に行くことは予想してませんでした」
今回の件に関して水流を巻き込むことは計画外だった。糸原は調査中は探偵事務所には絶対に関わらない。だから学校に水流が来た時は驚いた。
そして僕や水流は探偵調査には本気である。互いに干渉しないからこそ、水流の行動も読む必要があった。水流も僕を探偵と分かっておきながら本気で香里奈を見つけようとしていた。
「糸原さんに質問なんだが、教育学会の裏金に関する情報は十分だったはずだ。なぜもっと早く逮捕しなかったんだ」
石崎徹の言う通り、裏金に関する情報は十分だった。妻へのDVや香里奈の存在、娘二人への虐待なども警察の調べで明らかになっていた。
教育学会の裏金には校長、金森、石崎徹が関係している。その裏金の一部に未成年売春が絡んでいる。校長や金森は買う側の人間だった。校長、金森は他校の生徒に手を出している。
「確かにそうですね。もっと早くあなたを逮捕出来ました。でも私の希望で逮捕を遅めてもらいました」
「それは香里奈を守るために?」
「いいえ。香里奈さんを虐待や売春から守ることは私の目的ではありません。私はあなたに聞きたいことがあってここまでの行動を起こしました」
「聞きたいこと?」
香里奈を保護すること、学校現場に潜入することは、警察と打ち合わせた計画だった。警察が逮捕に動き出そうとしているのを糸原が頼み込んで遅らせてもらった。
警察からは、校長、金森、石崎徹の他に関係している人物を見つけ出すように糸原に依頼した。香里奈の失踪により、石崎徹が警察署に来ることは計画内だった。
糸原は学校現場に潜入し、調査を行った。結果として石井や青木が関係していたが、あくまでも2人は被害者だった。
「はい。聞きたいことは、とても簡単なことです」
糸原は写真を1枚取り出した。それは笑顔を見せる女の子の写真だった。手に持つ花瓶にはひまわりの花が1輪飾られている。
糸原は聞いた。
「石崎徹さん、伊藤陽葵さんを知っていますか?」
その名前を聞いた石崎徹は目を丸くした。
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