第34話 タチアオイ

「で、どうだったの?」


井上水流が煽るように糸原に言う。糸原は悔しそうに言った。


「月葵の件は解決できるけど【本来の目的】は解決できない」


石井と月葵は不思議に思った。月葵の件の解決が本来の目的ではなかったのだろうか。


「まぁ月葵救えたから今回の件は良かったんじゃない?」


「なんだ、慰めてくれるのか、水流」


「いやいやいや、そんなわけない。感謝だよ感謝。石崎徹が持ってきた1000万円の内、初期費用の100万円を貰ったからチャップチュッパ買い放題」


「おい、お金もらったなんて聞いてないぞ。少し分けろ」


「嫌だね」


「あーあ。いいのかなぁ。手伝ってくれたお礼に、超高級チャップチュッパ特濃フルーツ味買ってきたのに、要らないのか」


「お、おい、いる、くれ!糸原ぁぁぁ」


仲がいいか悪いか分からない糸原と水流。チャップチュッパの箱を持って逃げる糸原と、追いかける水流。


追いかけっこをしている中、エレベーターの着いた音がする。水流は糸原のチャップチュッパを取り上げる。


「あ、来たか」


「も〜らい」


「あ、おい!……まぁいいか」


開いたドアの向こうにいた人を見て月葵と石井は驚いた。そこには満面の笑みで立つ青木がいた。そして横には夜岡が立っている。


「糸原先生、こんちゃっす。悠里も。そして香里奈、いや月葵」


月葵、石井、青木、夜岡、糸原、水流が集結した。


・・・・


糸原が月葵と石井を連れて来ている間に、夜岡には青木を引連れて警察署に行ってもらっていた。


水流がいる探偵事務所は、警察と連携している。今頃、警察は石崎徹の家へ向かっていることだろう。


糸原たちも石崎徹の家に行くために、夜岡の車に乗る。夜岡は助手席の水流に尋ねる。


「糸原さんは結局何者なんですか?」


「糸原は同じ事務所で働く探偵だよ。まぁ能力は僕の方が上だけど」


「いやいや水流はまだまだヒヨっ子だよ。心理ババ抜き世界大会決勝戦で負けたじゃん」


「あれは最後糸原のずるじゃん」


心理ババ抜き大会とは世界の探偵たちが競い合う大会のことで、1年に1回開かれている。


「夜岡さんに言っておくと僕と糸原は日本で1番2番を争う探偵だよ。そして月葵の件は糸原が独断で解決しようとした。ちょうど他の件とも繋がっていたからね」


「他の件?」


それについては糸原が説明した。


「伊藤陽葵、という名前。夜岡さんは聞いたことありますか」


「はい。10年ぐらい前の事件ですよね。死亡した原因が判明しないまま捜査打ち切りになった」


「そうです。石崎徹はその事件に関係している可能性がありました。そして調査をしているところ、月葵への虐待と売春が判明したんです。私はそれを機に石崎徹への接触を試みました」


「なぜ伊藤陽葵さんの事件を追っているのですか?」


糸原は、3人が寝ているのを確認して、口を開く。


「陽葵は、私にとって大切な人ですから」


香里奈の偽名、月葵。


糸原の大切な人、陽葵。


二人の名前。


月と太陽。

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