第31話 アジサイ
「さて、答え合わせしようか」
石井はナイフを糸原に渡す。
「香里奈が行方不明になった次の日、売春の事実を知ってしまった青木の口止めのために、机の中に紙と盗聴器を入れた。それは石井だよね」
石井は返事をしない。目を合わせないように地面を見る。
「そしてそれを自身の机の中にも入れた。まるで自分も被害者であるかのように」
これが今回3人目を中々見つけることの出来なかった理由である。青木だけでなく、石井にも盗聴器が仕掛けられていた。青木と石井の2人が被害者だと断定した結果、3人目を見つけることが出来なかった。
しかし、石井に盗聴器を仕掛ける理由が分からなかった。『石井が知っているのは虐待だけだった』石井は売春については知らない。それは香里奈本人からも聞いている。
「そして、石井への信頼だ。まさかとは思ったよ」
「そうだとしたら、なんで私はそんなことをしなければならないの?」
石井の質問。そう、そこに1番の疑問を抱いていた。石井は何故青木に盗聴器を仕掛けたのか。なぜ石崎徹と繋がったのか。
「成績だ」
だが、糸原はすでにそれも知っていた。
「石井はシングルファザーの家庭で育つ。父親は勉強面に厳しく、常に成績1位でなければ見放された。でも石井も父親に認められるように勉強を頑張っていた」
その情報は4月の生徒情報で知っていた。
「以前、中学受験を受けるも不合格になる。そして公立の学校へと入学した。父に認めてもらうためにも、この学校では常に1位でいなければならなかった。でも石井よりも成績が優秀な生徒がいた。それが香里奈だった」
「もういい。やめて」
石井は耳を抑える。だけど糸原は続けた。
「1年生の一学期成績は石井が学年2位。香里奈が1位だった。そこで石井は金森先生に今度のテストで一位を取れるように頼み込んだ。その方法は」
「もういいよ、もういい」
石井は地面にうずくまる。糸原は容赦しなかった。
「石井は金森に自分の身体を売ることでテスト問題を見せてもらおうとした。でも金森は石井の誘惑を断る。その代わり、金森から香里奈の売春の事実と教育学会の裏金について知らされる」
「そのとき、金森は、売春の事実を知る青木の対応について困っていた。そして青木の監視役をすることと引き換えに、全科目のテスト問題を事前に見せてもらった」
補足説明をすると、金森は石崎徹から青木の監視を任されていた。しかし、香里奈が行方不明になった責任から引き継ぎでクラスを受け持つことが出来なくなった。そして監視役に困っている時に石井の頼みを聞いた。
石井も途中から自分の過ちに気付き、警察に行こうと計画するが、テスト問題を不正に入手したことがバレる危険性を感じた。石井の父親は、成績が低いと手を出すときもあった。不正が発覚すれば将来の進路も厳しいものになることは避けられない。
「もういいよ。認めるよ」
石井は涙を流した。
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