第25話 ラケナリア

香里奈が学校を休んだ日、青木は学校からの配布物を持って香里奈の家を訪れていた。格別仲が良いという訳ではないが、二人は幼なじみであり、他の友達よりは関係が深い。


青木が家のチャイムを鳴らそうとすると、家の中から香里奈の聞いたこともないような悲鳴を聞いた。しばらく観察していると、知らないおじさんが香里奈の家から出てきた。そして深々とお辞儀をする石崎徹。青木は学校配布物をポストの中に入れてすぐに帰った。


青木はそれから数日間、香里奈の家に張り込んでいた。そして売春の事実を知る。青木は香里奈に問い詰めた。そして香里奈は売春の事実を青木に話した。


青木は香里奈を救うことを考えた。直接石崎徹の元へ行き、香里奈を売春したいと頼んだ。石崎徹は数十万の金額を提示したが、青木は「ただでやらせてくれないと警察に行く」と言った。


結果として石崎徹は仕方なく青木を家に招くことにした。


・・・・


・・・・


「青木は、石崎香里奈が売春されていた事実を知っているよね」


「あぁそうだよ。でも【その日】、香里奈は行方不明になった」


「知っている」


それは事実である。香里奈を保護した日。その日にした理由は、売春相手が青木だったからである。


「香里奈のノートにはこう書かれている。『青木くんは私の部屋の近くに立つ監視役の人も排除するように言った。だから家を出るチャンスができた』」


青木しか知り得ない事実。青木は、そのノートを香里奈が書いたことを認識したのだろう。


糸原はそのノートを更に読んだ。


「『青木くんは私を助けようとしてくれました。そのために危険を冒してまで来たんです』」


警察に素直に行けば良いと思うが、警察は、証拠がない青木の発言を信じないだろう。


過去に利根咲と一緒に警察に補導されたことがあるらしいが、その時も話を聞いて貰えなかったという。その後分かったことは、認知症のおばさんが徘徊しているのを見つけて深夜2時まで家を探していたらしい。


青木は香里奈と逃げ出す計画を立てていたが、場合によって青木は殺されていた。


糸原は香里奈と青木を守るために、予定よりも早く香里奈を保護することにした。


「青木、お前は危険すぎる。香里奈を連れ出したあとはどこに行こうとした?いいか、相手は青木が思っているより数倍怖い相手だ。お前は殺されていた可能性もある」


これが糸原が思う、青木が【1番の問題児】である理由だ。殺されてしまう可能性の中、計画もせずに助けようとする問題児。人を守ろうとする強い正義感のある問題児。


青木はそれでも何も話せない。その理由も糸原は知っている。糸原は青木の頭に優しく手を置いた。


「もう怖がらなくていい。【それを】机の中から出しなさい」


青木は、机の中から盗聴器を出して糸原に渡す。この盗聴器は、糸原を監視するために青木に渡されたものだった。そして同時に青木の行動を見る目的もあった。少しでも青木を安心させるために席替えの時に1番後ろにした。


怖かったのだろう。辛かったのだろう。緊張が解れた青木は涙を流した。


糸原は盗聴器に呼びかけた。


「向こうの人聞こえてますかぁ?今から大事なことを言うので聞いててくださーい!」


糸原は机の中からハンマーを取り出す。そして思いっきりハンマーを振り落として盗聴器を壊した。


「きっと向こうで聞いている人は鼓膜でも破れているかもね」


そして糸原は潰れた盗聴器をゴミ箱に入れた。


「青木徹也に聞きます」


ここからが本題である。


「青木徹也はクラスの誰から盗聴器を渡された?」


このクラスには残り1人【間違っている生徒】がいる。

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