第23話 コルチカム
「糸原先生、た、た、大変です」
「どうしました」
早朝当番で先に来ていた鈴木先生が、顔色を変えて糸原先生に話しかける。
「この紙が昇降口に大量に置かれていて」
「誰がこんな紙を」
人物を特定されないように、パソコンで文字が打ってある。
【石崎香里奈を誘拐したのは糸原先生である】
「朝の見回りの時は無かったのですが…どどどうしましょう」
「落ち着いてください」
「なんで糸原先生が落ち着いていられるんですか!」
「この紙で何が分かるんですか!?ただの当てずっぽうですよ」
職員室に入ると、他の先生の視線が糸原を突き刺した。校長に呼ばれる糸原。テーブルの上には回収済みの紙があった。約400枚ぐらいの厚みがある。
「糸原先生、これはどういうことですか?って糸原先生でないことは分かるのですが。…何とか回収しましたが数枚は生徒たちの手に渡ってしまいました」
糸原は校長から紙の束を受け取る。そして冷静に答えた。
「【犯人は知っている】ので大丈夫です。ありがとうございます」
校長室を出て職員室に戻る糸原。先生たちの視線を感じながら職員室を後にした。
・・・・・
「おはようございます」
生徒たちは挨拶をしようとしない。教室の後方で、ひそひそ話しながら糸原の方を見る。
「まずは座りなさい」
普段ふざけている青木もすぐに席に着く。糸原はニコリとして全員の目を見ていく。
「では、朝の学活を始めようか」
「先生、それは無いでしょう」
青木が立ち上がり声を荒げる。つられるように他の生徒も立ち上がる。
「この張り紙の意味を説明してください」
「説明すると、張り紙を貼った人はこの教室にいます」
「誰なんですか?」
石井が聞いた。机の上には紙が何十枚とある。必死に回収してくれたのだろう。
「その人は、」
クラス全員がざわつき始める。 糸原は悠里から紙を受け取る。糸原は目を瞑り、教室が静かになるまで待つ。
「16秒。このクラスは流石です」
糸原は目を開ける。全員が糸原の言葉を待っていた。糸原はニコリと笑う。
「先生がその人の名前を言ってもいいのですが、自分から名乗ってほしいと思っています。一度みんな机に伏せてください」
みんなが伏せたことを確認する。
「紙を作った人、正直に手を挙げなさい」
数十秒待ったが誰も手を挙げなかった。
「顔を上げなさい」
「誰も出ないようなので先生がその人を呼びます。この貼り紙を作ったのも昇降口に置いたのも」
みんなが固唾を飲む。犯人でなくても緊張するのは当たり前だ。糸原はその指を上げていく。そして、その人を指さした。
「おい、嘘だろ」
利根咲が思わず声を漏らす。生徒たちは、思いもしない人が犯人だったことに驚きを隠せなかった。
どうしてか。それは
糸原が指さしたのは、
糸原自身だったからだ。
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