第22話 ディアスシア

校舎を出た頃には20時を過ぎていた。深呼吸をして、疲れた身体に新鮮な酸素を取り込んでいく。


「お疲れ様です。糸原先生」


「水流に夜岡さん。こんな時間にどうしたんですか」


水流と夜岡が糸原を待っていることは予想していた。家に来たのは夜岡だろう。そしてドミノを倒した。家には当然隠しカメラも設置してある。


「今日糸原先生の家を捜索しました」


「それは知っているけど」


「ですよね」


悔しそうな水流。調査に失敗して申し訳なさそうな夜岡。冷静に笑う糸原。最初から糸原の計画通りだった。


南野先生が出張になることは以前から知っていた。体育の教員免許を持っているのは南野と糸原だけなので、糸原が空き時間であれば頼まれることは知っていた。


「ドミノトラップ引っかかったんですね」


「僕じゃなくて、夜岡が、だけどね。夜岡は探偵の仕事クビだ」


「い、嫌です」


「まぁドミノトラップは遊び心ですよ。鍵につけたキーホルダーで位置情報確認してましたし」


水流は夜岡を睨みつける。夜岡は頭を抱えて泣きそうな表情を見せる。


「まぁ対象が糸原先生だったからまだ許す。糸原先生は結果として安全だということが分かったから」


香里奈がいた痕跡は全て消し、偽資料を作って部屋に置いておいた。必死に香里奈を探している雰囲気を創っておいた。


「僕は、学校ではやることが終わったので、少し早いですが明日から学校には来ません。でも最後に伝えておきたいことがある」


「なんですか」


「糸原先生のクラスで問題児は3人いる」


問題児が3人いることは糸原も予想していた。たったの数週間で、たどりついた水流の探偵力と推理力に驚く。


「確かに3人います。でも誰かは教えられません」


「そのうちの2人は青木徹也、石井悠里でしょ」


そこまでも知っている水流に驚く。そしてそれは【合っている】。もう一人。もう一人は誰なのだろうか。


「もう一人は僕でも分からなかった」


「水流でも分かりませんでしたか」


水流も糸原も最後の一人が分からない。その一人が分かれば香里奈の件は解決出来る。


「糸原先生。香里奈の場所教えてくれれば協力してもいいけどどうする?」


「それは断ります。そもそも香里奈さんの居場所は私には分かりませんし」


「ふーん、確かに嘘ではなさそうだね。居場所が分からない、か」


水流は口の中のチャップチュッパを噛み砕いた。糸原が香里奈を糸原が保護していること。香里奈の件を解決するために学校で働いていること。それらに水流は気付いている。


そして水流の「気付き」に、糸原は気付いている。本音で話すと力を借りたいことも山々であるが、水流を危険に巻き込む訳にもいかない。


「僕を子どもとして見てるけど、そこら辺にいる大人よりは頭がいいと思うよ」


「この前の数学のテスト5点だったのはどういうことですか」


「ま、まぁ、僕の探偵力と推理力は糸原先生よりも上だから覚えておいて」


「計算力は私の方が上ですけどね。そもそも水流の力を借りなくても香里奈さんの件は解決できます。でも私が学校に来たのはこの件では無いので」


糸原は頭を下げてバス停に歩き出す。水流が糸原の足を止める。


「見つかるの?【あの子は】」


「うん、必ず見つける」


「頑張ってね。糸原、せ、ん、せ、い」


夜岡は最後の会話の意味が分からなかった。でも糸原と水流の関係は今後判明することになる。


そして糸原と水流。2人は思った。


近いうちに再会することになるだろう。

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