第7話 ラベンダー
「石崎香里奈さんは、糸原先生の言うとおり虐待を受けている可能性がありました」
虐待の有無は、身近なところで見つかることが多い。クラス内での発見に次いで多いのが保健室である。
「身体的虐待ですね。1年生の春の健康診断のときからあざなどが確認できましたが、ただの怪我だと言っていました。香里奈さんは正直者ですから私も何も疑わず信じていました。しかし、大雨が降った早朝、彼女が体操服を借りに、保健室に来たんです」
保健室の先生は写真を持ってきた。写真には太ももにできた痣や、腕にできた傷が痛々しく写っていた。
「彼女が服を脱いで着替えるとき、以前よりも身体の傷が増えていました。私は虐待を確信しました」
「この写真は」
「念の為撮りました。私は1週間彼女を観察していましたが、学校内での人間関係は良好でした。そもそも彼女を嫌う要素はどこにも見当たりませんでしたからね」
確かに石崎は【いじめ】ではないので、否定をする必要はなかった。
「当時担任の金森先生は気づいていなかったのですか?」
当然担任は知っていたはずだ。しかし、思っている回答は得られなかった。
「金森先生は気づかなかったでしょうね。太ももの傷や腕の傷はスカートや服で上手く見えないようになっていました」
「その虐待を警察や児童相談所に報告しなかったのはなぜですか?報告義務があるはずです」
「そんなこと知っています。ですが、報告をする前に香里奈さんは行方不明になりました。そして虐待を報告することを止められました。彼女は最後まで虐待であると認めませんでしたし...」
「石崎香里奈が虐待をされていることを知っている人は他にいるんですか」
「はい。校長、教頭、【今は異動した】指導主任と金森先生には私から伝えました。あと、えーっと…あ、もう2人居ます。それも糸原先生のクラスに」
「私のクラスに【2人】ですか?」
1人は予想、もう1人は全く予想していない人だった。糸原は名前を聞いて驚いた。
「はい。青木徹也くんと石井悠里さんですね」
クラス1番の問題児と優等生だった。
「香里奈さんの親友である悠里さんは分かります。しかし哲也さんが知っていることは記録簿には載っていませんでしたよね」
「悠里さんは彼女が着替えるときに一緒にいました。その前からも気づいていたようです。哲也くんは、私と校長、教頭が話している時にたまたま聞いていたんです」
糸原は怖かった。誰かに【聞かれているとしたら僕もまずい状況なのかもしれない】。彼女が虐待をされていた事実を【このような形】で聞いたことが間違いだったのかもしれない。
「分かりました。本当に貴重なお時間ありがとうございます。可能性で動くのも危険なので、虐待の件は警察などに言うことは控えます」
糸原は警察に行かないことを【強く宣言】すると、笑顔を作って席を立つ。安本先生は最後に口を開いた。
「糸原先生はどう考えているのでしょうか」
糸原は、そこまで情報をくれた保健室の先生に感謝する。初めから分かっていたことだが、保健室の先生は【安全】だ。
「彼女は自殺でも誘拐でも無いです。そして彼女は【確実に】生きています。私は、彼女を【学校に戻します】」
糸原は自身の言葉を断定し、ニコリとして保健室を後にする。糸原は、ドアを閉める寸前に安本先生に伝えた。
「先生も気をつけてください。虐待の事実はあまり周りに言うべきではないですよ」
そしてお辞儀をしながらドアを完全に閉める。事実、石崎香里奈はいじめや虐待以上のことをされていた。だが、糸原はそれを言うことは出来なかった。
そして、糸原が驚いたのは、【石井悠里の方】が虐待の事実を知っていることだった。
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