第16話 クローバー

香里奈(偽名月葵)は、糸原に自殺に至る経緯を話した。


「ひどいな」


「うん」


お風呂の沸いた音がしたので月葵に入ってくるように促す。着替えなどは、まだ買っていないので、適当な部屋着を渡す。


月葵を助けることは元々【計画内】だったが、助けた後の月葵の居場所を考えていなかった。糸原は協力者を誰に頼むか考える。


「お兄さん」


月葵が顔だけひょこんとドアから出して呼びかけてきた。髪の毛先からは水滴がぽたぽたと垂れている。


「バスタオルどこですか?」


糸原は一旦考え事を止めて立ち上がった。


・・・・


「お兄さん、ドライヤーしてくれますか?」


「うん。まぁいいけど」


糸原ドライヤーで月葵の髪を乾かしていく。シャンプーなどは月葵が好きそうなものを揃えておいた。


「服のサイズ大丈夫?」


「うん。少しだぼだぼだけど。あ、あとお兄さんには見せておく必要があるから」


月葵は自分の服をめくって身体に出来た傷や痣を見せた。


「いいの?」


「大丈夫。見られるのは慣れてるから。私の身体、醜いよね」


糸原は返答に迷って、ドライヤーの風力を強めて月葵の髪をクシャクシャにする。月葵は髪の毛が目に入らないように必死に目を瞑った。


「月葵は醜くない。醜いのは大人たちだ」


「...うん」


糸原は目の前の女の子、月葵を守ると決めた。昔みたいに二度と人を失わないために。


・・・・


結果として月葵の件はニュースにならなかった。何らかの形で探していることは間違いなかったが、石崎徹も大きな行動を起こすことは出来ない。【売春】していたことが知れ渡れば培ってきた信頼全てが崩れ去る。それに、月葵の売春には大きなお金と人が動いている。


一方、香里奈を早急に見つけたいのも事実だろう。香里奈が売春の事実を警察に話す可能性があるからだ。糸原は警察に行くことも考えたが、香里奈を助けたのは【糸原の計画】の一部に過ぎない。


「今日は久しぶりに出かけようか」


「え、本当に?」


糸原から許しが出たことに月葵は驚きと嬉しさで目をキラキラさせた。月葵を保護してから、警察の目を恐れて外出させていなかった。


「どこに行きたい?」


月葵は少しの時間考えると、恐る恐る返答した。


「観覧車に乗りたい…とかダメ?」


なんだそんなことかと月葵を可愛らしく思う。


「いいよ。行こう」


「本当にいいの!?」


「うん」


その日は12月25日クリスマスだった。


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