第2話 オジギソウ
新学期が始まる前の3月に遡る。
新学期の準備をしている中、校長室に呼ばれた。ノックをして校長室に入る。
「糸原先生、忙しい中すまない。少しいいかな」
「とんでもないです。大丈夫です」
校長室の中には校長先生と、2年3組を昨年受け持っていた金森先生がいた。軽く会釈をして席に座る。
「糸原先生にお願いする2年3組の石崎香里奈さんという生徒のことなんだけど、…金森先生お願いしてもいいかな」
「はい。糸原先生、お忙しい中すみません。まずはこちらの資料を見てください」
【石崎香里奈 記録簿】と書かれたファイルには30枚ほどの紙が挟まれていた。1枚1枚びっしりと文字が書かれている。
「簡潔に言うと、石崎さんは昨年の8月の夏休みに行方不明になりました」
記録簿には、日付、時間、保護者や生徒、警察とのやり取りが細かく載っている。
「警察の方は懸命に探しましたが、結局石崎さんは見つかっていません。現在も捜査は続けられています」
「誘拐、ですか」
「可能性は高いですね」
金森先生は、石崎香里奈の顔写真を見つめる。糸原も一通り書類を見て、気になることを聞いた。
「ニュースにならなかったのはなぜですか」
「テレビに放映することは保護者が頑なに拒否されました。保護者の方は少し有名な方なので。これですね」
そういうと金森先生は保護者情報のページを開いた。
「石崎徹。あの教育者…」
金森先生、校長先生が頷いた。石崎徹とは有名な教育者であり、学習指導要領改革や少人数教育制度などの取り組みにより、日本の子供の学力を伸ばした。確か大学生の子どもがおり、大学トップ校の東日大学に通っていたはずだ。中学生の子どもがいるというのは噂程度でしかなかった。
「ここだけの話ですが、石崎香里奈さんは、石崎徹さんが浮気をしていた不倫相手との子どもとか言われているんですよ」
こら、金森先生!と校長先生。金森先生は笑いながら謝罪した。
ここに来る前から石崎香里奈のことは知っていた。しかし、状況は思っていたよりも深刻なものだった。
「見つかるといいですね。石崎さん」
糸原はその【偽りだらけ】の書類を預かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます