第28話 今日の部活、どうしますか? それとも…

 杉本陽向汰すぎもと/ひなたは、気分的に優れている。

 やはり、あの出来事が解消されたこと。それが一番の理由である。


 今まで厄介な存在だった、吉岡咲良よしおか/さくらのことだ。

 彼女とハッキリと別れたことで、迷いが消えたような気がする。


 咲良には、自分が隠していたことをバラされた。が、意外にもクラスメイトからの反応は酷いものではなかったのだ。


 女子生徒からは少々引かれがちではあったが、特に男子生徒からは注目されるようになった。

 今まで陰キャだった陽向汰が、周りの同性から話しかけられるきっかけとなったのである。

 結果としてはよかったのだろう。

 そして、問題の中心となっていた咲良はというと、もう教室にはいない。


 放課後の今。色々な出来事が暴かれ、学校の中でも問題へと発展したことで、彼女は生徒会室に呼ばれていた。

 生徒会役員らが管理している部費の件である。

 結構な大事に発展していた。


 今、教室には陽向汰だけ残っている。

 他の人らは生徒会室の近くまで、野次馬感覚で向かって行ったり、部活に行く者、後は普通に気にせず、帰宅する者など色々だった。


 陽向汰は静かになってから教室を出、別校舎にある読書部へと向かう。

 後々、メンバーの皆には伝えておかなければいけないことがあるからだ。


 本校舎と別校舎を繋ぐ中庭の通路を通り、陽向汰は読書部の扉前に到達する。そして、扉を開けた。




「陽向汰先輩。これで、何とかなりましたねッ」


 扉の先から、八木和香やぎ/のどかの明るい声が聞こえた。

 いつも通りの話し方。

 陽向汰も、ホッと胸を撫で下ろし、和香がいるテーブルへと向かう。


 テーブル近くの椅子には、和香以外にも生徒会役員の野崎怜南のざき/れな高瀬藍那たかせ/あいなの二人も座っていた。


「今、生徒会室周辺には、人が集まっているみたいだな。これで何とか、解決ってところかな?」


 高瀬先輩は腕組をし、ようやくやったかという態度を見せている。


 学校の闇といわんばかりの大きな問題が解消された。

 これで、一安心というものだ。


「あとの件に関しては、学校側が何とかやるんじゃないか? 私の出番は終わりだな」


 高瀬先輩は席から立ち上がる。


「どこかに行くんですか?」

「ああ、私は理事長から言われていた、部費の件を解決させたんだ。まあ、皆の協力もあって解決したことになるんだけどね。私から理事長に、君たちのことを言ってもいい? あとで、理事長の方から個別にお礼があるかもしれないし。どうする?」


 高瀬先輩は、辺りにいる三人を見、様子を伺っている。


「お礼って、どんな感じになるんでしょうか?」


 野崎怜南は問う。

 怜南は生徒会役員なのだが、理事長とは出会ったことがないのだ。

 実際のところ、どんなお礼の仕方になるのか気になっているらしい。


「それはだな。理事長の気分によるんじゃないかな」

「気分屋なんですか?」

「そうだね。私から見ても、そう思うしさ。それに、理事長からは、この学校に通って部費の件を解決してこいって、突然言われたしね」

「大変そうですね……」


 高瀬先輩の返答に、苦笑いを浮かべる怜南。

 

 でも、何かしらの形で、お礼をしてくれるのであれば、ありがたい。

 できれば、部費が欲しいというのが本音である。

 陽向汰は一旦、席に座った。


「陽向汰先輩。もし、理事長からお礼が貰えるとしたら、何がいいですか? 私は、沢山、本が欲しいですかね。あと、部費も」

「……俺と同じだな」

「一緒なんですね」

「そうだな」

「気が合いますね、先輩」

「だって、この問題を解決しようとしたのって。部費が少なくなっていたからだろ。和香とは、必然的に一緒になるんじゃないか」

「それもそうですね」


 和香は頷いている。

 彼女は優しい笑みを見せ、落ち着き払った感じに胸を撫で下ろしていた。


「それと、これからどうします? 普通に部活でもしますか?」


 和香が皆に問いかけた時、近くにいたはずの高瀬先輩の姿はなかった。


「……高瀬先輩、もうどこかに行ったんですね。部活をしなかったら、今日の放課後、一緒にどこかに立ち寄ろうと思ってたんですけど」

「しょうがないって。あの先輩は、そういう人なんだからさ」


 高瀬先輩は謎の多い人だったが、陽向汰は部費の件を解決できたことに大きな達成を感じていた。


「今日は一旦区切りをつけてさ。部活は休みでいいんじゃない?」

「そうですね。はい、今日は街中に行きましょうか。怜南先輩もそれでいいですか?」

「私も行ってもいいの?」

「はい。怜南先輩もいたからよかったんです。私、そんなにお金は持っていないですけど。二人には奢ります。怜南先輩の好きなクレープ専門店にしましょう」


 和香は積極的に、怜南を誘っている。


「いいの、奢ってもらっても」

「はい。怜南先輩も、辛い経験をしているので、あの人のことは忘れて、すっきりしましょう」

「そうね……その方がいいかもね」


 怜南は小さく頷く。

 陽向汰も、もちろん、クレープ屋に行く気でいる。

 三人は簡単に部室内を整理したのち、学校から立ち去ることにしたのだ。






「はい。先輩方には、これがお礼の品ですから」


 街中にあるクレープ専門店に入店し、三人はテーブルを囲むように座っていた。


 テーブルの各々の前には、皿に乗ったクレープがある。

 和香の奢りということもあり、少々一回り小さい感じのクレープ。

 この専門店で比較的安いとされている、チョコとバナナ系の、本当に基本的なクレープメニュー。


 この前も入店したこともあり、ナイフとフォークを使い、食すのである。

 前回は使いづらいと思っていたのだが、意外にも慣れれば食べやすいものだ。


「美味しいッ、怜南先輩はどうですか? 美味しいですか? でも、私のお金では普通の感じのしか頼めませんでしたけど」

「んん、いいよ。私はこれが一番好きだから。クレープといったら、チョコとバナナだよね」


 怜南は和香の気に障らないように話す。

 怜南はクレープをナイフで切り、フォークで取って口に含めていた。


「俺は、これで十分だからさ」


 陽向汰も言う。

 彼女は後輩なのだ。

 あまり無理させたくない。

 陽向汰は後で、和香に奢ってあげようと思った。

 むしろ、和香が一緒じゃなかったら、ここまで解決に至れなかっただろう。


「先輩方が喜んでくれればいいので。これはこれでよかったのかな」


 和香は申し訳ない表情で、そして、苦笑いを浮かべていた。

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