第31話 これからは、和香のために

 翌日、学校に行くと、彼女の姿は見当たらなかった。


 以前まで付き合ってきたクズな彼女――吉岡咲良よしおか/さくらは、もう、いないのだ。


 高校生活において、咲良と関わらなくなる日が来るなんて想像もしていなかった。が、ハッキリと別れられて、今は気分が多少なりとも良い方である。


 杉本陽向汰すぎもと/ひなたは教室に入った。

 いつもと変わらない雰囲気があるものの、咲良がいないとなると、クラスメイトに対する印象も変わってくるものだ。




「というか、あいつって、もう辞めたみたいだね」

「へえ、そうなんだ。まあ、あいつのことは好きじゃなかったし。むしろ、好都合っていうかさ」

「だよね。私も嫌だったし。何かしでかして、退学でもしてくれないかなって。いつも思ってたし」

「別のクラスの人もさ。咲良が退学してよかったとか言ってるしさ」


 陽向汰が自分の席に座った頃合い。教室にいる数人の女子生徒が、咲良のことについて話題にしている。

 話の内容がすべて、咲良に対する悪口であった。


 実のところ、咲良から嫌なことをされた人の方が多い。

 それは陽向汰竹じゃないのだ。

 咲良に対して、強い恨みとかを抱いている人は結構いる。

 教室にいると、共有の悩みを抱えている人がいて、ホッと胸を撫でおろすのだった。




 陽向汰は一人で教室にいると、制服のポケットからスマホを取り出す。

 昨日、後輩の八木和香やぎ/のどかと一緒に作った小説投稿サイトのアカウントがある。


 陽向汰は、そのサイトの小説ランキングのページを開いのだ。

 人気のあるサイトゆえに、一分置きに、新着の小説が投稿されている。


 陽向汰はそういった小説投稿作品にブックマークを付けるのだ。数作品とあると、一気に目を通すのは難しい。


 投稿サイトの傾向を探るためにも、今後少しずつ読んでいこうと思っているのだ。






「先輩、今日は一緒に帰りましょう」


 その日の放課後、校舎の昇降口らへんから校庭に出ようとしたところで、後輩の和香から声をかけられた。


 彼女は優しくも笑顔で距離を詰めてくるのだ。


「陽向汰先輩、ちょっと寄り道でもしていきませんか?」


「寄り道? どこに?」

「それは街中です。先輩に見せたいものがあるので、一緒にどうですか? 小説のネタにもなると思いますよ」

「そうか?」

「はい。絶対にです」


 和香は積極的に、陽向汰の腕に引っ張り、学校の校門まで導いていくのだ。


 通学路に出ると、他にも自分と同じ制服を着た人らを見かける。

 他の人も帰宅すると思われた。


 そんな中、陽向汰は周りにいる人らからじろじろと見られるのだ。

 なんせ、クズな彼女と付き合っていた人物なのだから、どういった人なのか、気になるのだろう。


「咲良と付き合っていた人って、あんな人なんだね。もっと違うと思ってた」

「だからさ、色んな人が言ってんじゃん。あの人は、咲良って奴の金蔓になっていただけだって」

「だよね。まあ、咲良がいくらクズだって。あんな人を好きになるんてないよね」


 和香と一緒に通学路を歩いていると、嫌みなセリフを耳にしてしまう。

 あまり心地よいものではない。


 不快に感じてしまう。


「先輩……」


 刹那、隣を歩いている彼女が、陽向汰の手を優しく握ってきた。


「心配しなくても私はいつまでも先輩の味方なので、ああいう変な意見を真に受けなくてもいいですから」


 和香から言われると、陽向汰は安心ができてしまう。

 後輩に慰められるなんてと思う反面。これからは和香のために、成長しようと思えてくるのである。


 ネット小説でもう一度成功できれば、周囲の意見も変わってくるだろう。


 陽向汰は勇気をもって、和香と手を繋いだまま、街がある場所へと急ぐのだった。






「といかさ、もうウザいんだよ。もう、二度と俺の前に現れるなって言ってんだろ」

「なんで、裏切らないって約束でしょ?」

「は? そんなどうだっていいだろ。お前なんか、もう用済みなんだよ」


 陽向汰と和香が街中の路地裏の方へと向かうと、そこで、ホスト風の男性から暴言を吐かれている女の子がいた。


 普通であれば、女の子の方が被害者ではある。が、彼女はお金ばかりを目当てにしている吉岡咲良本人である。


 彼女は退学する羽目になり、帰る家もなく、親しいホスト風の男性の家に居候する予定だったようだが、そううまくは言っていないようだ。


 すべてを失った彼女は、そこに跪いて、嘆いているだけだった。




 その光景を建物の角から見ている陽向汰は当然だと思ったのだ。

 今、陽向汰の隣には和香がいる。


 和香が見せたかったのは、落ちぶれてしまった咲良の姿だと察した。


 そして、ようやく定まったような気がする。

 陽向汰が描きたい小説の方向性が――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クズな彼女と現在進行形で付き合っている俺が、エッチで美少女な後輩から言い寄られている 譲羽唯月 @UitukiSiranui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ