第18話 これから重大な任務になる、絶対に失敗しないように
「まあ、そういうことだ。陽向汰には、後のことは任せたから。和香もな」
「はい」
「わかりましたッ、高瀬先輩のためにも頑張りますので」
ついさっき、今日の授業が終わり、放課後を迎えたのだ。大半の人が帰宅したり、部活へと向かう中、陽向汰と和香は、別校舎にある読書部の室内にいたのである。
同じ空間にいるのは
椅子に座っている二人に対し、その場に佇んでいる先輩は今日やるべきこと伝えていたのだ。
「高瀬先輩の方は、これからどうするんですか?」
「それはな。ちょっと、生徒会室に行ってくるのさ。こっそり侵入してな」
「でも、今日は生徒会役員の会議の日ですよね?」
「まあ、そうだな。だからいいんだよ。あとは、野崎っていう生徒会役員の子とうまく会話するんだぞ」
「はい。そこは何とかなります」
「ん? そういや、野崎って子。そろそろ、学校を後にする時間帯だと思うから。早く尾行して、接触を図るように」
「はい」
陽向汰は、そのテンションに合わせつつ、相槌を打ちながら話を聞いていたのだ。その後、後輩と共に部室を後にすることにした。
「高瀬先輩、急すぎるよな」
「そうですか? でも、これはチャンスなんです。ようやく部費の件を解決できる重要な時なんですから。それに、なぜ、部費が少なくなっているとか。そこまでわかるかもしれませんし」
「まあ、それはあるかもしれないな」
だがしかし、そう簡単に、あの生徒会役員が口を開くかと言ったら怪しいところだ。
陽向汰は考え込みながら、和香と別校舎の廊下を歩く。
「あ、ちょっと待って」
「なんです、陽向汰先輩」
「やっぱ、学校内では少し距離をとった方がいいかもな」
「あの人の件で?」
「ああ」
「では、私、最初に尾行をしておきますね。陽向汰先輩は少し遅れてきてもいいので。お願いしますね」
「わかった」
そして、二人は階段のところから別行動することになった。
和香の方は最初に昇降口へと向かって行くのである。
「……というか、本当にこんなでいいのか?」
今週中になってから本当に、咲良から威圧的なことをされることも、言われることもなくなった。
むしろ、皆と一緒に会話している時は、普通に親し気な笑顔で立ち振る舞っている感じだ。
それから、別れたとか、そういう風な話をすることもなく、いつも通りであった。
逆に何もないということの方が怖くてしょうがなかったのである。
陽向汰が読書部のある別校舎の廊下を一人で歩き、本校舎に繋がっている中庭通路に出たところで誰かの気配を感じた。
嫌な意味でドキッとし、顔を上げ、正面へと視線を向ける。
瞳の先には、
「ねえ、あんたさ、ちょっといい?」
比較的、優しめの口調ではあるが、どことなく、心の底から復讐心に近い、感情が伝わってくる。
二人以外誰もいない裏庭通路。
彼女は陽向汰がいる場所まで距離を詰めてくる。
咲良は学校にいるがゆえに、そこまで本性を現しているわけではないが、何となく察することができた。
「なんですかね?」
「……とぼけるつもり? あんたさ、この前、私に酷いことしたじゃない。忘れてないわよね? あと、前回の分と、今週中のお金。早く渡してくれない?」
次第に、彼女の本性が表になってきていた。大半の人が、部活をしている時間帯。基本的に、中庭通路を通る人なんて限られている。誰もいないを把握できたことで、裏の感情を隠すことはしなくなったのだろう。
「今日は……ちょっと無理」
「今日は? 渡すって約束だったでしょ? 無理って、どういうこと? 私のことを舐めてる?」
「いいえ……」
「じゃあ、ここで話すのも、後々めんどくなりそうだし。別のところに行きましょう」
「今から?」
「ええ。私と別れたとしても、お金の件はまだ続くから」
ようやくこの時が来てしまったかと思う。
今週中になってから、大人しくなったと思って怪しんでいたら、この仕打ちだ。
咲良はやはり、クズである。
一筋縄ではいかないらしい。
「どこでなら話せる? そういや、あんた部活に所属してるのよね? 今から、そこに行かない?」
「いや、簡単に話そうよ。じゃあ、学校近くにコンビニあるし、そこで、お金を下ろすからさ」
「いや、そういう単純な事じゃないし。お金は最終的には貰う予定だけど、それ以外にもね、話したいことがあるの。この頃、何も話してなかったじゃない?」
「でも、そんなに長話になるなら、後にしてほしいんだけど……」
陽向汰は勇気をもって言った。
今から和香の元へと向かわなければいけないのだ。
こんなところで、足止めを食らっている暇なんてないのである。
「あんた、どこかに行くつもり? 予定とか?」
「そ、そうだよ。というか、俺らはもう別れたんだ。そこまで関わりたくないし」
「あっそ。でもね、逃げるんだったら、あんたの人生も壊滅的になるかもよ」
「……お、脅し?」
「いいえ。忠告。というか、私の裏には色々厄介な人がいてね。その人らに目をつけられたら、どうなるかなっていう話よ。あんたがそれでいいっていうなら、私はなんだっていいけどね」
なんだよ、裏に厄介な人って……。
もしや、裏社会の何かがついているのか?
陽向汰の脳裏には、絶望的なビジョンしか見えなかった。
「まあ、いいわ。あとでもいいけど。あんたは、今後どうなるかだよね」
咲良は意味ありげな発言をしつつ、背を向け、立ち去っていこうとした。
「なんだよ、裏にいる人らって」
「それは、その時になってからね。今日は話したくないんでしょ? だったら、あんたは覚悟しておきなさいよ」
咲良は軽く振り返り、睨みつけてくる。
陽向汰はドキッとし、体の中を抉れた感じになった。
気分が悪い。
「まあ、あんたが今日、話したくないっていうのなら、私、帰るから」
咲良は背を向け、そのまま歩き出して行った。
本当にヤバい奴だったのか?
数か月ほど、咲良とは付き合っていたわけだが、学校外ではどんな奴と関わってるかなんて知らなかった。
逆に怖さが増すというもの。
今、彼女を追いかけたとしても、和香との約束を守れなくなる。だから、今は咲良とは関わらないことにした。
後で何かがあったとしても何とかなる。
今、陽向汰の通学用のリュックの中には、昨日、高瀬先輩から返してもらったボイスレコーダーがあるのだ。
唯一の希望であり、対抗手段である。だから、ある程度、心の不安を維持できていた。
「……和香のところに行くか」
陽向汰は少し早歩きで、本校舎の昇降口へと移動する。
校舎を後に、校門を通り過ぎた。
そして、通学路を走り、和香の後ろ姿を見つけたのだ。
距離を詰めていく。
「遅れてごめんな」
「……もう、陽向汰先輩。遅いですから。少し遅れてきてくださいって言いましたけど。ちょっと遅いです」
「本当に、ごめん。色々あってさ」
「色々?」
「いや、それはいいや。それで、あの生徒会役員は?」
「でしたら、あっちの方を歩いてます」
和香が指さした場所を見ると、
最初の内は尾行を続け、様子を見て、奇遇な感じを装い関わっていく流れらしい。
陽向汰は和香と共に、野崎先輩の後を、こっそりと追いかけるのである。
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