第22話 部長って、なんで、学校に来ないんだろ

 ふと思うことが、杉本陽向汰すぎもと/ひなたにはあった。


「というか、なんで、和香は部長の家を知ってるんだ?」

「それは、まあ、実を言うと、私と部長は昔からの仲なのです」

「……⁉ そうだったのか?」

「はい。あまり言わないようにしてって、入学前に部長から言われてたんですけど。もう、隠す必要性はないでしょうし。陽向汰先輩に疚しい感情を抱きながら生活するの、ちょっとどうかなって思い始めていたので。今、言うことにしました」

「でも、なんで、言うなって言われてたんだ?」

「さあ、私もわかりませんけど、そういう事だったので」

「そっか」


 今、陽向汰も知り得たことだが。

 まさか、和香と部長が知り合いだったなんて。

 ということは、以前の辻褄も合う。


 元々、陽向汰はネット上で小説を書いていたのだ。それについて知っているのは、部長だけ。そういった経緯もあって、部長が中学時代の頃の和香に教えたのだろう。


 モヤモヤした部分が解消はされたものの、部長は大人しいふりをしていて、なんでもかんでも話し過ぎると思う。

 そういう大事なことは、事前に相談してほしいと感じる。


 でも、そういう勝手な行動するところも部長らしいのかもしれない。


「それで、今から行く場所は、あなた達の部長の家なんですよね?」

「はい、そうです」


 学校を後に、通学路を歩く三人。

 今の時間帯的に、夕暮れ時であり、六時になるかならないかである。


 普通なら、この時間には立ち寄らないのだが、八木和香やぎ/のどかがメールで部長から許可を貰ったらしい。

 今は、部長は家に一人ということで問題なく来てもいいとの事。


「……その先輩、今年になってから不登校よね」

「はい、そうですね。なので、今の読書部は、全部、俺がやってるわけなんですが……」

「大変そうね、杉本さんも」

「でも、和香がいるので、多少はマシですけど」

「そうな……」


 陽向汰の本音に、野崎怜南のざき/れなは相槌を打ちながら話を聞いているようだ。


「……本当にごめんね。杉本さんには迷惑ばかりかけて……」

「え、いや、いいよ。大丈夫だから。そもそも、野崎さんが悪いわけじゃないよ。あの咲良が悪いんだよ。全てね……」


 咲良がいないところでは、比較的強い口調になる。

 彼女がもし近くにいたらと思うと、ヒヤッとするが多分大丈夫だろう。

 でも、陽向汰はチラッと背後を振り向いた。

 うん、いないな……。


「それで、咲良って、どうなの?」

「この頃、そこまで関わっていないから何とも言えないけど……後々、覚えておきなさい的な発言は、この前されたくらいかな」

「そう……じゃあ、早めに対策を打たないといけないね。私もできる限りのことはするから」


 怜南は申し訳程度に言うだけだった。


「それで、野崎さんは、中学の頃から咲良のことを知ってるってことだけど。どんな人と関わってるか知ってる?」

「関わってる人?」

「学校外での人間関係的な」

「……私もそこまで彼女とは親しい関係ではないし。ただ、表面上だけ、親しくしていただけだから、プライベートまではちょっと」

「わからないって感じか……」


 クラスメイトも、咲良の表向きしか見ていない。だから、本当に誰も、彼女の裏の交流関係を知らないのだろう。


 咲良は何かがあるかもしれないと脅すような口ぶりではあった。が、実際、どんな形で、仕打ちを受けることになるのだろうか?


 朝起きたら、ヤバい奴が家に押し入ってくるとか?

 そんなの嫌だな……。

 そういったことは想像もしたくもない。


 咲良と関わってわかるのだが、やはり、金銭関係の問題が一番辛いのだと、身に染みてわかる。

 逆に、そこに関しては、咲良との交流がなかったら、体感的にわからなかったと思う。


「あ、そうだ、先輩、ちょっと、あのお店に立ち寄っていきませんか?」


 先輩という発言に、二人は一緒に歩いている和香を見やった。

 すると、和香が指さしている場所がある。それは、お菓子専門店。


「あのお店って昔ながらの和菓子屋なんですよね」


 と、怜南は倉重な話し方をする。


「はい。そうです。昔ながらのお店です。それと、あのお店。部長が好きなお菓子が売ってる場所なんです。だから、差し入れにはいいと思いましたので。あと……先輩二人には、お金を出してほしいと言いますか。いいですか? 私も出しますので」


 和香は頭を下げ、二人の反応を伺いながら頼み込んできた。


「別に俺はいいけど。野崎さんは? 大丈夫?」

「うん、私もいいよ」

「ありがとうございます。本当に助かります。確か、お菓子一箱でも、三千円以上するお店だったので」

「そんなにするのか?」


 陽向汰は本格的な和菓子屋だと感じた。

 普段、お菓子といっても、コンビニやスーパーで購入したものしか食べない故、衝撃的な金額である。






「先輩たちは何にしますか?」


 お菓子専門店には多くのお菓子が出揃っている。何にしようか、悩んでしまうほどに、食べたくなる商品ばかり。

 逆に何を購入すべきか、判断に戸惑う。


 お菓子専門店の内装は、和風な感じの場所。

 落ち着いた雰囲気のある空間であり、部長が好みそうな空気感のある店屋だと思う。

 そんな印象を受けた。


 店内に並べられたお菓子の箱の数々は、パッと見ただけでも、三千円以上するものばかり。もっとも高い商品だと、一万円以上するらしい。

 本当に高級な店屋だと思う。


 それに、部長って、昔から高価なモノばかり食べてたんだなあと思うと、どんな家庭環境なのか、さらに気になってしまう。


「部長には、どんなものがいいですかね?」

「じゃあ、これなんかは?」

「これ、ですか?」


 和香はまじまじと、陽向汰が手にしているお菓子の箱を見つめる。


 陽向汰は、最中の箱を選ぶことにした。部長が、読書部の部室での活動中。毎日、最中を口にしていた。

 だから、最中がいいと考えたのである。


「確かにそうですね。最中がいいですよね」


 和香はハッキリと頷いた。


「では、最中を……この箱の値段は四千円ですね……。なので、先輩方二人は、一三〇〇円でよろしいので。私が、一〇〇円多く支払いますから」


 和香は、陽向汰と怜南の方を交互に見ていた。


 あまりにも高価なモノだったとしても部長に申し訳ない。

二人は、それでいいと承諾した感じに、財布からお金を取り出し、後輩の和香に手渡ししたのだ。


「では、買ってきます」


 と、和香は箱を手にし、三人分の合計金額四千円を持ち、会計の場所へと向かって行くのだった。






 そして、購入したのち、部長の家へと向かう。


「部長の家、ここなんです」


 部長の家は、お菓子専門店から数分ほど離れた場所に位置し、意外と近いところにあるのだと感じた。


「では、私がインターフォンを押しますね」


 陽向汰と怜南は背後に控え、和香が積極的に、部長の扉に近づいて行くのである。

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