第21話 高瀬先輩って…まさか…⁉

「今日は、来週に向けての作戦会議になるから」


 翌日の放課後――高瀬藍那たかせ/あいなは言葉を切り出す。


 三人は読書部の室内にいて、長テーブルを挟むように、椅子に座っていた。

 疚しい感情を抱いている杉本陽向汰すぎもと/ひなたと和香は、対面している高瀬先輩に対して、そこまで明るい表情を見せるわけではなかったのだ。

 どちらかといえば、気まずさが相まった顔つきである。


「私の方なんだが、来週中の生徒会の動きは大体把握できたんだ。二人がいて、本当に助かったよ。ありがとな」

「はい……」

「高瀬先輩のためになったのなら、良かったです……」


 陽向汰と和香は、気まずげに頷く程度。

 あまり良い反応を見せることなく。むしろ、高瀬先輩から距離を取りながらの対応であった。


「ん? どうした? 二人とも元気がなさそうだな。二人も、役員の野崎の情報を得られたんだろ?」

「はい、そうなんですけど……」


 八木和香やぎ/のどかはハッキリとした口調ではなく、先輩の顔色を伺うように話す。


「……そうか。だったらがいいが、それで野崎はなんて言ってたんだ?」


 高瀬先輩の問いかけに、二人は顔を見合わせ、言おうかどうかを迷う。

 けど、やっぱり、あのことについては深く追求することなく、野崎から知り得た、部費にまつわる話をしようと思った。


「あのですね、わかったことがあるんです。部費が少なくなった理由は、咲良という先輩が関わっているらしくて。元々、陽向汰先輩と付き合っていた人なんですけど。その咲良先輩が、野崎先輩の弱みを握って、学校の部費を脅し取っているらしいです」

「そうか。咲良か。この前、言っていた人のことだね。私もこの前、彼女を尾行していたけど。確かに、咲良って子は怪しいね」


 高瀬先輩は考え込むように頷いていた。

 咲良の身の回りに関しては、大方把握しているような話し方である。


「それで、野崎さんも手伝ってはくれるようにはなったんですけど……。今日は、用事があるということで不在なんですけど。来週からは協力してくれるっていう話にはなりましたので。その報告だけしておきます」

「そうか。協力してくれるんだね。うん、それはいい兆候だね。これで、やっと、学校の闇が明らかにさせることができるな」

「はい」

「……」


 高瀬先輩は希望に満ち溢れた顔を見せているが、二人だけは彼女と対比するように表情がよくない。

 体から黒いオーラが放たれているかのように、暗い印象が目立つ。


「えっと、高瀬先輩は昨日、どうやって、侵入したんですか?」

「それはな、野崎の姿に変装して、生徒会室に入り込んだってこと。まあ、昨日は生徒会の会議だったわけなんだけどさ」


先輩はサラッと、とんでもない発言をかます。


「まあ、私の作戦達成のために昨日さ。野崎とは、生徒会長の変装をして接触してさ、嘘の情報を伝えて帰宅させるように仕向けたんだよ」

「変装もできるんですか?」

「まあ、な。そういうこと」

「だから、野崎先輩は、生徒会の会議に参加することなく、岐路についたってことなんですね」


 和香の中で、モヤモヤしていた感情が晴れた瞬間であった。

 にしても、変装してまで目的を達成しようとするなんて、規格外すぎる。




「ま、そういうこと。今回は助かったよ。では、私も色々とやることがあるんで、ここで帰らせてもらうから」


 高瀬先輩は席から立ち上がる。


「あ、あの先輩……」

「ん? なんだ?」

「……あ、えっと、やっぱり、なんでもないです。すいません……」


 和香は言葉を詰まらせていた。

 言いたいことはある。

 知りたいことも山ほどあるのだが、やはり、真実を知るのが怖かったのだ。


 仮に、先輩の正体を知ってしまったら、後戻りできないような気がしたからである。


「陽向汰も何もない?」

「はい」


 陽向汰は頷く程度で、余分な発言はしなかった。


「じゃあ、また来週な。来週からは本格的に、この学校の闇を暴いていくから。そのつもりでね」


 高瀬先輩は何かを隠している。そんな素振りは見せないが、どこか怪しい気がしてならなかった。

 一度でも怪しいと思うと疑ってしまう。

 けど、ただ、怜南の見間違いなのかもしれない。


 実は高瀬先輩の名前が、学生の名簿票の一覧にあったという結果であってほしいと願う。


 高瀬先輩は、今日だけは部室の扉の方から出て行ったのだ。






「……」

「……」


 読書部で二人っきりになった。

 高瀬先輩は怪しい。

 けど、追及するのも怖く、疚しい感情を抱いたまま、今日の話し合いが終わったのである。


 怜南からは、先輩とやり取りする際は、普段通りに会話してと昨日言われていた。

 そもそも、今の時点で先輩の正体を追求しなくて正解だったのだろう。


 天井に潜んでいたとか、急に姿を消したりとか、言動もそうなのだが……。


 出会った時から、怪しいというところばかりを見かけてきたのだ。

 今更、怪しいと考えるのもおかしなことではあるが。


「ま、まさか、高瀬先輩って……もしや、幽霊とか?」

「……それはないと思うけど」

「でも、じゃないと説明がつかないんじゃないですか?」

「……」


 陽向汰は迷う。

 なんて返答すればいいのか、言葉選びに悩んでばかりだった。


 高瀬先輩に関してはおかしいところが目立つ。

 ゆえに、一つでも怪しいところがあると、疑ってしまいたくなるのだろう。


「まあ、あの先輩はさすがに、霊的なものじゃないと思うよ」

「どうして、そう思ったんですか?」

「何となく、そんな気がする」

「え?」

「俺らの部長と繋がりがある人なんだ。だからさ」

「意味わからないですけど。そうですね。私らの部長と知り合いってことは、人間ではありますよね?」


 和香は必死に受け入れようとしていた。


「でも、今日はどうする? 帰るか?」

「んん……でも、野崎先輩からの返答を聞いてから帰宅しましょう」

「そうだな。それまでの間、本でも読んで待つか」

「はい」

「そういや、まだ、コメントをつけていなかった本もあった気が。あと、来月の本のピックアップもしないと」

「そうですね。それは私も手伝います」


 和香は親しみを込めて協力する意思を見せていた。






「失礼します……」


 野崎怜南のざき/れなは伺うように、読書部の中に入ってくるのだ。


「野崎先輩、やっと来たんですね」

「はい……一応、やることは終わったので……あの先輩。今はいないですよね?」

「いないよ」


 陽向汰は一応、辺りをキョロキョロと見てから返答した。


「じゃあ、入るね」


 だが、高瀬先輩はどこかで隠れている可能性があり。完璧にこの部屋にいないとは言い切れない。しかし、そんなことは怜南には伝えないでおいた。

 あまり、彼女を怖がらせない対処である。


「それで、あの件なんだけど、やっぱり、いなかったわ」

「いない……そうですか」

「じゃあ、本当の名前が違うとか?」

「んん、そう思って調べてみたんだけど。そこまではわからなかったわ」

「なんでですか?」

「なんか、調べようとすると、エラーになるの」

「エラーに?」

「うん。もしかしたら、外部の力があるのかもしれないし。それに、今回の調べ毎は、他の誰にも知られたくなかったら、それ以上の情報は得られなかったの」

「そうですか」


 和香は軽く頷くだけだった。

 部室内が静まり返るようだ。


「でも、それだけあれば大丈夫です「


 和香は彼女を安心させていたのだ。


「そうだ、野崎先輩も、本を読んでいきますか? 今から時間があったらでいいのですが」

「うん。読んで行こうかな……でも、その前に、やっぱり……ごめんね。何の力にもなれなくて」

「いいですよ。野崎先輩が本当のことを言ってくれたので、大分早めに、問題が解決されそうです」


 和香は安心させるように言った。


「ありがと」


 怜南は軽く笑みを見せて、返答をしてくれる。


「……そうだ、あと、陽向汰先輩。部長のところに行きましょう」

「部長のところ?」

「はい。部長の家に行けば、あの高瀬先輩が、本当に部長の知り合いかどうかわかりますし」


 和香はなぜか積極的であった。

 でも、真実を知るためには、必要な行為だと思い、陽向汰は、和香のいう通り、今日の放課後、部長の家へと向かうことにしたのだ。

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