第20話 …でも私、その人知らないわ…一体誰なの?
同じテーブル前に座る女の子――
ただ、押し黙った感じになっていたものの。
やっと、重たい口を動かし始めた。
「……私、あのね。でも……やっぱり、こんなこと、言えない……」
「え、な、なんでですかッ」
怜南は俯きがちになり、言葉を詰まらせる。
その行為に対し、和香は驚き、なぜといった態度を見せていた。
いつまでも隠し事をしていても、何も得られない。
学校の闇を明るみにするためにも、野崎には協力してほしいのだ。陽向汰は内心、そう思い、二人の会話に混じっていく。
「俺からもお願いします。じゃないと、今後、もっと大きな事件になりそうというか。野崎さんも困るんじゃないですか? こんなことがバレてしまったら。それに、普段から部費とかの会計を担当してるんですよね?」
「……でも、しょうがないの。私がすべて悪いんだし」
怜南はボソッと気まずげに言う。
隠したい何があるが、同時に、悩み事を聞いてほしいといった感じの話し方。
陽向汰は臆することなく、次の言葉を打ち出す。
「やっぱり、隠し事はよくないですから。でも、なんで、部費が少なくなってるんですか?」
「そ、それは……」
陽向汰はいつにもなく、攻め込んだセリフを吐く。
隣に座っている和香も少々驚き気味であった。
「……これだけは約束して、今のところは誰にも言わないで。約束できるなら言うから。本当に、今度は躊躇わずに言うから。お願い……」
怜南の瞳から感じる怯え。学校にいる時は、あまり感じることのなかった、彼女の本心が晒され始めていた。
「わかりました。私、約束します」
「俺も。絶対に言わないから」
二人は、真摯に怜南と向き合う。
「……じゃあ、言うけど……その前に、杉本さんは咲良と同じクラスでしょ?」
「うん。そうだね」
咲良が何か関係しているのだろうか?
ふと思う。
「あのね。今の部費の振り分けがおかしくなっているのは、私のせいなの。私……中学時代の時、咲良の恋人を……」
「どうしたんですか?」
和香はさらに詰め寄ったセリフを吐く。
「元々、私がハッキリと伝えなかったのが悪かったんだけど。中学時代ね、咲良に。咲良の彼氏と付き合っているところを目撃されたの。でも、私、その人のこと、好きでもなかったし。相手の方から強引に言い寄ってきただけなの。それに私、咲良の彼氏だなんて知らなくて」
怜南は、過去のことを苦しむ顔つきで言う。
聞いているこちらも、心が震えるようだった。
「では、付き合ってないって。言えばよかったのでは無いでしょうか?」
「わ、私は言ったわ。けど、ダメだったの。というか、私に告白していた、その人がね、何事もなかったかのように振舞ったせいで。すべて私のせいになったの」
「それはヤバいな」
「その人、やっぱり、厄介な人だったんですね」
陽向汰も、和香も賛同するように頷いていた。
表向きはいい奴を装っている咲良だが、昔からあんなんだと、今後もそうそう変わることはないだろう。
「でしたら、その情報を表向きにしましょう。絶対に、私、協力しますから。ね、陽向汰先輩ッ」
「あ、ああ、そうだな。俺も協力するよ、野崎さん」
「……いいの? 私に協力してくれるって」
怜南は驚きつつも、瞳から涙を見せている。
心が救われた感じになったのだろう。
怜南は現実かどうかを理解できずにいたが、それが本当であると感じれたようで、涙を流していた。
今までの苦しみから解放された表情を見せる怜南。
刹那、彼女とはようやく心の奥底を一つだけでも知り得たような気がした。
「では、今から、ここにいる三人は同盟を組むことになるんです」
「同盟?」
「はい。俺も、あいつからは色々とあったので。いっその事、協力した方がいいのかなって。和香の言う通り、俺もそう思ったんですけど……」
和香も、陽向汰も、怜南の苦しそうな顔を見つめ、優しく問いかけていた。
協力し合った方が断然いい。
その方が解決へとたどり着きやすくなるというものだ。
「でも、どうやって? 証拠はどうするんですか?」
怜南はまだ完璧に過去との決別ができていない。証拠がなければ、咲良には反抗的な態度なんて見せられないと思ってるのだろう。
「それはさ。すでに用意されてるんだ」
「そうなの?」
「はい。なので、心配しないでください」
陽向汰が安心させるように話を切り出し、怜南は、まだハッキリとした表情を浮かべたわけではなかったが、軽くだけ、頷いてくれた。
和香もいるのだ。
怜南はホッと溜息を吐き、安心した顔つきになっていた。
「それで、私は何をすればいいの?」
「それは、先輩が知ってることを、教えてくれればいいです」
「……知ってること」
怜南は相槌を打つ話し方をする。
知っていることをなんでもいいから、教えてほしい。そして、同じ人生を歩んできた同士で情報を共有したいのだ。
陽向汰も、ここ数か月、地獄みたいな生活の日々だった。
同じ苦しみを分かち合った者同士ならば、本当のことを言ってくれるに違いない。
「二人は本当に協力してくれるの?」
「はい。そうです。あと、もう一人、メンバーがいるんですけどね」
「メンバー? 誰? 私の知っている人?」
「はい。多分、知ってると思います」
「それで、誰なの?」
怜南は興味を持ったようで、二人を交互に見やった後、和香に問いかけていた。
「えっと、ですね……三年生の高瀬藍那先輩です」
和香は心強い味方の名前を堂々と口にする。
「……」
怜南は首を傾げていた。
「どうしたんですか、野崎さん?」
陽向汰は、表情が変わった怜南を見やる。
「あ、あのね。私知らないよ、その高瀬先輩」
「……いや、そんなはずは、だって、三年生で、うちの部長と知り合いだって。そう言ってたんですけど」
陽向汰は身振り手振りで、特徴的なところなどを説明するのだ。少々雑な感じではあり、よくわかってはいない様子。
でも、説明が雑だとか、そういう理由ではないような気がする。
「でも、私、知らないの。だって私、生徒会役員で、皆の名簿を見たことあるけど。高瀬って名字自体、一覧表にはなかったはずよ」
「……⁉」
陽向汰はドキッとした。
生徒会役員である彼女が言っているのだ。
嘘とかではない。
だとしたら、高瀬先輩とは一体、誰なのだろうか?
隣にいる和香は、手にしていたクレープ用のナイフとフォークをテーブルの上に置く。
場の空気が、突然、凍り付くのであった。
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