第23話 部長は、なぜ、学校に来ないんですか…

 ここが部長の家なのかと杉本陽向汰すぎもと/ひなたは思う。

 そんな中、八木和香やぎ/のどかがインターフォンを押して、一分程度、時間が経過していた。が、特に反応らしきものが返ってくることはなかったのだ。


「あれ? 部長いるんだよね?」


 陽向汰は和香に問う。


「はい。部室を後にする時、私が連絡した時には、普通にいるって返信があったので……おかしいですね」

「もう一回連絡でもしてみたら?」


 野崎怜南のざき/れなが家の扉前に佇む和香に話しかける。


「そうですね。その方がいいかもしれませんね」


 和香は不安そうな表情を見せた後、彼女は手にしていた、お菓子の箱が入っている袋を陽向汰に渡してきた。

 その後、和香は制服のポケットに入っているスマホを取り出し、連絡を取り始める。目的となる人の家の前で連絡をするとか、おかしいけど。今回ばかりはしょうがないだろう。




「……」


 和香はスマホ越しに、部長と会話しているようだが、そこまで表情の方はよくなかった。

 何かあったのだろうか?


 部長の家の前で連絡を取っている和香の顔つきを見て、そう思う。


「……はい。そうですね、わかりました。でしたら、そうしておきます」


 と、和香は言い、電話をきっていた。


「……」


 和香は制服のポケットにスマホをしまうと、陽向汰と怜南の方を向いた。

 どうしたんだろうか?


「えっとですね。部長は今ですね。家にいないみたいなんです」

「いないの? え、でも、学校出る時は、家にいるとか言っていなかった?」


 陽向汰は疑問の表情を見せた。


「はい。そうなんですけど。どこか、コンビニに行ってるみたいで」

「……勝手すぎるわね、その部長」


 怜南も呆れている感じであった。


「え? でも、部長が家にいなかったら、どうやって入るんだ?」

「それは、家の裏側の方の扉が開いているらしいので、そこから入って、待っててもいいって、言ってました」

「そうか。無断で入ってもいいのか?」


 部長がそう言っているのなら、それでもいいのだろうが、やっぱり、勝手に他人の家に入るのは少々気まずかった。


「はい。なので、入りましょう」

「……それって、家の管理大丈夫なのかな?」


 怜南は一人で呟いていた。


 一応、家の中には入れるようで、外出しているのであれば、いずれ、家には戻ってくるだろう。

 陽向汰は二人と共に、部長の家の裏側へと向かうことになる。


 裏庭の方の扉のドアノブを回すと、本当に鍵がかかってはいなかった。

 不用心な気もするが、一旦、家の中に上がる。


「えっと……確か、あっちの方が居間だったはずです」


 和香は以前部長の家に来たことがあるので、大体のことを知っている。

 案内してもらうことになった。




 三人が部長の居間で座って待っていると。遠くの方から、扉が開く音が聞こえた。


 扉を閉める音、靴を脱ぐ音。そして、家に上がる足音が聞こえてきたのだ。


 その足音が時期に近づいてくる。


 三人がいる居間に姿を現したのは、紫色のジャージに身を纏った感じの女の子。


「ごめん、ちょっと、皆が来るっていうから、コンビニまでお菓子とかジュースを買いに行ってたの」


 その扉付近に佇んでいる彼女は、ニートみたいな感じで、学校に通っていた頃の部長とは全く異なっていた。


「部長? ですか?」

「そうよ。忘れたの?」

「いいえ、そうじゃないですけど……学校に通っている時と、風貌が違い過ぎて……なんていうか。あ、はい……」


 陽向汰は、部長の姿を見やるが、それ以上、突っ込んで話すことはしなかった。変な感じになりそうで、口ごもってしまう。


 部長の綺麗なロングヘアの髪質は、手入れされていないことで、ちょっとばかしボサッとしていた。


「あの……私、お菓子買ってきたんですけど」


 和香が見せたのは、高級なお菓子が入った箱である。


「そ、そうなの? だったら、私、買いに行かない方がよかったかな?」

「はい。私も何も伝えなかったのが悪かったですが……」


 和香も申し訳ない態度を見せる。

 部長は、皆がいるテーブル前近くに座った。


「今日は、聞きたいことがあるってことよね」

「はい、そうですね」


 陽向汰は頷いた。


「それと、まず初めに聞きたいんですけど。部長って、なんで学校に来ないんですか?」

「それは、簡単に言うとね、陽向汰。君に勝つためよ」

「勝つため? 俺に関係してるんですか?」


 陽向汰はビクッと体を動かした。


「陽向汰先輩。何かしたんですか?」

「え、いや……俺は何もしてないけど」


 陽向汰は、一体、何のことなのかさっぱりであり、少々悩み混んだ表情を見せ、俯きがちになった。

 本当に、何かしたっけ……。




「勝つっていうのは、陽向汰って小説書いていたじゃない」

「はい。部長にも、それ伝えましたし」

「だから、私も負けたくなかったの。それで、今年からずっと引きこもって、研究していたの」

「それで学校を休んでいたんですか?」

「ええ」

「……それだけ?」

「それだっけ。これは重要な事なの。私にとって、絶対に譲れないことであって。部長の私が、年下に負けること自体が嫌なの」

「……」


 部長は普段、大人しいふりをしているが、かなり、負けず嫌いらしい。


「私は、そのために、ずっと陽向汰のネット小説を見て、何とか追及していたの。自分なりの技術に取り入れながらね」

「そこまで?」

「ええ。絶対に、陽向汰に勝つためにね」

「それで、結果とかは分かったんですか?」

「まあ、一応ね。大体、選考は通ったわ」

「じゃあ……」

「一次だけだけど」

「……そ、そうですか……」


 逆に聞かなかった方がよかったかもしれない。

 これではただ、部長のプライドを傷つけてしまっただけになるだろう。


 陽向汰は何とか、場の雰囲気を変えようと必死になっていた。


「……私たちは、別に部長の小説に関することを聞きに来たわけではないんです」


 話題を切り替えるように、怜南が言葉を発した。


「私は、部長の知り合いの人の情報を知りたいんです。あの高瀬さんが、部長と知り合いだと言っていましたが、部長は知ってるんですか?」


 怜南は真剣に聞いている。まったく知らない人が、学校にいたらと思うと、それも問題であり、生徒会役員内で緊急会議を開くことになるだろう。


「私は知ってるよ。あの人はね、高校生じゃないよ」

「「「ん⁉」」」


 その場にいた一同全員が、驚愕した。


 高校生じゃないとなると、一体……。


「あの人はね、十九歳なの」

「……えっと、では、留年とか?」

「いいえ。元々、学校に在籍していないわ。本当のことを言えば、あの人は、理事長の娘らしいの」

「理事長の……⁉ え、でも、なんで、学校に?」

「それは、この頃、学校内で部費がどうとかで問題になってるって裏情報を聞いたらしくて。それで、理事長命令で一時的に在籍しているみたい」

「そうだったんですね……」


 陽向汰を含め、他の二人も初めて知った情報に、戸惑いを隠しきれていなかった。


 事実はわかったものの、なぜ、存在感を消したり、変装したり、忍び込んだりできるのだろうか?

 それもまた、心に残る疑問点ではあった。

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