第24話 これからが本当の勝負になるから(先輩の企み)

 土日を挟み、月曜日。

 杉本陽向汰すぎもと/ひなたは学校に通っていた。


 先週の金曜日はようやく、部長と再会できた感じではあったが、まだ、登校するのは、一か月先くらいになるらしい。

 何が何でも、陽向汰には小説では負けたくないと言っていた。


 そもそも、陽向汰はそこまで小説なんて書いてはいない。もう、昔の出来事のようになっているのだ。

 今のところ、読書部でラノベを読めればいい。ただそれだけである。

 それ以上に、部長には学校に登校してほしかった。

 殆どの部活の業務が丸投げにされているからだ。


 放課後になった今。

 陽向汰は溜息を吐いたまま、別校舎の部室に入る。すると、そこにはテーブル前の椅子に座る高瀬藍那たかせ/あいな先輩の姿があった。


「じゃ、予定通り。生徒会役員の部費の闇を明らかにしようか」


 高瀬先輩は何事もなかったかのように、平然と口にしているものの、陽向汰の心には、まだ疑問が残っている。

 陽向汰の瞳に映る先輩の姿。実際に存在する人であることはわかったものの。彼女はさすがに、人間離れした能力を持っている。


 初めて出会った時もそうなのだが、天井に隠れていたりと怪しいところが多い。


「あの……一ついいですか」


 いや、一つ以上ではあるのだが、余計に話すのもよくないと思い、簡潔に質問してみることにした。

 高瀬先輩は、何かな言ってごらんと、気軽な雰囲気を見せ、真摯に話を聞く態度を見せてくれたのだ。


「えっと、ですね……高瀬先輩はどうして、人間離れの能力を持ってるんですかね?」


 陽向汰は言った。

 内心、なんて返答が飛んでくるのか、かなり不安だったものの言い切ったのだ。

 陽向汰は俯きがちになり、少々口を慎む。


「……気になるか? そういうの」

「はい……」


 あれ? 普通に答えてくれるパターンなのだろうか?

 意外と、すんなりとした口調。それに、陽向汰の顔をまじまじと見ている。


「私はね、修行をしてたんだ」

「修行ですか?」

「ええ。私は元々、理事長の元で、忍びの者として、幼少期から試練を乗り越えてきたんだ」

「なんのためにですかね?」


 高瀬先輩の口から飛び出てきたセリフ自体、現実とは思えなかった。

 この時代に、修行とか、忍びとか、そういった訓練なんてあるのだろうか?


「私はね、修行の中で精神統一して、今のような技術を手に入れたってわけ」

「へえ、そうなんですね」


 忍者の末裔なのだろうか?

 そこらへんはよくわからないが、これ以上、突っ込んで聞くのも気まずかった。切りのいいところで、話を止めようとする。


「ん? もしや、陽向汰も、そういう修行とかって興味がある感じか? 興味があるなら、師範に伝えておくけど」

「いや、いいです……」

「そうか? 結構ためになると思うんだけどな」


 高瀬先輩は、悩まし気な顔つきで腕組をしているが、陽向汰は、全力で遠慮したかったのだ。


 意味不明な技術なんて取得しても、陽向汰の人生的に使うことなんて一回たりともないだろう。


「まあ、いいや。その話は一旦、置いといて。あの二人は?」

「今から来ると思います」

「そうか。なら、二人が来たら、生徒会のツールをうまく利用して、あのメールを一斉送信するから」

「メールですか?」

「ああ。まずはじわじわとせめて、最後は一気に攻め込むプランで設定してるからね」


 と、高瀬先輩は今までに見せたことのない悪い顔を見せていた。






「では、全員が集まったことだし、本題に入ろうとするか。じゃあ、二人にも、色々とやってもらうから」

「はい」

「わかりました」


 読書部へやってきた、八木和香やぎ/のどか野崎怜南のざき/れなも、高瀬先輩の近くで佇み、承諾するような態度を見せる。


 実際のところ、何をすべきかはわかっていない。メールを送信するとか、そんなことを先輩は口にしていたが、どういうことなのだろうか?


 陽向汰が今後のことを考えていると、高瀬先輩は事前にテーブルに置いていたパソコンを立ち上げる。すると、メール画面を開いたのだ。


「君らには、この作業を行ってもらう」


 高瀬先輩が指示したことは、学校に在籍している人ら全員に、メールを送信することであった。

 メールと言っても、連絡用という感じではなく噂を広げること。

 いわば、咲良に関する、悪い噂を一斉送信するというもの。


 高瀬先輩は、この前の会議中に、怜南に変装した状態で生徒会役員の情報を仕入れてきたようだ。


 こんなことがバレてしまったら、色々と問題ではあるが、咲良を陥れるためには、この方法しかないのかもしれない。


 であれば、この最善の手段を使いこなすしかないだろう。


「メールの内容に関しては、私が昨日までに打ち込んであるからさ。あとは、この内容でいいか確認してほしいんだ」


 高瀬先輩は皆に指示を出してくる。


「はい……ですけど、こんな遠回しのやり方しかないんですかね?」


 和香は問う。


「今はね。あの咲良って子は、なかなか本当のことを口にしないだろうし。遠回しに、噂を広げて、落とし込んでいくつもり。現状は、こんなやり方になるけど、今後はじわじわと多方面から攻め込んでいくつもりだから」


 高瀬先輩には何かしらの考えがあるのだろう。

 だから、一応、陽向汰は先輩の指示に従うつもりである。


 陽向汰、和香、怜南は先輩から教えられた通りに、メール文の確認を行うのだった。


「……文章的には問題はないと思いますよ」

「はい。私も見た感じ大丈夫だと思いますね」


 怜南、和香は、パソコン画面を前に大まかな部分を確認していた。

 そこまで変な感じの内容でもない。

 献血的でいいと思う。


「陽向汰は?」

「俺も、これでいいと思います」

「そうか。では、今から、学校に在籍している人に、メールを一気に送信するよ」


 高瀬先輩の発言通り、それが実行に映ることになる。

 生徒会役員の怜南の手も加わり、そのメールが一斉に、各々のスマホへと送信されるのだった。






 メールが一斉送信された日の夜。

 陽向汰は途中まで皆で学校から帰宅し、今は一人で歩いていた。


 大がかりなやり方になってしまったのだが、学校の先生とかから苦情は届かないのだろうか?

 それも心配であった。

 嫌な思いが湧き上がってくるが、咲良に反撃できるチャンスを手に入れたのだ。明日からどうなるか、楽しみだった。


 咲良が、どんな状態になっていくのだろうか?

 多分、確実に居場所を失っていくような気がする。

 咲良の裏の姿さえ、皆に伝わればいい。

 そうすれば、お金の件も、足早に解決しそうである。


 陽向汰はワクワクした感情のまま、自宅へと向かい、夜道を歩いていると、背後から気配を感じた。


 なんだろと、一瞬、背筋をビクッとさせ、恐る恐る背後を見やる。が、後ろには特に何かがあるわけでもなく、電灯に照らされた暗い道しかなかったのだ。


 な、何だったんだろ、さっきの視線は……。


 陽向汰は不安な心境になりつつも、早いところ帰ろうと思い、少々駆け足で自宅へと向かうのだった。

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