第29話 ねえ、先輩…問題も解決されたので、一緒にやりませんか?
クズな彼女のことに関しては、ひと段落した。
だから、三人でクレープ屋にて、クレープを食べていたのだ。
そして、先ほど、
二人っきりになったというのもあるのだが、やはり、
こ、こんなで大丈夫なのか?
一瞬、咲良の怒り染みた顔が脳裏をよぎるが。和香と街中で言い寄られていても問題はない。
クズな彼女――
今、学校内でも議論になっていることであり、街中でバッタリと出会うことはないだろう。
そもそも、咲良は明日学校に来られるのだろうか?
多分、難しそうである。
けど、本当に清々した。
大きな悩みが解消されてたからだ。
陽向汰は胸を撫で下ろしながら、人が行き交う夕方の街中を移動していた。
「陽向汰先輩、ようやく私達付き合えますね」
「そうだな」
「私、嬉しいです。昔から付き合ってみたいと思ってたんです。だから、今日は先輩の家に行ってもいいですか?」
「今から?」
「はい。ダメですか?」
「別にいいけど……」
確か、自室には変なものとかは置いていなかったはずだ。
大丈夫だと振り返り、承諾するのであった。
そして、さらに和香から急接近。
和香は右腕に抱き付いてくるものだから、胸の膨らみが強く押し当たるのである。
ひと段落はしたものの、また、別の方で色々と大変なことが生じるのだと思う。
嬉しいけど、緊張した思いを胸に、
「陽向汰先輩、私……先輩のこと好きなんです。だから……」
二人っきりの空間。陽向汰は、正面にいる美少女――和香を前にたじろぐ。
緊張した状況に、陽向汰は、どこへ視線を向ければいいのか戸惑いつつ、唾を呑む。
今が、現実だと思い、和香と本当の意味で向き合う。
「だから……先輩。もう一度、小説を書いてください」
「え?」
キスでもされるんじゃないかって距離での突然の発言。
変なことを考えていた自分を殴りたくなるほどである。
陽向汰は現状を理解するもの、まだ小説を書く気にはなれなかった。書こうと思えばできるのだが、今はそういった気分ではないのだ。
「陽向汰先輩、書きましょう。私、先輩の小説をもう一度読みたいんです。あの頃のように私を楽しませてくれるような、小説を書いてください。もし無理なら、私も全力でサポートしますので」
「サポート……?」
「はい。先輩が望むなら、なんでもします……」
「え、いいよ、そういうことさ。そ、それより、そういった気分じゃないんだ」
和香は制服を脱ぎかける直前だったので、ギリギリのところで食い止めた感じだ。
陽向汰は急に話を切り替えるものの、なかなか、次のセリフが思い浮かばず、口ごもってしまう。
「陽向汰先輩、もしかして、意識してますよね?」
「な、何をかな?」
「それは、先輩の想像にお任せしますけど」
「……」
焦らさないでほしい。
陽向汰は和香と共に、自室にいる。
近くにはテーブルがあり、二人は、床に座り、対面しているのだ。
陽向汰の心臓の鼓動は非常に高ぶりつつある。
学校の部室とは違い、距離を近く感じた。
今後も和香と一緒に付き合っていくと考えると、色々な意味合いで心臓が持たなくなりそうである。
「そんなに、俺に小説を書いてほしいのか?」
「はい。そうです。だから、私、陽向汰先輩と同じ高校に通って、読書部に入部したんですから」
和香はハッキリとそう答えた。
でもな……小説を書いていたのは、昔のことだしな……。
そういう気分ではない。そんな心境であり、陽向汰は和香の誘いを断ろうとした。が、和香の瞳は輝いている。
真剣に小説を書きましょうといった希望に満ち溢れた態度であり、断るもの少々気が引けるというものだ。
やっぱり、書いた方がいいのか……。
陽向汰は考え込み、結論に至ろうとする。
「……わかった、一応、やってみるよ」
「本当ですか?」
和香の満面の笑みを見れたことで、気分的には優しくなれたような気がする。後輩の和香が全力で誘ってきているのだ。
部活でも部長がいない間、全力でサポートしてもらった。
恩を返すつもりで、もう一度、小説を書いてもいいかもしれない。
陽向汰は自身の想いを告げた。
小説を書くことに、まだ抵抗はあるものの、気合で乗り越えていこうと思う。
「では、さっそく始めましょう!」
和香は急に立ち上がり、気合を入れたポーズを見せる。
「はい、陽向汰先輩も頑張るんですからね」
「いや、むしろ、和香の方がやる気に満ち溢れているような気がするけど」
「そうなっちゃってますよね。先輩、私、全力でサポートしますので、失敗することを考えちゃダメですからね」
「うん……」
「では、まず、企画を考えましょう。先輩はどんな作品を書きたいんですか?」
「何にしようかな……」
「ちょっと待ってください。これでいいかな」
和香は部屋の床に置いていた自身のバッグからノートを取り出し、それをテーブル上で広げていた。
和香は丁寧な文字で、そのノートに小説の項目を書き出していたのだ。
「では、陽向汰先輩が書いてみたいジャンルは何でしょうか? そこからでいいので一緒に考えましょうね」
和香の優しい表情を見ると、どうすれ、あんなクズな彼女と付き合っていたんだろうと思う。
でも、これからが大事なんだと、自分に言い聞かせ、和香と小説の規格を組み立てていくのだった。
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