第12話 あんたってさ。私のこと、バカにしてるでしょ?
「ふーん、そう。あんたにしては珍しいわね。まあ、今日、来てやったけど。あんたは私に何をしてくれるの?」
金髪のロングヘアスタイルの
私服と言っても、ちょっとばかり洒落た感じの服装。
パッとしない奴とのデートなんて、この程度でもいいでしょと言わんばかりの、普通の衣装であった。
普通にしていれば、彼女は美少女なのだが、内面が悍ましいのだ。
悪魔に匹敵する。
「なにって、普通に、その……ウィンドウショッピング的な感じで」
陽向汰はおどおどした口調になる。
「それだけ? ただ、街中を歩くだけってこと?」
「そうなりますね」
「その程度で、私を呼んだわけ? この貴重な休みを使って?」
「はい……」
二人は地元駅から五つほど離れた場所にある街中にいた。
付き合うなら知り合いのいない場所でと言われ、昨日、スマホでやり取りを行っていたのだ。
後輩の和香の作戦通り、咲良とのデートに至ったわけだが、非常に心にくるものがあった。
もう、帰りたいというのが、率直な感想である。
けど、逃げられない。
逃げてばかりではどうしようもないのだ。
「本当はね、私、別の用事があったわけ。その時間を割いてまで、ここに来てるの。その程度で私を呼び出すとか、正気?」
「正気っていうか。俺らは一応、付き合ってるというか。そんな関係ですよね?」
「まあ、そうね。でも、あんたから私を呼んだからには、何か奢ってもらうけど?」
「奢るの?」
「当たり前でしょ。それがあなたと付き合ってる理由なんだから。むしろ、あんたは私のためにお金を出す程度でいいわ。それ以外に価値なんてないもの」
「……」
陽向汰は内心、嫌だった。
けど、咲良の確たる証拠を得るためには、デートするしかないのだ。
昨日、
その作戦を立てていたのだ。
近くには、変装した和香がついている。
今はみっともない姿を晒すよりも、上手く立ち回っていくしかないだろう。
「わ、わかった。一応、どこかの店屋に行こうか」
「で、どこに行くの?」
「それは……えっと……」
「まさか、何も決めていなかったわけ?」
咲良から睨まれる。
本当に何も決めていなかった。
お金をあまり消費しない程度に、ウィンドウショッピングで済ませようとしていたのだが、詰めが甘かったらしい。
やはり、咲良とのデートはすんなりとはいかないようだ。
わかっていたことだが、お金の消費が激しすぎるのは辛い。
何が何でも、お金を消費させようとする、咲良の言動にはうんざりだった。
陽向汰は一応、背後をチラッと見やる。
視線の先には、帽子をかぶり、茶色っぽい服に身を包み込んだ和香が近くの店屋前に佇んでいた。
普段とは違い、地味な服装で存在感をカモフラージュしながら、陽向汰と咲良の様子を伺っているのだ。
和香の存在は、まだ、咲良には知られてはいないと思う。
何とか、誤魔化しつつ、立ち回っていくしかないだろう。
「じゃあ、行こうか。デパートとかでもいい?」
「まあ、いいわ。では、行きましょうか」
咲良は偉そうな態度で頷くと、陽向汰よりも先に歩いて行った。周りには咲良と親しい人がいないのだ。
咲良の態度は普段よりも横暴であった。
「ねえ、何するの? 私を退屈にさせる気?」
「いいえ」
「だったら、早くしなさい」
咲良からまた横暴な態度をとられてしまう。
デパート内。
本売り場へと訪れていた。
二人は一先ず、その本屋前に設置されたベンチに座っている感じだ。
陽向汰は内心、大きなため息を吐くのだった。
好きな本屋の前なのに、どうして、苦しまなければいけないのか、理解に困る。
「なに? なんか、面倒くさいとか、思ってなかった?」
「いいえ」
「あっそ。だったら、どこに行くの? まさか、本屋?」
「……本屋はあまり見たくない派でしょうか?」
「そうよ。私を案内する場所は、本屋じゃないわよね? 他の場所よね? でも、私の想像と違う場所だったら、代償を払ってもらうから。お金っていう代償で」
「は、はい。わかりました……」
陽向汰は家来のように、反抗的な態度を見せることなく、彼女の発言に真摯に頷く。
そんな中、陽向汰はこっそりと、別のところへ視線を向けるのだった。
……和香もいるな。
デパート内。変装しながら尾行している後輩の姿があった。
和香は本屋の中にいて、ベンチに座っている二人を、本を読みながら監視しているのだ。
彼女がいるとなれば、一安心できるというもの。
「……あんたさ、さっきから、どこ見てるの?」
「えッ、い、いや、何も見てないですけど」
「なんか、隠してるでしょ?」
「え……い、いいえ。何も隠し事はありませんけど」
「本当?」
「はい」
「……なんか、話し方とか言動がおかしいのよね。あんたって」
「そんなことは……」
「むしろ、あんたにしてはいつもおかしいんだけど」
咲良からの辛辣なセリフが飛んでくる。
「でも、今日、私をデートに誘ってきた時点でおかしいのよね。何か隠してんじゃないの?」
「何も隠しては……」
「本当に隠してない?」
陽向汰は咲良の顔を直視できなかった。
「嘘ついてんなら、苦しくなるのはあんた自身よ。それでもいい?」
高圧的な態度。身の回りに、知っている人がいないからって。好き放題言い過ぎだ。
「なら、来週。クラスの皆に、あんたの、あの噂言いふらすから。まあ、クラスのアプリアカウントに、ここで入力すれば終わりなんだけどね」
「だ、だったら、お、俺にも対抗手段があるから」
「は……?」
刹那、咲良の表情が変わったことに気づいた。
実のところ、彼女は動揺している。
対抗というセリフに、咲良は目を丸くしていたからだ。
「う、嘘に決まってんじゃん。そんな嘘で私を脅すつもり?」
「お、脅しじゃない。本当に対抗手段があるんだ。ここにさ」
陽向汰は、私服のポケットから、とあるものを取り出す。
それはボイスレコーダーである。
咲良とデートする数分前からスイッチをオンにしておいたのだ。
今までの脅迫じみた音声はすべて、この中に納まっている。
言い逃れなんてできない。
陽向汰が、今日デートしようと思ったわけは。咲良の本性を晒すように仕向け、ボイスレコーダーにそれを保存する事。
目的は一部、完了した。あとは、来週にクラスメイトに公開すればいいだけである。
これはもう勝ち確だろう。
声の持ち主は正真正銘、咲良であり、言い逃れなんてできない。
陽向汰は絶対的な優越感に浸っていた。
これを元に、咲良を揺すれば、彼女は絶対に従ってくれる。
ゆえに、現時点から、立場が逆転したことになるのだ。
か、勝った。
ようやく勝利を収めたと思い、近くの場所で佇んでいる後輩へと、視線で軽く合図を示す。
「……」
正面にいる咲良の表情は暗い。
もう終わってしまったと言わんばかりの態度に、陽向汰は内心、ガッツポーズをとる。
「……ねえ、あんたさ。調子乗ってるよね? でも、これいいの?」
「え?」
陽向汰が彼女の方を見やると。咲良の手元にはスマホがある。しかも、陽向汰の秘密がアプリチャットのコメント欄に入力されているのだ。
「え……え⁉」
「ねえ、あんたさ、そのボイスレコーダーをよこしなさい。じゃないと、送信ボタンを押すわよ。これで、クラスのアプリアカウントに贈られるわ」
「そ、それは、待って」
「待つ? 別にいいけど。条件として、そのボイスレコーダーを私に渡すこと。それができなかったら押すから」
咲良の瞳は本気である。
殺意力高めの視線を陽向汰に向けていた。
こんな状況……あり得ないだろ……。
陽向汰が抱いていた優越感は、一瞬で崩れ去り、終焉を迎えるのだった。
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