第10話 本当に、あの先輩、色々とヤバい気がする…
「まあ、そういうことだ」
三年生の先輩、
この学園で生じている事。それらすべてを陽向汰と和香は知ることになった。
まさか、そこまで大事になっていたなんてと思う。
陽向汰にしても、和香にしても、読書部だけの問題ではなかったらしい。
今、学園内に属している一部の部活の部費の割り振り方もおかしいようだ。
それ以上に驚いたのが、生徒会役員が管理しているお金が毎月減っている事。それに関しては新情報だった。
でも、なぜ、そんなことを、高瀬先輩が知っているのだろうか?
「それで、高瀬先輩はどうして、お金が少なくなってるとわかったんですか?」
陽向汰が聞こうとしていた事を、和香が口にしていた。
「それはだな。私は、スパイだからさ」
「……」
「……」
話を聞いている二人は、この先輩は何を言ってるんだろうと思ってしまった。けど、一応、年上なので、そうなんですね的な感じの態度を見せる。
が、やはり。二人の脳裏には、クエスチョンマークが浮かんでいたのだ。
まったく意味が分からないけど。高瀬先輩はスパイだということ。それは何となく、わかったようなわからないような……。
やっぱり、この先輩もヤバい人なのかもしれない。
と、陽向汰は思った。
隣の席に座っている
「それで、一応、お願いがあるんだ。君ら二人は、私の友達と同じ部活で、その後輩なんだろ?」
「まあ、はい……」
「そうですね……」
陽向汰と、和香も、ハイとはすんなりとは言わず、そうです的な感じに答えた。
今、学校に登校していない、部活の先輩は比較的普通の人ではあるのだが。その先輩の友達である、高瀬先輩は話す事成す事が、すべてぶっ飛んでいるのだ。
怪しすぎる。
陽向汰はそう思っていた。
「それで、願いとは何でしょうか?」
和香が一応、聞いていた。
「それはな、この学園の調査というか。まあ、そこまで面倒ではないけどさ。普通に生活している範囲でいいから情報を知りたいんだ。それで、今の時点で君らが知っている情報を教えてほしい」
高瀬先輩は二人を交互に見やっている。
本当にこの先輩に、何から何までも話してもいいのだろうか?
怪しい。
スパイだとかもそうだが、ずっと天井に隠れていたとか。常軌を逸していると思う。
そもそも、生徒会役員が管理しているお金が本当に少なくなっているのであれば、大問題である。
けど、そんな事。噂も聞いたことがないのだ。
事実ではない以上、なんとも言えない。
陽向汰は協力するとは切り出せなかった。
「先輩? どうしますか?」
「……和香はどうしたい?」
「それはですね。部費の件に関しては早めに解決したいですし。ここは、高瀬先輩に相談した方がいいような気がするんです。ちょっと怪しい先輩ですけど……」
和香は、陽向汰の耳元で、こっそりと打ちあけるように話す。
高瀬先輩の方には聞こえていないようで、二人がどんな返答をしてくるのか、待ち望む態度を見せているだけだった。
「……怪しいけど……」
「ですけど……先輩は、この部費の問題をどうやって解決するんですか? もしかしたら、あの人と関係があるかもしれませんよ……」
「……あの人……咲良か……」
「はい……」
二人はこっそりとやり取りを続けていた。
「二人は、どうするんだ? そろそろ、君たちの意見を聞きたいんだけど。協力してくれるか?」
「……はい。私は協力します」
「で、では……俺も」
結果として、二人は協力するという意思を示したのだった。
この部費の問題は早急に解決しなければならないのだ。
咲良の件もあるが、どちらとも向き合っていこうと思った。
「じゃ、決まりな。じゃ、よろしくな。二人とも」
高瀬先輩は、笑顔を見せる。
さっきまで、そういった表情を見せてはいなかったのだが、普通にしている分には、可愛らしく思える先輩であった。
「まあ、協力って言っても、最初の内は複雑に考えずにさ、何か怪しいと思ったら、その都度言ってもいいからな」
「はい」
「わかりました」
陽向汰と和香は頷いて、意思表示をするのだった。
「今日はちょっと時間も遅いし解散な。それと、話し合いをする時は、誰もいない図書館か。読書部の部屋のどちらかでってこと。絶対に、この内容は内緒だからな。誰かに言ったら、何が起きるかもな」
高瀬先輩はまた軽く笑った。
冗談だったとしても、何かが起きるとか、脅しのようなセリフを言わないでほしい。
陽向汰と、和香はドキッとしてしまった。
何が生じるかわからない怖さに動揺しているのだ。
「高瀬先輩、今後、協力するのでしたら、スマホで連絡は?」
「スマホ? なんだそれは」
「え? 知らないんですか? これです」
和香は制服のポケットからスマホを取り出すと、席から立ち上がり、対面に座っている先輩に見せていた。
「……私は、あまりそういうのを持った試しがなくてね。スマホって、連絡を取る時用の……スマートフォンって奴か?」
「はい。そうです」
「名前は何となく知ってたけど。現物を見るのは初めてかもしれないな」
「……高瀬先輩、普段、どういったところで生活してるんですか?」
和香はサラッと、酷いことを口にしていた。
その後に、先輩に対して変なことを言ってしまったと自覚したようで、和香はすいませんと頭を下げ、謝罪し、席に座り直していたのだ。
「いいよ。情報に疎い私の責任だしな」
高瀬先輩は笑って受け流していた。
スパイとか言っていた割には、現代の情報に疎いような気がする。
「でも、今後一緒に活動していくなら、連絡を取れるものがないと不便じゃないですか?」
陽向汰は先輩の様子を伺い、問いかけた。
「大丈夫だから。私は、色々と監視してるからさ。何があったら、私から話しかけることにするよ」
高瀬先輩とのやり取り中、本当にスマホというものを持っていないんだと感じた。
嘘とかで持っていないとか、お金がないとか、多分、そういう意味合いではないのだろう。
「んッ、そろそろ、見回りの先生が来たようだな。では、私は、ここでな、じゃ、またあとで」
「え、ちょっと……」
陽向汰が話しかけようとした頃には、高瀬先輩は図書館の奥へと消えていった。
軽く図書館内を見渡してみたものの、先輩の姿はどこにもなかったのだ。
その数秒後、図書館の扉がノックされるのである。やってきたのは教頭先生であった。
それにしても、なぜ、高瀬先輩は見回りの人が来ていることに気づいたのだろうか?
陽向汰にとって、それは本当に疑問でしかなかった。
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