第26話 高田さんが泣いた?

 どうも。恋のキューピッドです。

 現在の時刻は夕方の六時。そして場所は校内で一番使われていない、ドアの鍵が壊れている理科室に来ている。今回畑中くんが高田さんと付き合えるよう協力する事になったのはいいのだが、


「やっぱり無理だ! 俺なんかが高田に告ったって付き合えるわけない!」

「君が怖気着いたら僕に平穏が来ないんだよ!」


 高田さん以外誰もいない場所というシチュエーションを作ったにもかかわらず、畑中くんがビビっているのだ。


「俺の心は繊細なんだよ! 高田に振られる事想像すると心が張り裂けちまう!」

「ドМのクセに何を言っているんだ!」

「いや俺はドМなのは認めるけど、それは精神的に痛めつけられる事に興奮するんじゃなくて、物理的に痛めつけられる方がい」

「だーもう! いいから行ってこいよ!!!」


 まぁこのように突然告白する事になってしまったのだが、勿論ここに至るまでに色々あったからだ。そう、それは遡ること数時間前——


「おはよう! 佐々木!」


 僕が席に着くと同時に、畑中くんが元気よく挨拶してきた。


「……」

「な、何だよ。そんな顔して」


 僕が不機嫌なのに。


「別に……昨日高田さんに殴られた所が痛くて寝不足なだけだよ」

「な、なんて羨ましいんだ! 殴られた所がどんな感じか見せてくれ!」

「ひゃっ!」


 制服の中に手をねじ込まれるのは何とも言い難い気持ち悪さ。しかもよりによって男だなんて……いや、ちょっと気持ちいいか? いややっぱり気持ち悪い!


「ちょ、ちょま! そこTKBだああん♡」

「どれどれ……ん?」


 男にTKBを触られた。変な声も出ちゃった。

 もうお嫁にいけない!


「佐々木、お前腹筋割れてるじゃん」

「え?」


 そう言うと畑中くんは僕の腹を指で撫でまわしてくる。


「佐々木って弱々しい陰キャってイメージだったから意外だよ」


 あながち間違っていないもう少し遠慮した言葉を言って欲しい。でも僕が腹筋が割れているのは普段からの筋トレしてきた努力の証である。


「高田さんに殴られた時の痛みを軽減させようと思って筋トレを」

「ほぉーそれにしても見事な腹筋だな。しかも……六つに割れてる⁈」

「まぁ筋トレよりも高田さんに殴られるたびに日に日に進化していったんだけどね。……って言うかそろそろ撫でるの止めてくれ!」


 そう言うと、畑中くんは最後に僕のTKBを撫でてから服から手を取り出した。

 これが主に陽キャのノリだとしても、気持ち悪すぎるな。あと少しだけ触り方が上手いのも腹が立つ。


「全く……僕の純潔になんてことを」

「悪い悪い。まぁ冗談はさておき、本題について話そうか」

「……うん。そうだね」


 本題と言うのは畑中くんと高田さんが付き合うという目的。これが成功するか否かによって僕の今後の平穏が決まるのだ。


「今日するのか?」

「早め早めの行動が、後々の成功への一番の近み……場所変えない?」


 僕の提案に畑中くんは少し戸惑うが、


「あっ、そっか。本人(高田さん)がいたら作戦が駄々漏れだもんな」


 解釈してくれたらしく、すんなりと聞き入れてくれた。


「よし。じゃあ急いで教室を出よう」

「ああ、そうだな。……ところで、今日は高田がいないよな? いつも佐々木と一緒に来てねーか?」

「今日は寝坊したんだって! いいから早く出るよ!」

「お、おう」


 こうして畑中くんの背中をグイグイと半場強制的に外に押し出すことに成功した。

 僕はこの二人を何としてでもくっつけたいんだ。命だって……賭けられるさ!


——僕と畑中くんが教室を出た数分後、


「ハルの奴……一発殴られるだけじゃ物足りなかったみたいね」


 いつもの待ち合わせ場所をほったらかし、先に学校に来た僕を殺す気でいる高田さんが教室に着いた。



 ※※※



「それじゃあ作戦開始だ」

「お、おう!」


 畑中くんとの作戦会議を終え、僕たちは教室に戻る事になった。

 その最中、僕たちは再度作戦を確認し合う。


「僕が高田さんとの二人っきりになれるよう上手く機嫌を取りながら目的場所へ連れて行く」

「そこで高田と会話を弾ませ、仲良くなる」

「うん。でも忘れちゃいけないのは」

「『いきなり告白しない』だろ? ゆっくりと距離を縮めていく」


 今回はこれだけだが、今後も恋のキューピッドとして協力するつもりだ。ゆくゆくは恋愛シュミレーションゲームの主人公を助かる親友ポジションに!

※彼は主人公という立場を忘れています


「よし、じゃあさっそく僕は目的地に連れ出せるよう高田さんの機嫌を取ってくるから心の準備はいぶべばっ⁉︎」


 教室に戻り、ドアを開ける開くと同時に、とても女性とは言い難い拳が僕の顔面にリフトオフ。


「さ、佐々木⁈」

「ハル〜? アタシを怒らせてどれだけ楽しいのか教えて欲しいなぁ」

「あっ、高田♡」


 忘れていた。そういや今日いつもの待ち合わせ場所に行かなかったんだっけ。

 高田さんからやっと離れられると思って、嬉しすぎてつい忘れていた。おまけにはしゃぎ過ぎてスマホを家に忘れるし。


「い、いや〜これには理由がありまして」


 馬乗りされているこの状況は僕の命に関わる!

 とにかくここはいつも通り上手くはぐらかすしかない!


「……もういい」

「そっか! それなら……え?」


 本来なら怒り散らかした後、ふと優しい言葉をかけると許してくれるお決まりの展開。それが今回はもういいだって?


「いつも……いっっつも! アタシの事避けて何よ!」


 高田さんの顔は今までのようにただ怒りや拳を振るわず、涙を流す事を我慢しているような、怒りを押し殺している表情になっている。


「あ、あの高田さ」

「言い訳なんて聞きたくない!」

「へぶしっ!」


 すると高田さんは僕の元から走り去ってしまった。今日はいつもと少し違和感のある怒り方だった。もしや我慢の限界だったとか? だとしたら……逆じゃね? 

 僕だって殴られてまくってるのにそれは無視が良過ぎるだろ。ったくこれじゃあ畑中くんとくっ付けるの作戦が!


『……もういい』

「……」


 やっぱり……泣いてたよな。


「佐々木!」

「!」


 僕が呆然としていると、畑中くんが心配をして駆け寄ってくる。そ、そうだよ。僕が嫌われれば畑中くんと自然にくっつけて安くなる。それでいいじゃないか! それで……それで……いいのだろうか。


「いいなぁ! 俺も早く高田に殴られてぇぇぇ」

「……」


 やっぱり間違えたな。



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