第24話 付き合ってる?

「ここで因数分解を使うことで、計算が楽に解くことができる」


 昼休み直前の四時間目。この時間は昼ご飯への欲求が一番高まる時間だ。周囲を見渡すと机に突っ伏している奴や先生の目を盗んでスマホを触ったりと……まぁ何とも質が悪い空間だ。そんな中、僕は人一倍真面目に授業を受けている。

 なぜなら……


「スピー……」


 僕の右隣の席でスヤスヤと居眠りをする高田さんに、少しでも成績を追いつく為!

 思えば最近僕の周りでは個性の塊のような化け物しかいない。番長に金持ち、執事まで現れるわで、僕の存在感が無くなりつつある。だからこそ成績を少しでも上げて、僕も存在感を出そうと思っているのだ。


「それじゃあここまで。来週の月曜に小テストやるから、復習しておけよ」


 チャイムの音が鳴ると共に、クラスメイト達は続々と席を立ち始める。僕は高田さんの机を軽く揺らし、


「高田さん。授業が終わっ」

「ちっ!!」

「たぶっ!?」


 起こそうとしたら、高田さんの左拳が僕の腹に直撃する。

 さすが高田さん。授業が終わったからと起こそうとしてくれた相手に躊躇なく腹パンするなんて。高田さんが女じゃなかったらぶん殴ってやりたいところだよ!


「……ん? ハル? 何床で寝てるのよ」

「す、好きで寝てるんじゃないやい!」


 目をゴシゴシ擦りながら机から体を起こす高田さん。よく見ると机に長く突っ伏していたせいでおでこが赤くなっている。


「……あーもしかして、アタシが殴っちゃった?」


 本人には殴った覚えがないと。これで全国模試上位の学力を持つなんて、世も末だね!


「ごめんごめん。この後埋め合わせるから!」

「埋め合わせって……ジュース奢ってくれるとか?」

「それよりももっと良い物よ!」


 そう言って机に掛けてある鞄の中を漁り、取り出すのは——


「はい! サクラ特製手作り弁当♡」


 ゲテモノ弁当であった。


「HAHA☆ それはとても美味しそうだね! でもそんな美味しそうな弁当を僕が食べるには勿体ないしてか死にそうだから気持ちだけで十分さ! それじゃあ僕は友達の山田ポールくんと弁当を食べるからこれでぅえええ!!」

「ぺらぺら言い訳しながら逃げるんじゃないわよ!」


 その後、クラスのみんなが見ている中、無理矢理ゲテモノ料理を口へ運ばれた僕がどうなったかは言うまでもないだろう。



 ※※※



「うっぷ!」


 高田さんの拘束から何とか逃げ出し、トイレへと直行することはできたのはいいが、


「はぁはぁ……これだけ吐いてもまだ気持ち悪いよ」


 頭がくらくらする。高田さんの料理は摂取すればするほど体の内側から滑っとしたトゲトゲの化け物が壊してくるような感覚になる。つまり料理ではない。それなのに匂いだけはいっちょ前に良いから余計たちが悪い。


「うっぷ」


 いかん。これ以上吐いてしまったら、「ゲロ吐きハルト」というあだ名を付けられかねん。しばらく外の景色でも見て心を落ち着かせよう。


「こっちこっち!」

「よっしゃ!」


 いいなぁ。サッカーとかバスケとかを休み時間で遊べる友人がいるなんて。

 僕なんてゲテモノ料理を作る暴力女しかいないってのに……いや、いるだけマシか。

 でも男友達は欲しい。下らない事で笑いあったり、学校帰りにゲーセン行ったり。まぁゲーセンなら先週高田さんと行ったけど——


『K.O!』

『GAME OVER』

『your loss』

「くそったれぇぇぇぇ!!!」


 ——思い出すのは止そう。

 一度も攻撃させてもらえず、完膚なきまで倒された事なんて。

 それにしても今は昼休みだから、校庭で遊んでいる奴も多いな。僕にも友達がいればあんな風に高校生らしく青春を送れていたのかな……。


「いやお前それマジか!」

「そうなんだよ~おかげで彼女には幻滅されてよぉ」


 外を眺めながら黄昏ていると、僕の背後を通る男四人。丁度良い人数だ。きっと今のように下らない事で盛り上がっては、楽しい青春を送っているのだろう。

 羨ましい限りだよ!


「ははは……あっ」

「どした?」

「……ちょっと用事思い出した。悪いけど先に行っててくれ」


 グループの一人がそう言うと、他の男達は少し黙った後、


「んじゃ俺らは購買に行っときますか」

「遅れるなら畑中の奢りな」

「あいあい、じゃあ後でな」


 一人を残して、スタスタと購買へと歩いて行ってしまった。

 ん? 畑中って確かカラオケの時唯一僕に話しかけてくれたクラスメイトじゃないか。って事はさっきのグループは僕と同じクラスメイトか? 

 この僕が一人寂しく窓の外を眺めているんだし、声をかけてくれても良かったのに……そもそも僕がクラスメイトから覚えられてなかったりして。


「……」


 あり得るな。まぁそんな事で今更傷つかないぜ? 何てったって僕は生粋の陰キャだからね!


「……ふぅ」


 ……しかし、畑中くんは友人と離れて何をするつもりなのだろう。僕の背後に立って一歩も動こうとしないし。もしや僕が一人で可哀そうだから話しかけてくれようと? いや、そんな行動をとれるなら、深呼吸の前にすぐに話しかけるだろ。じゃあ他に考えられるとすればトイレか? 近くにトイレがあるし。でもそれなら友人にでも言って連れションなんて……はっ! まさか大きい方なのか?! だとしたら友人と連れションなんてできるはずがない。だって連れうん……。


「……よし!」


 って言うか何かしらの行動をとってくれ! 背後に立たれているせいで、何気なく窓に肘を付けたままの姿勢で動けないんだよ!

 僕に話かけてくれるならそれで良い! 普通に嬉しいから!

 それとも大に行きたいなら漏らす前に早くスッキリしてこい!


「佐々木!」


 どうやら僕に用があるらしい。まぁ長いこと僕の背後で沈黙しておいて、う〇こ行きたいけど動いたら漏らすから動けなかったとかだったら恥ずかしいもんね。

 しかし僕に同情して話しかけてくれるなんて、畑中くんは優しいな。


「な、何?」


 これは僕にとっての蜘蛛の糸だ。相手から話しかけて貰えるなんてそうそうない機会だ。これを逃すと、次に話しかけて貰える事なんて次にいつ来るか分からないだろう。自分から話しかける勇気もないし、ここで何とか畑中くんとの友好を深め、他の友人を紹介して貰わないと!


「そのー何て言うか……ちょっと聞きにくい事なんだけど……」


 さぁ! どんなことでも聞いてくれ!

 好きな食べ物? 音楽? 漫画? スポーツ? どれでもかかってこい!

 こんな日が来るだろうと、こちとら簡単なトーク技術は準備できているんだっ、


「高田と付き合ってる?」

「え?」

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