第25話 全ては解放される為に!

畑中視点


「高田と付き合ってる?」

「え?」


 予想だにしていなかった質問なのか、佐々木は驚きを隠せていない。


「高田といつも一緒にいる事多いだろ? だからそういう噂が広がっててさ」

「あっ、え〜と……」


 佐々木は考え込んでいる。これは佐々木も察したのかもしれない。まぁ普段話したりしない相手が突然投げかけてきた話題が付き合っているのかどうか。恐らく俺が高田に好意を寄せている事に気が付いたから、返事に困っているのだろう。


「……つ」

「!」


 すると佐々木は覚悟を決めたかのように、口を開く。


「……付き合って」

「付き合っていない」

「え?」


 佐々木が言葉を遮り、いつのまにか俺と佐々木の間に割って入る男。この風貌……って!


「お、鬼瓦先輩?! 何故ここに?」

「えっ! 佐々木、番長と知り合いなのか?」


 この学校で鬼瓦の名前を知らない奴はいない。喧嘩最強の番長、鬼瓦凶介だ。


「俺がいたらまずいと事でもあるのか? 佐々木」

「いや、それはないんですけど……ちょっ、顔近くないですか?」


 その鬼瓦が佐々木と接点があったとは……しかし、それよりもここにいる理由が分からない。


「俺の通り道にお前らがいたからな。暇つぶしにでも話しかけに来た」


 いや、だとしてもここ一年の校舎だぞ? 三年が寄る意味がないはずだが……


「あ? お前さっきから何ガン飛ばしてきてんだ?」

「え?!」


 嘘だろ?! 俺、目が合っただけだぞ?!


「まぁいい。俺もお前に用事があるんだよ」


 いやいやいや! 俺佐々木に用事があっただけなのに何で番長に絡まれなきゃならないんだよ! ……そう言いたいけど、言ったら何するか分からないな。


「……」


 くっ、佐々木が俺に向かって手を合わせて黙祷してるよ。てか助けてくれよ!


「ちょっと耳貸せ」

「うっ」


 そう言って俺の耳まで番長が顔を近づけてくる。どうやら、俺の人生はここまでらしい……


「どっちが……好きなんだ」

「え?」


 俺は思わず自分の耳を疑った。「どっち」という概念がそもそもなかったからだ。好きになる対象には高田以外の異性はいないはず……異性?


「返答によっちゃあ◯す」

「えぇ!?」


 この目は本気の目だ。しかしどっちと言われても高田と……異性。

 いや、それはない。何故よりにもよって番長が佐々木を好きになるんだ。うん、そうだ。そこは深く考えなければ……


「……佐々木」


 その瞬間、番長の腕は振り上げられ、


「じゃあないのは当然ですよね」

「!」


 番長の拳が俺の目と鼻の先で止まる。

 一瞬だけど走馬灯が見えたんだが。


「……俺を試したな?」


 いや全く試した覚えがないんだけど。


「あ、あのー」


 すると空気のような扱いにしびれを切らしたのか、仲裁人としてやっと佐々木が話に割り込みんでくれた。


「悪かったな。お前らの話を邪魔して」


 そう言って番長は俺達を後に去っていくが、俺は番長の微かな声を聞き逃さなかった。


「あいつが高田と付き合えば佐々木は俺の……ククク」


 そうか。番長は佐々木の事が好きなんだ。同じ性別……いや、今の時代はそれは普通だ。どんな恋愛をしてもいい。してもいい……けど、


「それで畑中くん。話の続きだけど」

「佐々木。悪いがちょっと休憩させてくれ」

「え? う、うん」


 俺は番長が佐々木に対して抱いている想いに気付いてしまった事を全力で後悔した。



 ※※※



ハルト視点


 鬼瓦先輩が絡んできた後、畑中くんは廊下で座り込み、ずっとうなだれている。まるで嫌な物を見た感じのようだ。番長はそれほど嫌われているという事かな?


「……さっきの事は無かった事にしたから、話を戻すぞ」

「え? 無かった事って番ちょ」

! そういう事にしてくれ」

「そ、そうなんだ……」


 これは番長に余程のトラウマを植え付けられているようだ。彼の気持ちは痛いほど分かる。僕も番長とキスをす……ぐっ、僕にもトラウマのフラッシュバックが!


「それで本当に佐々木は高田と付き合ってないんだな?」

「う、うん」

「よし」


 畑中の右手でガッツポーズをしている。

 いくら鈍感なラノベ主人公だろうと、この反応を見て何も気付かなければただの恐怖。むしろ気付く事が当然の分かりやすい反応だ。


「高田さんが好きなの?」

「おい! そんな直球に聞くもんじゃ……まぁうん。そうなるかな」

「おぉ……」


 この僕が人生初の恋愛相談を受けている事、そして破壊神に恋した畑中くんの勇気に思わず感嘆の息を漏らした。しかし高田さんに恋しているのは良くない。下手をしたら破壊神の拳で死人が出てしまうからな。


「どういった経緯?」

「ちょっ、お前それ聞く? まぁ……どうしてもって言うなら」


 と、畑中くんは早く言いたそうなニヤニヤした顔でまだかまだかと僕の返答を待つ。ちょっとノリがうざいけど、僕も空気を読む事には慣れてきた。


「めちゃくちゃ聞きたいです」

「そ、そこまで言われちゃあ仕方がないな。あれは二ヶ月前の事——


数分後


——って事があったんだよ」

「なるほど。二か月前に友達が不良に絡まれていた時、畑中くんは怖くて足が動かなかった。そして友達を助ける勇気がない自分に情けなさを覚えようとした時、現れたのが高田さん。そして事情を知った高田さんは一人で不良たちに挑みに行き、軽くあしらうかのようにものの一分足らずで不良を倒した姿に惚れてしまった。そういうことだね?」

「なんで説明口調?」


 ……はっ! 今僕の意識が乗っ取られていた⁈

 くっ、頭の中には『過去の描写考えるの面倒だから飛ばすか~』という腹の立つ声が。一体誰だか分からないが、ちゃんとしろよ!

 まぁ話の内容も分かったから別にいいが。


「それで僕は何をどうすればいいのかな」

「……高田との間を取り持ってくれ」


 予想はしていたが、この反応は冗談じゃなさそうだ。だが、高田さんの事を一番知っている僕だからこそ分かる。


「やめておいた方がいいよ」

「な、何でだよ!」


 この様子だと畑中くんは高田さんに殴られた事がないのだろう。そもそも殴られていたら彼女に恋なんてしないだろう。


「並大抵の人が彼女の力に耐えられるはずがない。僕でさえ一日一回は殺されているのに、君が耐えれるとは到底思えない」


 ここは厳しく言って申し訳ないが、それでも彼が血祭りにあげられるよりはマシだろう。僕が何としてでも彼を止めなくては!


「ち、力? 確かに高田が喧嘩に強いのは分かるけど、別に誰かれ構わず殴る訳じゃないだろ?」

「殴る! 僕がちょっとスマホでえっちな画像を見てたら殴られたし、高田さんの授業ノートにオレンジジュース溢しただけで殴られた。更に高田さんのクソ不味い弁当を拒否して逃げたら殴られ、Xの裏アカで悪口書いてた事がバレて殴られた! さぁこれでも高田さんが誰かれ構わず殴らないと言えるのか?」

「全部自業自得じゃねーか!」


 だ、ダメだ。いくら言っても高田さんの理不尽さが伝わっていない! 恋は盲目という言葉があるけど、まさかこれほどの効果があるとは。どうすれば……いや待てよ? もし畑中くんが高田さんと付き合う事になり、それが上手くいけば僕の自由と平穏が手に入るのでは?

 むしろ畑中くんの恋を応援するべきなのでは?


「……君が高田さんに対する気持ちは分かった。協力するよ」

「ほ、本当か!」


 畑中くんは僕の手を強く握手し、まるで喜びを表しているようだ。

 ふっ……僕は最低だな。何も知らない彼を破壊神への貢ぎ物としてサポートするのだからな。


「でも大丈夫か? 少なくとも『えっちな画像見てたら殴られた』ってのはヤキモチ妬いてる事になるんじゃ」

「大丈夫大丈夫。いくら幼なじみで高校に入るまで数年間会ってなかったからって僕が高田さんと付き合う訳がないよ」

「いやサラッとパワーワード言ってんじゃねーよ! 幼なじみって何だ? それもう絶対付き合う展開じゃん! 俺入る余地ないじゃん!」

「入る余地はある! 何故なら二人が付き合えるよう僕が全力でサポートするからだ!」

「それを信じる確証は?」

「福沢諭吉を三人渡そう」

「え⁈」


 そう、これは僕からの感謝だ。僕の代わりに生け贄になってくれる畑中くんへの報酬だ!


「これは僕は心から君が高田さんと付き合ってくれる事を願っているという事だよ。だから頼む! 何があっても彼女の事を愛し続けると!」

「……そうか。幼なじみとして生半可な奴には高田を渡せないっていう覚悟か」


 うん。全然違うけど都合よく解釈してくれてるから別にいっか。二人が付き合えば僕は恋のキューピッドとして畑中くんからは慕われ、高田さんからは付き纏われなくなる。


「佐々木!」

「畑中くん!」


 こうして僕たちは熱い握手を交わし、畑中くんに協力する事を誓った。

 全ては……高田さんから解放される為に!


「ちなみにその諭吉って」

「……せ、成功したらね」

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