第25.5話 佐々木が羨ましい!
畑中視点
「ほらっ」
「うぉっと……これは」
俺は自販機からパンを買うと、二、三個ほど佐々木へと投げ渡す。
「協力してくれる礼だよ。まぁこっちとしても結構助かるしさ。あっ、それと流石に福沢諭吉はいらねーからな」
「……ありがとう」
佐々木は静かに嬉しがり、パンの袋を破き口へと運ぶ。思えば佐々木って高田以外と話してる所見た事ないな。もしかしたら男友達とかいないのかな。この反応だと別に話す事が嫌いで、孤高を好むって訳じゃなさそうだし、これも何かの縁だし、これからもっと話しかけていこう。
「それで、これからどうすればいいのかな?」
そして一緒にパンを食べながら教室へと戻る最中、佐々木が俺に質問する。高田と付き合う事に協力してくれるのはいいが、サポートと言ってもどうするのか。佐々木のサポート力によっては成功への繋がりが絶たれる可能性がある。
「じゃあ俺と高田が二人っきりになれるように上手く誘導してくれるか?」
「そっか。そういえば二人って話した事ないんだね」
「うっ」
佐々木の鋭い言葉のナイフが俺の心に刺さる。
「ま、まぁこれから増やしていくし、佐々木も手伝ってくれるんだろ?」
「もちろん!」
佐々木は意気揚々と答えた。しかしこいつやけに嬉しそうだな。最初こそ俺が高田に嫌われるよう誘導する為に協力してくれたのかと疑心暗鬼になっていたが、この様子だと信用しても良さそうだ。
「でも好きな相手と話す為に誰かに協力して貰うって、情けないよな」
「そう?」
「やっぱり高田って強い女だから俺みたいな一人で何もできない奴なんて嫌いなんじゃ……」
「……僕は、過程よりも結果が一番大切だと思うよ」
「え?」
「終わりよければ全てよし! 最終的に付き合っちゃえばそんな事気にしなくなるよ。だからそんな弱音を吐かず、畑中くんの恋愛を成功させよう!」
「……おう」
佐々木はなんて優しい奴なんだ。今までろくに話した事がなかったけど、もしかしたら俺は最高の相棒ができたのではないか。そう錯覚するほど、佐々木の言葉は俺を励ました。
「それで……話は変わるけど」
「ん?」
「高田さんのどこが好きになったの?」
佐々木の言葉に思わず体が硬直した。すると佐々木は心配して俺の顔を窺ってくるので、俺は大丈夫と一言言った後、ゆっくりと口を開く。
「……実は」
「ハ〜ル〜」
俺が佐々木に質問しようとすると、誰かに言葉を遮られる。いや、誰かと言うのは邪推か。
「げっ、高田さん……」
「『げっ』て何? アタシに会うのがそんなに嫌だった?」
やばい。こんなに高田と近い距離でいるのは初めてだ。間近で見ると、遠目で見るよりも更に綺麗な顔立ちだと分かる。
「い、いやぁ〜そんな事ないよ! 僕は高田さん以外にこんなにも会えて嬉しいと思える人はこの世にいないよ!」
「なんか嘘くさい言葉ね……まぁ良いけど。それで……あんた誰? これがさっきハルが言ってた山田ポール?」
「!」
すると高田が俺に視線を向け、あまつさえ話しかけてくれた。俺の事を覚えてくれてなかった事はショックだが、これはチャンスだ。
「お、俺は畑な」
「……ハル、その手に持ってるのは何?」
「何って別にパ……あっ」
俺の言葉を無視して、高田は佐々木の持つパンへと視線を向けてしまった。
これが今まで話したことが無かったからか!
「さっき『もうお腹いっぱいだから』ってアタシの弁当残したわよね?」
「そう……だっけ?」
「そうよ」
この場の空気を読むと、どあやら高田が怒っていて、そして佐々木が何かしでかした事が分かった。
「その後逃げるように教室出たけど、もしかしてアタシの弁当吐いたとかじゃあないわよね?」
「まっ、まっさかー! 高田さんの弁当は今でも僕の胃の中で大事に大事に保管してるさ!」
嘘付け。さっきお前トイレの前いただろ。
「そう? それなら良かった」
「あはは。高田さんの弁当を吐くなんて事したら殺されるじゃないか」
「もーアタシがハルを殺すわけないでしょ?」
「そ、そうなの? 実は弁当の事なんだけ」
「殺したら一瞬だもん! じっくり痛めつけないとね」
「……」
佐々木黙っちゃったよ……。
でも高田は本気で言っているだろうなぁ。こんな殺気ダダ漏れの高田を目の前にして、佐々木も不憫な男だ。だが同時に高田と長時間(数秒間)話せている事が羨ましい。
「……まぁアタシも鬼じゃないからこの事は水に流してあげる」
「ほ、本当ですか⁈」
ああ、高田は優しい、まるで女神のような奴だ。可愛い上に性格まで良いとか俺以外にも高田が好きな人は多いはず。佐々木に協力してもらって、早く高田と親密な関係にならねーと!
「ありがとうござ……!」
「だから歯食いしばって」
「えええ⁈」
わーいいなぁ。高田に胸ぐら掴まれるなんて。
「ちょっ、高田さん⁈ 話が違いませんか⁈」
「違わないわよ。弁当を残したことは水に流したって事。アタシも味付け失敗したかなって反省もあるし」
「じゃあ何故右の拳を僕の顔面へロックオンしてるの⁈」
「そんなのアタシから逃げたからに決まってるじゃない♡ これでも頑張って作った弁当を好きな人に不味いとか言われたら傷つくわよ?」
「いやあんなゲテモノ料理食わされて逃げない人いないでしょ!」
「……」
「あっ、今の無し! 嘘! ごめんなさい!」
俺もいつか好きな奴に殴れるのかと思うと、少し興奮するな。
「は、畑中くん! 羨ましそうに見てる状況じゃないでしょ! もしかして君はMなのか⁈ Mだから高田さんの事が好」
その直後、佐々木は十mほど先へ殴り飛ばされてしまった。
そして俺には、佐々木の殴られる姿が溜まらなく羨ましく思えて、興奮した。
次回、畑中とサクラをくっつけよう作戦始動!
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