第8話 僕のファーストキス
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドゴォォォォン!!!
ゴ〇ブリにキスを迫られるその瞬間、ドアを蹴破り、一人の少女が現れた。
「アタシの男に……何してんだ!!」
「高田さぁぁああぁあん!!!」
僕を助けに来てくれたんだ!
危うく人としての尊厳を失うところだったから良かった。
……でも
「ドア蹴破るって、お前は漫画のキャラか?」
鬼瓦先輩の指摘に、認めざるを得なかった。
漫画とかでたまにある光景だけど、まさか目の前で見れるとはな。
「うるさい!! あんた達全員ボコボコにしてやる!!」
高田さんは鬼のように激怒している。
いつも僕に向けられていたものだったが、味方になるとこうも心強い。
しかし、そんな高田さんに臆さずに、なんと鬼瓦先輩の取り巻き達が絡みだす。
「てめぇ~鬼瓦さんに舐めた口きいてんじゃね~ぞ!!」
「円周率100万まで言わせたろかい!!」
謎の関西弁で脅しているが、円周率って……。
どっちかと言うと頭悪いのかな?
「おい聞いてんのかこの!!」
「ふん!!」
ドガァァン!!!
「「「!?」」」
すると高田さんは入り口の壁を素手で殴り、壁には亀裂が走る。
「今なら無傷で帰してあげる」
「「「……」」」
高田さんの一言で、取り巻き達は一目散にこの場を離れた。
「逃げろぉぉ!!!」
「死にたくない!!!」
「ママぁぁぁ!!」
この一瞬で彼らと僕にトラウマを植え付けるなんてさすがだね!
「クク、面白れぇじゃねーか」
「力だけなら鬼瓦より強いかもね」
だがトップ二人は顔の表情を変えず、平然としていた。
やはり場数をこなしているからだろう……僕なんか見慣れていたはずなのに怖すぎて顔を引きつっているというのに。
「狙いはアタシでしょ? ハルは関係ない」
「いやあるよ。君が鬼瓦を殴った償いを晴らさないとね。あの一件で俺たちは周りに舐められるようになった」
「知らないわよ。それに……あんた達誰?」
「っ! てめぇ!!」
激高した吉良先輩は、高田さん目掛けて襲い掛かる。
高田さんは吉良先輩の顔に右ストレートを食らわせようと拳を前に出すが
「!!」
「力が強くても、避ければ問題ない!!」
嘘だろ?!
高田さんの拳を避けるなんて、ボブ・サップでも無理だと思っていたのに!
「吉良は避けの達人と謳われる男だ。一見弱そうな響きだが、あいつは生まれてこの方誰からも攻撃を食らったことはない」
すると鬼瓦先輩が、格闘漫画によくいる解説役を引き受ける。
「貰った!!!」
「!」
「そしてあいつが強いのは避けるだけじゃなくそのスピード。避けた瞬間相手の間合いに入り込み、一秒に数発殴り、距離をとる。それが一回だけならともかく、あいつは何度も避け攻撃を繰り返し、相手は手も足も出ないってわけだ」
「すごい……」
まさかこの一瞬で長文の解説を話せるとはな。
鬼瓦先輩……侮れない!!
「女だからって容赦しねーぞ!!」
高田さんに吉良先輩の拳が襲う。
くそっ! 女の子が危ない目になっているというのに、僕は何をやっているんだ!!
「高田さん!!」
バキィィ!!
「ぐはっ!!!」
「「……え?」」
僕と鬼瓦先輩は思わず声を漏らす。
何故なら、勢いよく殴り飛ばされる吉良先輩の姿が目に映ったからだ。
「次はアンタね」
「おいおいマジかよ……」
さすがは暴力ヒロインで売っているだけある。
でも、もう少し吉良先輩を活躍させてあげても良かったんじゃないかと思う。
吉良先輩がワンパンで動かなくなったよ。
「オレもよぉ? お前が素直に謝ってりゃあ許してたかもなぁ」
鬼瓦先輩は話をしながら、高田さんとの距離を詰める。
「けどよぉ? ダチがやられて黙っているほど、お人よしじゃあなぇぇよ!!」
「あ、危ない!! 高田さん!!」
鬼瓦先輩は勢いよく高田さんに殴りかかる。
「ふん!!!」
「ぶべはっ??!」
しかし、高田さんに見事ワンパンで鎮められ、戦いは終わった。
……あれ? 僕の見せ場は?
※※※
「大丈夫? ケガしてない??」
「うん。大丈夫だよ」
不良グループを倒した高田さんは、椅子に縛り付けられていた縄を解いてくれた。
僕は体の自由を取り戻し、一安心。
「……ごめん。アタシのせいで、ハルを巻き込んだ」
「高田さん……」
確かに高田さんの行動はまるでジャイアンのようだ。
ここは友人として一つ、注意しておこう。
「イライラしたからって殴ったらダメだよ」
「うっ」
高田さんは僕の言が効いたのか、少し落ち込む。
だが、彼女は知っておかなければならない。
誰だって殴られていい理由なんてないということを。
「そうだよね……ハルに告白したら逃げられたからって、人に当たっちゃった。アタシはダメダメだ」
「……うん」
原因僕だったー。
いや、だからといって殴るのは……
「ま、まぁあの時は僕も乱心してたし、高田さんが怒るのも仕方ない。それにこの人たちも女の子一人に集団で襲い掛かろうとしていたんだ。殴られるのも……仕方ないよ」
「ハル……」
そもそも告白することだってすごく勇気がいるはずだ。
それを僕は彼女の気持ちを考えず、自分勝手に断ってしまった。
何の取柄のない僕を好きになってくれた彼女を。
「でも、今度彼らに謝って許してもらおう。許してもらえなくても、誠意は見せられるはずだよ」
「うん」
高田さんは素直に頷いた。
今回の事はなかった事にしょう。
僕がきっかけでもあるし、ケガもないのだから。
「……てめぇら」
「「!!」」
すると体をよろよろと起こしながら、鬼瓦先輩が話す。
「クク、オレはしぶといからなぁ? 高田が一番嫌がることをして、じわじわ苦しめてやるよ」
考えてみると、彼らは一番の被害者だ。
復讐しようとしたのに、結局高田さんにボコボコにさせられたんだし。
「……それでも」
「!」
すると高田さんは真剣な顔で淡々と話す。
「それでも、アタシはあなたに謝るわ。アナタは親切にしてくれたのに、アタシはそれを自分勝手に殴った。今回もアタシが喧嘩腰だったから、あなた達もそうせざるを得なかった。アタシは自分勝手な馬鹿な女……本当にごめんなさい」
驚いた。
あの暴力の塊だと思っていた彼女がこんな言葉を言うなんて。
鬼瓦先輩も予想外だったのか一瞬固まる。
そして、
「……ちっ」
鬼瓦先輩は舌打ちをするも、高田さんの言葉を聞いて、少し表情が和らぐ。
「許しはしねぇ。……けど、オレもくだらないことを根に持ち過ぎた。……もう絡むのも面倒だ。オレの視界から消えるな」
「……ええ」
許して……くれたのだろうか。
まぁ彼らも根っからの悪ではないということないのかな?
……そういうことにしておこう。
「じゃあハル、帰ろ」
「うん」
今回で僕も高田さんも少し学んだ。
自分勝手な行動で、相手を傷付けてしまうのだと。
こうして僕たちは一つ大人になって———
カサカサカサ。
「ん?」
すると僕の手に、何やら嫌な感触と音が聞こえたのが分かる。
……いやな予感がする。
僕は恐る恐る手に視線を向けると、
「……ぎ」
黒光りの奴が、僕の手の上を歩いていた。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「は、ハル?!」
なんでなんでなんでなんで?!?!?!
僕の手に一体なぜいるんだ!
なぜ……はっ!!
『はい。チュー』
あの時か!!!
あいつらこいつ放って逃げたのか!!
出入口付近をみると、そこにはやつがいたはずの虫かごが開いていた。
「うわぁぁ!!!ちょ、とって! とってぇぇぇ!!!」
「ええ!! あたし虫はちょっと……」
あ、あかん!
手の上から徐々に上ってきているのが分かる!
このままだと服の中に……
「どっかいけぇぇぇぇぇ!!」
僕は手を振り回しながら、屋上を走り回る。
「お、おい!こっちに来るんじゃn」
「いぃぃいやぁぁぁぁ!!!」
「……あっ」
ブチュウ
僕は屋上にある床の溝に足を引っ掛け、倒れこむ。
その衝撃のおかげか、奴は天高く飛び、そのまま柵の外へと放り出された。
し、死ぬかと思った……ん?
僕はやつがいなくなったことに安堵すると同時に、唇から感じる柔らかい感触に気がつく。
「「……」」
「な、な、な!!!」
高田さんの驚く声が聞こえる。
まさか僕のファーストキスは高田さん?!
僕はゆっくりとキスした相手を確認すると、それは
「……おい」
「……鬼瓦……先輩?」
僕のファーストキスの……相手……男ぉぉぉぉぉ??!!
「おうぇぇぇぇぇ!!!」
僕は気持ち悪さからか、嗚咽を吐く。
ちくしょう!!!
主人公なのにこんな扱いないだろ!!!
「うぅぅ……」
「なんで……なんで……」
高田さんは無表情で僕に声をかける。
指を…ポキポキ鳴らしながら。
「ハルの……ハルの!!!」
「言っておくけど今回の一番の被害者は僕だ。何もしていないのに拉致され、Gに殺されかけ、ファーストキスを奪われたんだ。これ以上僕に不幸を与えるのは無意味の所業だと思う」
「ファッ、ファースト?!! それをなんで男に!!!」
おっと。
僕の早口の命乞いが、高田さんをさらに怒らせてしまったようだ。
全く、僕って奴はおっちょこちょいなんだから☆
「ばかぁぁぁ!!!」
「いやぁああぁぁ!!!」
こうして、被害者であるはずの僕は、円を描くような曲線で殴り飛ばされるのだった。
「……」
「…ハルの次は、アンタだから」
「え?」
鬼瓦先輩も殴り飛ばされた。
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