第18話 番長は止まらない

鬼瓦視点


 豪雨だからか人通りが少なく、雨の落ちる音だけが響いている。そんな時に佐々木との運命的な再会をしたのはいいが、かれこれ十分程会話ができていない。更に雨の音だけが響き、俺の鼓動はどんどん早くなっている。

 どうにかして佐々木との親睦を深めたいが、


「チッ!」

「ひぃ!」


 緊張して上手く話せねぇ。

 喧嘩なら誰とでもできるこの俺が、恋愛の喧嘩になると手も足も出ないとは。

 こんな男らしくない俺なんて、佐々木に好かれる訳も……ん?


「……」


 佐々木を見てみると、何故か小刻みに震えていた。

 もしや……俺と会えた事で涙を我慢しているのか?!

※怖がられているだけです

 まさか佐々木も俺と会えた事を喜んでいるなんて……しかし、このままだと俺たちの距離は遠のくばかり。やはり俺から話しかけてやるか!


「……あー」

「!」


 俺の一声に驚いたのか、佐々木は体をビクッとさせる。ったく、佐々木は少し緊張し過ぎだな!

※違います

 さて、じゃあ何を話すか……


「……き、今日は…いい天気だな」

「……は?」


 馬鹿野郎!!!

 どこをどう解釈したらこんなドシャ降りの雨がいき天気に見えんだ!?

 くそっ、佐々木よりも俺の方が緊張しまくりじゃねーか!

 こんな事じゃ、佐々木に嫌われちまう!!

 何か打開する会話を!


「……そ、そうですね」

「!」


 くっ! 何だその歯に噛んだような笑顔は!

 まさか、俺に恥をかかせまいと話を合わせてくれる気遣いをしてくれたのか?

 佐々木……やっぱり俺のことが好きなのか?

※違います

 こうなったら俺も佐々木に答えなければならない義務がある。

※ないです

 これだけ会話したんだし!

※これだけも会話してません

 もういいよな?!

※やめてください


「佐々木ぃぃぃ!!!」―――



 ※※※


ハルト視点


 豪雨だからか人通りが少なく、雨の落ちる音だけが響いている。そんな時に番長との最悪な再会を果たしてしまったが、かれこれ十分程会話がない。

 黙られると雨の音だけしか聞こえなくて番長との二人っきりの空間に恐怖感が増す一方だ。

 僕にキスされたことまだ根に持っているのかなぁ。

 どうにかして早くここから逃げ出さないと、


「チッ!」

「ひぃ!」


 舌打ちされちゃったんだけど?!

 やっぱりまだ怒っているじゃないか!

 ど、どうすれば……そうだ! ここは逆に考え、親睦を深めて許してもらおう! その為にも何か話しかけ共通の話題で盛り上がれば、番長も許してく、


「……」


 何か殺気の籠った目で僕を見てくるんだけど?!

 お、大人しくしておこうっと。

 そして僕は体を震わせながらも、早く雨が上がらないか神に願っていると、


「……あー」

「!」


 番長が何か言おうとしている?!

 ついに僕を殴るってのか?!


「……き、今日は…いい天気だな」

「……は?」


 この人馬鹿じゃね?

 こんなドシャ降りの雨を良い天気だと言うとは余程水に困った家庭だったのだろうか……はっ!

 まさかこれは僕が見込みのある奴か試しているのか?! 自分と話すレベルであるか見極める為に!

※仲良くなりたいだけです

 ここで失敗したらきっと殺される! な、何とか上手い返しをしないと!

 しかし天気の事で上手く返事なんて……


「……そ、そうですね」

「!」


 いや何も思いつかないよ。

 番長は怒ったかな?


「佐々木ぃぃぃ!!!」

「ひぃぃ!!」


 すると番長は僕の名前を叫び、ポケットから何かを取り出す。

 まさかナイフか?! 「その答えじゃない!」と刺すつもりなのか?! そんな理不尽な!

 僕は思わず目をつぶり、体を身構える。


「ら、LINE交換しないか?」

「ふぇ?」


 思いもよらない事に拍子抜けしてしまい、つい気の抜けた声が漏れる。

 え? LINE? そんな物交換して番長に何が……あ、パシリとしてこき使ってやるということか?!

 い、嫌だ! 絶対嫌だ!


「あ、じゃあこのQRコードで」

「お、おう」


 けど断ったら何されるか分からないから今は我慢して今度高田さんに助けてもらおっと!

 僕は嫌々LINEを交換し、番長が不敵な笑みを浮かべている様子に恐怖していると、


「あっ」


 タイミングが良いのか悪いのか、もう少し早く来て欲しかったのが本音だが、雨が上がった。


「じ、じゃあ僕はこれで」


 僕は一刻もこの場を離れ、せめて今日は平穏な日にしたいと思い、この場から逃げ出す。


「あっ、おい!」

「!」


 すると番長に腕を掴まれ、僕は体勢を崩す。


「うわっ!」


 ガシャン!!! と音を立てるも、雨宿りしていた店のシャッターに手を置き、僕は番長に倒れ込むことはなかった。


「す、すみません!」

「……」


 番長は無言で僕を見つめてくる。

 やっぱり怒りますよね!

 

こうして僕は番長から逃げるように(てか逃げた)この場から走り去ったのだった。



 ※※※


吉良視点


「おっ! 雨止んだじゃん」


 鬼瓦と分かれて学校までスマホを取りに来たまではいいが、雨が降って身動き取れないとはな。

 走って帰っても良かったけど、汚れたらお袋に迷惑かけちまうしな。

 鬼瓦も何処かで雨宿りしてるかもな……


 そんな事を考えながら、俺は学校を後にする―――


―――歩き始めて数分後。


 俺は鬼瓦と分かれた場所の近くまで来ていた。

 そこは閉店した店が多くあり、人通りも少ない。外で雨宿りするとしたらこの辺りのはず……あっ。


「お、鬼瓦?!」


 俺の目の前には、ぐったりとした様子でシャッターに背中を預けて、座り込んでいる男が。


「おい鬼瓦! 何があった! まさか今朝の雑魚から不意打ちを?!」

「き、吉良……」


 いや鬼瓦に限ってそんな下手な事はないと考えつつも、鬼瓦がこんなにも呆然とした顔になっているのは、佐々木への恋愛感情に気づいていない時だけ……もしや!


「佐々木に何をされた?!」

「さ、佐々木!?」


 鬼瓦は『佐々木』という言葉に反応して、酷く動揺する。まさか鬼瓦の恋愛感情を知って、拒絶されたのか?

 確かに俺は鬼瓦に目を覚まして欲しいとは思っていたが、恋心を抱いている相手に対して酷いんじゃないか?

 俺はこんな情けない鬼瓦を見たかった訳では断じてない!

 断るにしてももっと優しくしたりはできないのか!


「くそっ! おい何があった?! 話してくれよ鬼瓦!」


 俺は鬼瓦の体を揺さぶり、答えを聞き出そうとする。


「さ、佐々木……が」

「!」


 すると鬼瓦は手で顔を覆うようにして、言葉を発する。


「さ、佐々木が俺に壁ドンした♡」

「鬼瓦ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」


 鬼瓦は乙女になってしまった。

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