第17話 運命の赤い糸

「今日は先に帰ってて」

「了解! じゃあねぶっ!」

「理由ぐらい聞きなさいよ!」


 テストが始まるまであと三日。

 帰宅の準備を済ませた僕は高田さんと帰ろうとしたのだが、殴るのは酷い。


「ぼ、僕は女性のあれこれを聞く失礼なことはしないようにと思って」

「それにしては嬉しそうだったけどね」

「ぐっ」


 最近毎日のように高田さんが家に来て勉強するものだから、正直高田離れしたかった。


「は、はははー。そんな訳ないよー。ところで何か用事があるの?」

「なんかはぐらかしてない? ……まぁいいけど。ほら、文化委員の集まり。今朝言ってたでしょ?」


 文化委員はその名の通り、文化的なことをする委員会、主に文化祭やら学校の行事で活動する。僕は高田さんに半強制的に文化委員にさせられたのだが、


「僕も行かなくていいの?」

「一人で大丈夫なんだって。次の集まりの時はハルが行ってね」


 ということで―――


「今日こそ平和な下校だ!」


 学校を出た僕は、家へと向かう。

 この間は変な料理対決に巻き込まれたし、これ以上濃い展開が来ることはないと思う。

 ああ、やっと僕にも運が回ってきたな。


 ザァァァァ


「……」


 ま、まぁこれぐらいは許容範囲だ。

 しかしどうしよう。

 委員会で残ってる高田さんにでも連絡して、傘に入れてもらおうかな? ......いや、そもそもあのガサツな高田さんが折りたたみ傘でも持ってないか。

 まっ! なんと言っても、今日の僕は運がある。何とかなるだろう!


 こうしてハルトは雨の中、家へと走り出すのだった。

 向かう途中、あの男がいるとは知らずに……



 ※※※



 ああ、胸が苦しい……


「死ねぇぇぇ!」


 雑魚達から受けた攻撃が痛むんじゃない。胸の奥……心が締め付けられるような感覚だ。


「ぐはっ?!!」


 俺に突っ込んできた雑魚の拳が届く前に、俺は蹴りを一発入れる。

 その一発で雑魚は気を失ってしまった。


「ったく、こいつらも懲りないバカだねぇ」


 吉良は雑魚を片したのか、俺の方へと向かってくる。

 学校へ行く途中、他校の不良共が俺を倒すことで名を上げたいのか、喧嘩を売ってきた。先手はまず吉良が突っ込み、俺は自分からは行かず、相手が来たら殴り、ものの数分で喧嘩は終わった。

 誰かを殴ればこの感情を晴らすことができる……そう思っていたが、俺の心は締め付けられる一方だ。


「さて……もう遅刻確定だし、どっかで飯でも食ってからいこうぜ」

「……」

「……鬼瓦?」


 全く……恋って奴は———


「おーい、鬼がわr」

「佐々木ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「鬼瓦ぁぁぁぁぁ??!!」


 辛いものだ―――


 ―――喧嘩の後、俺たちは学校へは向かわず、近くのファミレスで時間を潰していた。


「はぁ。鬼瓦はどうしちまったんだ」


 ファミレスを出ると、吉良はため息をつきながら言う。


「どうしたって……俺は何も変わってないだろ?」

「少なくとも突然叫ぶ奴ではなかった」


 たかがキスしたぐらいで惚れちまった俺は、暇さえあれば佐々木への感情を晴らすように、雄叫びを上げることが多々あった。


「仕方ないだろ……気持ちが抑えられないんだよ」

「いや、その根本というかさ? まず佐々木は……男だぜ? お前ならいくらでも女を選べるだろ」

「今は自由な恋愛をできる時代だ。誰を好きになろうが俺の勝手だ」

「ぐっ、嫌なところを突きやがって」


 そもそも吉良が背中を押してくれたから、今の俺があるのだが……


「大体お前は……あっ」


 すると吉良は何かを思い出したように、カバンの中やポケットを確認し始める。


「何か忘れ物か?」

「……机の中にスマホ忘れた」


 吉良は足を止め、俺に言う。


「スマホは現代っ子の必需品だ! ちょっくら取ってくるから先に帰っててくれ」

「あ、ああ」


 学校の方へと足を向けた吉良は、そのまま走り出した。


「……帰るか」


 そして俺は家へと歩み始めるが、


「ん?」


 ポツポツと雨が降り始めた。あいにく傘は持ち合わせていないが、小雨のようだ。別に急いで帰るほどでもな———


ザァァァァ


「……」


 どこかで雨宿りでもするか。



 ※※※



「......はぁ」


 まただ。

 ふと気を抜くと佐々木のことを考えちまう。


 唐突のドシャ降りの雨。

 バスで帰ろうとバス停に行くも長蛇の列があった。ファミレスに行こうにもこの距離だと行くまでにびしょ濡れになる。

 俺は近くのシャッターが閉められていた屋根のある店で雨宿りすることにして。雨が止むまで暇を潰すことにした。

 走って帰るのもいいが、濡れるとおふくろが雨の日に洗濯しないといけなくなるからな。

 親は大切にしねーと。


ザァァァァ


 しかしこの雨だと止みそうにないな。

 おふくろに迎えに来てもらう......いや、おふくろにそんな手間をかけさせるにはいかない。

 吉良に傘を持って来させるか。


ザァァァァ


 雨の音は俺の心を表すかのように、降り続けている。

 佐々木ともう一ヶ月も会っていない。

 同じ高校なのに!!

※吉良が会わせないようにしているから


 会わない部分だけアイツヘの感情が熱くなる。でも会えない……はぁ。やはり男同士の恋愛なんて成立しないのかもな。

 どうやら俺達ははなから赤い糸では結ぶことができない関係なんだろうn……


 ビシャッ、ビシャッ、ビシャッ


「ん?」


 すると雨の中を走り抜ける足音がした。

 その足音はどんどん俺の方へと近づき、それが男であると分かった。


「も、もう無理だぁ。まさかこんなに雨が降るなんて。天気予報じゃ降るって言ってなかったのに……」


 ………どうやら


「......お、鬼瓦先輩?! なんでこんなところに?!」


 俺と佐々木は運命の赤い糸で結ばれているようだな!!!


次回、番長とハルトのきゅんきゅん恋愛編!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る