第22話 粉砕、玉砕、大絶叫!!

『続いての映画は、昨年最も熱いと言われたあの名作の続編が―――』


 映画の告知が流れていると、隣に座る高田さんが声を震わせながら話す。


「ふ、フン! ホラー映画なんて毎日み、観てるから、た、た楽しみね」

「……怖いんですか?」


 何ということだ。

 航太くんは恐れ多くも高田さんを馬鹿にする発言をした。

 ここは兄として僕がフォローしないと!


「航太くん! キレ症でガキ大将の高田さんを煽らないように」

「ハルが一番煽ってるわよ!」


 そして首の根を掴まれ、息ができない状態にされる。

 はぁ……だから高田さんと映画なんて嫌だったんだよ!



 ※※※



―――1時間前。


「―――それで、兄弟水入らずで映画に来たと……」

「そうだよ」


 現在、僕は映画館に来た事の経緯を話していた。そして何故か怒られていた。


「……」


 航太くんが哀れんだ目で僕を見てくる。本当なら頼れる兄の姿でも見せるつもりだったのに!


「僕は何も怒られるような事はしていないのに正座させられるっておかしくない?」

「そうよね。アタシが散々観たいって何回も映画に誘ったのに、それを全て断った挙げ句、一月も前から映画に行こうってやっと約束できたと思ったらドタキャンされて一人寂しく映画を観に来たアタシが悪かったわね」

「回りくどい言い方やめてよ! もう本当にすみませんでした!!」


 でも高田さんが一人で映画に来るなんて思わなかった。しかも時間ぴったりで出くわすなんて。


「まぁハルが散々弟と仲良くなりたいって言ってたしね。今回は許してあげるわ」

「あ、あはは。それはありがとう」


 さて、ひと段落ついた事だし……


「じゃあ航太くん。僕たちはあっちに行こうか」

「待ちなさい」


 航太くんを連れて映画の指定席を買いに行こうとすると、またしても高田さんが止めてくる。

 ったく、しつこいなぁ〜


「次は何?」

「どの映画を観るの?」


 どの映画?

 そりゃあ航太くんが観たいって言ってる……


「まさか一緒に観るつもり?!」

「別にいいでしょ? 映画観るだけなんだし」


 忘れていた。

 高田さんは兄弟水入らずの間に割って入っても気にしない図々しい心の持ち主である事を。


「いやいやいや! 今日は僕と航太くんが仲を深める為に来たんだよ?! そこに高田さんが入ったら兄弟水入らずの意味がなくなるよ!」

「映画観るだけだから邪魔になんかならないわよ」


 くっ! 中々引き下がらないな!

 こうなったら……


「航太くんも僕と二人で観たいよね?」


 航太くんに託す!

 これでもし航太くんがOKするものなら、僕は相当嫌われているということにならが……本当はそうじゃないよね?!


「別にいいですよ。正直晴斗さんと二人だけで映画観るの嫌だったんで」

「航太くんんんんんんん?!!」


 こうして高田さんも一緒に映画を観ることになった。



 ※※※



「楽しみだね」

「俺漏らすわ」

「いや漏らすなよ」


 映画の告知が流れる中、他の観客はヒソヒソと映画を楽しみにする声で賑わっていた。

 今回僕達が観るのは最近公開した日本のホラー映画。確か有名な監督がやってるとかで、完成度は中々と言うことらしい。


「……」


 航太くんと高田さんに挟まれて座る僕。

 航太くんは無言ながらも、どこか楽しそうな目で映画が流れる時間を今か今かと待っているのが分かる。

 やはり来てよかったな。


「……」


 一方、航太くんとは反対に、酷く怯えた目で、まだかまだかと映画館から出ようとする高田さん。

 やはり……


「高田さんってホラー映画嫌いなの?」

「べ、別に怖くないわよ!」

「いや、嫌いなのかって聞いたんだけ」

「怖くない!」


 こりゃあ相当怖がってるな。

 こんなに弱々しい高田さんを観るのは初めてだ。


「……サクラさん、大丈夫ですか?」


 すると航太くんが高田さんを心配してか、声をかける。


「だ、大丈夫! 大丈夫……大丈夫!」


 航太くんは優しいなぁ。

 でもその優しさを僕にはくれないんだよなぁ……ひっぐ。


「あっ、映画始まるよ」


 僕が心の中で涙を流していると、近くに座る観客の声が聞こえた。

 まぁこの際航太くんに素っ気なくされた涙を、この映画で恐怖の涙にでも変えよう。


「は、ハル!」

「!」


 映画が始まる直前、高田さんが小声で話しかけてくる。


「今度は何?」

「ちょ、ちょっとね? あの申し訳ないんだけど……」


 高田さんはいつもとは打って変わって、情けなくも、どこか可愛さを感じられる表情をしながら言う。


「……て、手繋いでくれない?」

「え?」


 高田さんの言葉にドキッとした。

 あのいつも破壊と絶望の塊である高田さんがこうも弱々しい姿で、僕に助けを求めている?!

 そんなの……そんなの!


「あーうん……いいけど?」

「あ、ありがと」


 僕は断る事ができなかった。

 くっ! こんなに頻繁に高田さんとくっついていたら、タイトル詐欺になってしまうよ!

 でも可愛い美少女に求められたら助けてしまうのが男ってものだろ!


『これは……俺以外のみんなが忘れた出来事……』


 そしてついに始まる映画。

 序盤からどこかおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。主演は名演技で話題の―――


 ギュッ


「!」


 高田さんの手。僕の手より少し小さく、ほんのり汗をかいている手に握られた瞬間、少し安心した。

 安心……ああ、そうか。昔はよくこの手を握りながら、よく遊んでいたっけ。


「うぅ…!!」


 こんなに怯えて……いつもこうなら、高田さんも可愛く見えるのにな―――


―――『まさか……まさか! 俺が見ていたのは死んだはずの彼女……はっ!?』

【ドォォン!!!】


「キャァァァァァァ!!」

「あででででででで?!!」


 映画が始まって1時間。

 高田さんは恐怖の余り、僕の手を握り潰してくる。


「ちょ、たか、高田さん?! もう少し力を押さえて!」


 僕は小声で高田さんに訴えかける。

 しかし、


「怖いんだから仕方な……ひぃぃ!」

「高田さん? これは映画だ。現実にはこんな幽霊とか化け物とか出ないいいいいいいいい?!!」


 ……あっ


 バキッ


 僕の右手は粉々に砕け散った。

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