第21話 映画に行く道のりは辛い
「それじゃあ行こっか」
「……」
母さん達が家にいない中、僕は航太くん(義父の連れ子であり、中学生の引きこもりの義弟)と出かける準備をしていた。そして今、お互いギクシャクしたまま家を出ようとしたいたのだ。
事の経緯は―――
「母さん達、デートしてくるわ!」
「は?」
高田リサイタルによって深い傷を負った僕は、部屋でゴロゴロしていると、突然言ってきた。
「デートって一平さん(母の再婚相手であり義父)と?」
「当たり前でしょ。ほら私達ってデートとか一回もせずに再婚したじゃない? だから行きたいなーって言ってたのよ」
「いや初耳だよ! それでよく結婚したね?!」
まぁここまでは良かった。別に水入らずの夫婦のデートを邪魔する気もないし、心置き無く楽しめばいい。
そう思っていると、
「せっかくだし、晴斗も航太くんとどこか出かけたら?」
「え?」
「私も一平とさらに仲良くなりたいからデートするのよ? あんた達も兄弟になったんだし、もうちょっと仲良くならばいいんじゃない?」
確かにそうだが、航太くんは中々心を開いてくれない。僕から何度か接触を試みるも成果は上がらず、航太くんが来るのを待つようにしていたのだが……
「母さん達もフォローしてみるから、試しに誘ってみたら?」
「……うん」
僕は部屋を出ると、隣りの航太くんの部屋へと向かう。
そして少し離れた所から母さんが見守る中、僕は航太くんがいる部屋のドアを数回ノックをする。
「……はい」
航太くんの返事が返ってきた。
さて、ここからが本番。果たして航太くんが僕と一緒に出掛けてくれるかだが……
「あ、あのさ! 母さん達がデート? するみたいなんだ。だからその……僕たちも兄弟水入らずでどこか出かけないかなぁ〜と思いまして」
「……」
航太くんの返事はない。やはり心は開いてくれないか……
「……どこに行く予定ですか?」
「!」
すると航太くんは興味を示したのか、返事をしてくれた。
その声が聞こえた母さんは僕の方へ親指を立ててイイネしてきた。
これは場所によっては一緒に出掛けてくれるという事だが、的外れなことを言えば断られるという事でもある。
言葉を選ばなければ!
「えーと。そうだな……」
やっぱり無難に映画とか? いや航太くんが好きな映画をやっているのか? てかそもそも航太くんの趣味は何だ? やはり航太くんが行きたい所に行くべきだが……
「……遊園地?」
「……ちょっと遠慮し、」
「じゃなくて映画! 映画館!」
「……それなら」
危ねぇぇぇ!
初っ端から話が終わる所だったよ―――
という訳で、僕たちは兄弟になって初めて出かける事になったのだ。観る映画は特に決まっておらず、映画館に着いてから決めようと思うのだが、その前に……
「「……」」
果たして映画館に着くまで会話を持たせる事ができるのだろうか。
※※※
映画館は家から徒歩十分の電車を使ってすぐの場所。トータル三十分で映画館に着く事になる。
それまでの間、僕は航太くんとの仲を深めるべく、話題を振るのだが……
「そう言えば昨日のテレビでやって」
「観てないです」
「……あっ、ゲルダの伝説発売したよね! 航太くんはやって」
「ないです」
「……そっかぁ」
誰か助けてくれ。僕のコミュ力の問題でもあるけど、航太くんが一切会話のキャッチボールをしてくれないんだけど。
「えーマジで?」
「あはは!」
電車の中は会話が賑わっているのになぁ。
もういっそのこと航太くんと仲良くなるのは諦めようかな……
「……あの」
いやダメだ!
せっかく兄弟になったんだし、学校のこと、しょうもない世間話などで盛り上がりたいところ……しかしどうすれば!
「あの!」
「ふぇっ?!」
僕が考え込んでいると、航太くんの方から話しかけてきた。
「さっきから話しかけてくれるのはありがたいとは思うんですけど」
おっ? この反応はもしや口下手で上手く話せなかったと言うんじゃないだろうか。
それなら心配いらないさ。
何故ならこの僕も口下手なんだか
「返すの面倒なんでやめて欲しいです。あと話題振るならもっと広げやすい話題、そして広げる努力して下さい」
「……はい」
こうして映画館までの道のりで、僕と航太くんとの会話のキャッチボールが投げられることはなかった。
※※※
駅のホームを出て、目の前にあるショッピングモール。中へと入り、人混みの間を抜けて行くとポップコーンの匂いが広がるに映画館に着いた。
「「……」」
結局ロクに話さずに着いちゃったよ……しかし!
映画館では何が観たいとか、何を買う、映画の感想とかで会話の機会が増えるはずだ。
道のりではうざがられたが、今度こそ上手くやるぞ!
「航太くんはどれが観たい?」
「……」
「あーだったら名犯人コタンとか?」
「……」
「……うーん」
いやこれダメだわ。
航太くんが会話する気がない以前の問題だ。そんなに僕と話す事が嫌なら何故映画に行ってくれたんだろうか?
もしや情けでついてきてくれたとか? いや、それだとさっき繰り出されたナイフの切れ味を持った言葉はでないはずだ。
じゃあ観たい映画があるとか? でも航太くんにそんな素振り見えな、
「……」
航太くんを見ると、映画館に設置されている広告を見ていた。それは今話題のホラー映画。観た人全員が二度と観たくない、しかし観たいという矛盾が生じる怖さと面白さが人気の作品だ。
「これ観たいの?」
「……」
航太くんは無言ながらも、小さく頷いた。正直ホラーは苦手だが、航太くんが観たいと思った映画を教えてくれたんだ。
頑張ってみるか!
「じゃあ映画は決まった事だし、売店にでも行こ……あっ」
売店の方へと視線を向けると、そこには桜色の長い髪をなびかせる見慣れた人……
「あっ! ハルじゃん!」
ジャイアンだ。
「航太くん、ガキ大将が来る前に逃げようか」
「え?」
「だから何で逃げるのよ!」
次回、恐怖の映画館
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