昔大嫌いだった幼なじみが可愛くなって告白して来たが、全力で拒否する!

トザワ

第1話 母は走るよ会社まで!!

 ……僕は、


「ハルー!!」


 彼女の事が嫌いだった。


「うわぁぁぁ!!!」


 小学生の頃、近所に住んでいた同い年の女子。名は高田桜。桃色の髪が特徴の、僕の幼馴染だ。

 彼女の声が聴こえると、僕はすぐさま逃げ出す事が習慣に。


「ぐうぇっ!」

「何で逃げるのよ!」


 そして即座に捕まる。

 何故彼女から逃げるのかって?

 それは会う度に首をしめてくる暴力女だからだ!


「お、鬼ごっこかな〜って」


 まぁそんな事言える勇気は当時の僕にはないけどね。


「鬼ごっこは昨日したじゃない。もしかしてハルって忘れん坊?」

「確かに忘れん坊だ! いやー面白い! あっはっはっはっ」

「……はぁ」

「いやあのごめんなさい。笑いながらしれっと帰ろうとしてすみませんでした。なので指をポキポキ鳴らすの止めてください!」


 そう言うと、彼女はニヤッと狂気の笑顔になり、


「ふふ、冗談よ」


 嘘だ! もう既に胸ぐら掴んで、右手が僕の顔面にロックオンしてたじゃないか!


「そんな事よりさ……今日は聞きたい事があるの」

「聞きたい事?」

「もし……アタシがハルと離れ離れなるって言ったら……悲しい?」

「え?」


 この言い方って、もしかして…


「引っ越すの?」


 彼女はしばらく沈黙し、目から大粒の涙を溢れ始めた。


「……うん」


 そうして彼女は鼻水をずるずると出しながら、僕の体を強く抱きしめる。


「アタシ……アタシ!」


 彼女に嫌気を指しているとはいえ、ここまで悲しまれるとさすがの僕も悲しくなってきた。


「サクラちゃん……ちょっと痛いんですけど」


 暴力女の抱きしめ殺しにより、僕の体から聞いた事のない骨の音がボキボキと鳴る。


「うわぁぁぁぁぁぁん!」

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 あっ、やばい! これマジで死ぬ!


「ちょっ! サクラちゃん?! 苦しいんですけ、」

「ハルー!」

「うぉぉぉぉ??! ……あっ」


 次の瞬間、俺の意識が飛んだ。

 意識を失う寸前、彼女の顔が目に入った。涙を流しすぎて、くしゃくしゃになった真っ赤な顔。

 彼女が僕の事が好きで泣いてくれているのは嬉しい。だが、それ以上に彼女に対しては恨みの方が大きい。

 暇さえあれば僕を追いかけてくるし、自分の部屋でくつろいでいれば、家に不法侵入して僕の部屋を荒らし、学校では女子と話すだけで殴られる……もううんざりだ!

 事ある毎に僕に絡んできやがって! 僕に恨みでもあるのか? だとしてもやり過ぎだ! ツンデレという線も有り得……ない! あれをツンデレだからと許してなるものか!

 お前なんか……お前なんか!


「大っ嫌いだぁぁぁぁぁ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぶっっ」


 母さんの平手打ちにより、僕は壁際へとぶっ飛ばされる。


「あ、ごめんごめん。起こしに来たら急に起き上がったからつい」

「つ、ついにしては強すぎるね」

「ちょっと日頃の恨みを込めて」

「酷い! よく息子にそんな……って、僕に恨みがあったの?!」

「あー違う違う。恨みってのは隣のババアの事よ。あのババアと来たらゴミの分別もできないのかってブツブツ」


 その恨みを込めて息子に平手打ちするのはどうかと思う。そう思った今日この頃。


「そんな事は置いて晴斗、うなされてたけど大丈夫?」


 そんな事で片付けて欲しくないと思ったが先に質問に答えることにする。


「……忘れた」


 彼女の事を口に出すのも嫌だ。



※※※



「ふぅ」


 一階の洗面台で顔を洗った後、僕は朝食を食べるべくリビングへと向かった。


「しかし珍しいわね。晴斗が寝坊するなんて」

「昨日遅くまで起きてたからね」


 母さんは3年前に亡くなった父さんの代わりに、一家の大黒柱として働いている。まぁ大黒柱といっても二人家族だけど。でも母さんが働いてくれているから、僕は毎日ご飯を食べて、寝る家もある。そう思うと感謝しかない。


「母さんの豪華朝食はどう?」


 本来今日の朝ご飯を作る当番は僕なのだが、寝坊したので母さんが代わりに用意してくれた朝ご飯。

 ……豪華と言うかまず、


「買ってきたパン(税込110円)とインスタントのコーヒーでどうと言われても」

「仕方ないでしょ?晴斗が作るもんだと思ってたから作る時間なかったの」

「それについてはごめんなさい」

「いいの、いいの。本当は私が毎日つくってあげないといけないのに...」

「別にいいよ。それに最近料理作るの楽しいんだ。むしろ毎日作りたいっていうか」

「……いつもありがとね」

「うん」


 父さんの変わりに働くようになった母さんは、僕におはようと言う為にわざわざ夜遅くまで働いているんだ。家事ぐらい安いもんだ。


「さて...母さんそろそろ仕事に行くから」

「あんまり働きすぎないように」

「何言ってんのよ! バリバリ稼いで老後は貯めたお金で豪遊するのよ! 甘い事は言ってられないわ!」


 母さんは相変わらず強いな。父さんがいなくなっても元気で...といつまでも悲しんでいたら父さんに叱られるな。


「晴斗も高校初日なんだから気おつけてよ?遅刻もしないように!」

「分かってるって」


 学校に着くまでの時間はまだ余裕がある。今から用意しても間に合うだろう。


「それじゃあいってきまーす」

「行ってらっしゃい」


 さて。そろそろ僕も学校の準備をしないと。


「あー!と、忘れてた!」


 パンの袋やコーヒーカップをシンクへ持って行こうとすると、突然母さんが戻ってきた。


「忘れ物? 早くしないと母さん遅刻す、」

「母さん再婚するから。再婚相手は仕事の同僚。彼も奥さん居なくて息子の男の子と二人暮らしだったらし家族増えるからそのつもりで」


 …………え?


「それじゃ!」

「い、いやいやいや! ちょっと待って?! いきなり過ぎて思考が追いつか」

「いってきまーす」

「ちょっと待って母さん!!母さぶっ!」


母さんを呼び止めようとするも、勢いよくドアを閉められた。おかげで鼻をぶつけた……って今はそんな事どうでもいい! 

 急いで母さんに問いただそうと、僕も外に出るが、既に遅かった。


「いや遠っ!!」


 道の奥に小さな人影しか見えなかった。恐らくあれが母さんだろう。

 そういえば母さん学生時代陸上で全国1位取ったって言ってたっけ……


「母さぁぁぁん!!!」


 そして僕は親が再婚する事に不安を覚えながら、学校へと向かうのだった。

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