第12話 開幕! 美少女クッキングバトル!!

『ついに始まりました! 美少女クッキングバトル!! 司会進行は前回に引き続き、黒井が務めさせていただきます!! なお、今回の話はセリフがほとんどになっておりますがご了承ください』


 開幕すると、高田さんと相葉さんは互いに巨大な冷蔵庫から様々な食材を取り出す。


『高田様は何を作るつもりですか?』

「やっぱりハルに美味しいって言ってもらいたいから得意料理のオムライスかな」

『思い人に食べてもらいたい……何とも健気ですね!』

「えへへ」


 誰が思い人だ!

 そんなこと言ったら……ほら~観客席からヒューヒューと熱い声援を言われているじゃないか。


『では思い人である佐々木様から一言頂きましょう!』

「まず僕は思い人ではありません。そして高田さん、せめて食べれるものだと嬉しいですけど暴力反対!!!」

「アタシの料理が食べられない前提なのはどういうことよ!」

『おっとここで佐々木様の命が絶たれそうだぞー!』


 高田さんに胸ぐらを掴まれ、殴られそうになるのをよそに、相葉さんは黙々と準備を進める。


「サクラ! 男のこと考えてたって言って、ウチに負けても言い訳すんなよ!」

『お嬢様は何を作るのですか?』

「ウチはオムライスみたいな簡単な料理は作らん」

「ああん?!!」

『それは一体?』

「フフフ、ウチはプロから伝授してもらったオリジナルソースをつk」

『これは展開が読めないぞ!!!』

「話聞けやぁぁぁ!!!」


 そして高田さんも食材の準備を整え、二人は料理を作り始める。


『ではここで、審査員の方からの言葉を聞きたいと思います。まずはアホメシェフから!』

「フン! ワシは誰が作った料理であろうと思ったことを言う。例えその料理を作ったのが可愛らしい子供だろうと、不味いなら不味いと言うからな」

『なるほど!! では試しにこれを食べていただきましょう!』

「ん? なんだこれは……ぐっ! ま、不味い! 誰だこんな料理を作ったのは?!」

「おじいちゃん……」


 すると舞台の端から、今にも泣きそうな5歳ぐらいの少女が現れる。


「まゆみ?! な、なぜワシの孫がここにいるのだ?!」

『実はサプライズで、愛する孫の料理をおじいちゃんはどう評価するのかというどっきりを』

「ま、まゆみちゃん! 実は不味いって言うのはワシからすればちょー美味しいという意味d」

「おじいちゃんなんて大っっぎらい!!!」

「まゆみぃぃぃ!!!」


 まゆみちゃんは涙いっぱいを流しながら走り出す。

 アホメシェフはただただ呆然と落ち込み、体全体が真っ白になって動かなくなってしまった。


「わ、ワシの……愛する孫……」

『いや~実に面白い余興でしたね』

「あんた鬼だろ」


 シェフの悲しき余興そっちのけで、高田さん達は熱心に料理を作っている。


『おや? 高田様、それは一体……』

「卵を割ってるのよ!」


 卵を割る……それは一件簡単なのかもしれないが、力加減が分からない人には至難の業だろう。つまり……


「くっ! この!」


 バキィィッ!!


 卵の割れる音とは程遠い割り方をする高田さんには無理な話だった。


『これを見て佐々木様、一言お願いします』

「オムライスとかいいので、白米と卵を割らずにくれませぶっ!」

「どういう意味よ!」

『高田様! 卵は投げ道具じゃないですよー!』


 頭から卵の黄身が流れ始めると同時に激痛が走る。

 た、卵ってこんなに痛かったのか……


「へっ! 卵も割られへんくせによう勝負に乗ったな!」

「ああん?!」


 相葉さんは高田さんを煽りながら、フライパンから牛肉の香ばしい匂いを出している。

 あれはローストビーフか?


『さすがはお嬢様! 腐っても令嬢と言うわけですね?』

「腐ってもは余計や!」


 すると相葉さんは、冷蔵庫からオリーブオイルのようなものを取り出した。


『ほうほう。それは……』

「これを一滴入れるだけで味が全然違うんや!」

『なるほど。ローストビーフにお酢を入れるとは斬新ですね」

「ふぇ?」


 勢いよくフライパンに注がれたお酢は、何とも酸っぱい匂いで会場を埋め尽くした。


「し、しまったぁぁぁ!!」

『HAHAHA!!!』

「笑うな!!」


 黒井さんは今まで見た中で一番の笑い声を上げる。

 クラッシャー料理人高田さん、おっちょこちょいの台無し料理人相葉さん……うん。


『これはどちらも期待できないぞー!!!』


 不味いのは確実だね!!!

 そして一時間後、二人の料理はついに完成する。



 ※※※



 ついに出来上がった二人の料理。

 長年の因縁を何故料理対決にしたのかは謎だが、とにかく出来上がった。

 本当に……本当に良かった。


『えークッキングバトルが始まって一時間。色々なことがありました』


 黒井さんの言葉に、審査員の僕たちはもちろん、見に来ていたお客さんも大きく頷く。


『高田様のキッチン、フライパン、冷蔵庫、その他の破壊が計十三回。そしてお嬢様のおっちょこちょいとは言えない火の不始末&大爆発。今回で私たちは命の大切さを知りました』


 客の中には涙を流す者も……だって何回死にそうになったか。


『ですがその苦労あって、ついに二人の料理は完成されました!』


 高田さん達はどこかばつの悪そうな顔をしている。まぁ死人がでそうなほど激しいクッキングだったから仕方ない。


『それではまず、我が主であるお嬢様の料理です!』


 そしてついに、審査員の僕らの前に料理が並べられた。


『高級食材をこれでもかと使い、プロの料理人から伝授されたと言っておきながら、塩を砂糖と、オリーブオイルをお酢等全てを間違え、何故かガスコンロを爆破させたお嬢様の料理! その名も―――』


 目の前に置かれたのは、真っ黒焦げになったロースに、虹色のソースがかけられている。

 まさにこれは―――


『ゲテモノ料理です』

「ローストビーフや!!」


 見たところ、まだ肉だけなら食べられる。しかし、このソースは何だ?

 テレビの演出でもないのに、現実に虹色のソースって有り得ないだろ!


『それでは審査員の方々、どうぞ!』


 食べたくねぇー

 審査員である僕たちは、誰もフォークに手を付けず、食べようとはしない。全員食べたらどうなるか分かっているからだろう。


『……レオナルド、早く食べなさい』

「?!!」


 すると前回同様、今まで存在を忘れるかのような陰の薄さで、いないも同然であった馬のレオナルド。自分は関係ないと思っていたのか、馬とは思えないほどのリアクションで驚いていた。


『さぁ! ご主人様の愛情タップリの料理ですよ!』

「?!!」


 レオナルドは顔を左右に激しく振り、拒否反応を見せるも虚しく、黒井さんの手で容赦なく相葉さんのゲテモノ料理を詰め込められる。


「ネチョ、ムチャ、グニョ……ごくり」


 え? 何この咀嚼音?

 これ食べ物だよね?! ローストビーフを食べてるとは到底思えない音なんだけど?!


『……どうですか?』

「……」


 レオナルドはしばらく沈黙した後、


「ぐふっ」


 倒れ込んでしまった。


『れ、レオナルドォォォ!!!』

「レオナルドごめーん!!」


 相葉さんの謝罪は届いていないのか、レオナルドは白目をむいたまま気を失っている。

 もしや死んでいるんじゃ……


『……では、次はアホメシェフ! よろしくお願いします』

「え?」


 そしてアホメシェフはスタッフに抑えられ、相葉さんの料理を口に運ばれる。


「い、いや! 馬が食って死ぬようなもんをワシに食わせようとするな! あと馬って草食なんじゃぐぶっ!?」

『触れてはいけません。黙って食え』


 アホメシェフは噛むごとに顔色が悪くなり、そして……


「ぐはっ」


 死んだ。


「うわぁぁぁ!!!」

『逃がすか!!』


 僕はすぐさま舞台から逃げ出そうとするが、黒井さんの手によって、フォークに刺されたゲテモノ料理が口目掛けて投げ入れられる。


「ネチョ、ムチャ、グニョ……ごくり」」


噛むごとに相葉さんのゲテモノ料理の味が広がり始め、その味の全貌が分かってきた。

……うん、なるほど。

 こんがり焼き過ぎたローストビーフは炭の味しかしない。隠し味の砂糖とお酢により、最初は酸っぱく、その後激甘な後味になっている。そして虹色のソース。とにかく分からない。いや、不味いのだけは確かだ。何故虹色なのかは考えたくもないし、知りたくもない。

 外はザクザク、中はゴムのようであり、ネバネバしている気持ちの悪い食感。

 つまり―――


「ぐはっ」

「ハルゥゥゥ!!!」


相葉さんの料理により、死者三名。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る