第14話 高田さんが家に来た!!

梅雨の時期に入った六月。

気温も高くなり、制服の袖を上げる人もちらほら。

そして入学してから二ヶ月が経ち、学校生活にも慣れ始めた高校生へ、試練が与えられる。

そう……


「二週間後中間テストだからしっかり勉強しとけよー」

「「「えぇぇぇ!!?」」」


テストである―――


「やべぇーどうしよう」

「勉強してねーよ」

「俺も」


休み時間になった途端に、テストへの憂鬱を話すクラスメイト達。

今回は高校生になっても初めての定期テストだから、少し心配だ。

最悪欠点を取らないよう今日から勉強しておこう。


「ハルー」

「ひぃぃ!!」

「反応おかしくない?!」


高田さんに声をかけられるとついに悲鳴を上げてしまう。


「ご、ごめん。ちょっと驚いたんだよ」

「驚いたというか、恐怖の叫びみたいだったけど」

「き、気のせいだよー、あはは」


最近は特に、高田さんに声をかけられる事が怖くなっている。主にクッキングバトルの後から、毎日のように高田さんのゲテモノ料理を食わされたせいだ。


「今日も何か作って来たの?」


僕は覚悟を決め、高田さんに聞くが、


「違う違う。テストの事よ」

「テスト?」


良かった。今日は食べなくていいんだ。

しかしテストか……あっ、もしやテストの範囲を聴き逃したから教えて欲しいとかか?


「一緒に勉強しよ!」


あーそういうことね。

でも僕は一人の方が捗るタイプなんだけど……まぁ今まで誰とも勉強したことないけどね。

でも高田さんと勉強かぁー……絶対酷い目に合うな!


「あーいや、僕はその……一人の方が集中できるから、遠慮しとこうかな?」

「日曜日にハルの家行くから」

「言葉のキャッチボール知ってる?」


しかも今、僕の家って言わなかったか?!

僕の家で勉強なんてしたら、母さん達に付き合っていると思われてしまう!


「その日は用事があるから」

「どんな?」

「え……英会話教室」

「……ふーん」


やべぇ、めちゃくちゃ怪しんでるよ。

……けど、これだけ言っていれば、高田さんも勝手に家に来るなんてないだろう。



 ※※※



寝巻き姿のまま、僕は一階へ降りると、リビングへと向かう。


「……誰もいない」


 時刻は11時。朝というには少し遅い時間だ。

 一平さんは仕事で都内に、母さんは買い物かな?

 航太くんは……部屋から微かな音が聞こえるし、起きてはいるのだろう。

 せっかく兄弟になったが、あれから全くと言っていいほど進展しない関係。

 母さんとは多くはないものの、話しているところは見るし……ゆっくりと言えど、もう少し僕から歩み寄ってみるのもいいかもしれない。

 今度、テレビゲームにでも誘ってみよう。


「さて……じゃあ朝ごはんでも食べるか」


 今リビングにいるのは僕だけ。

 朝ご飯はベーコンエッグとレタスを挟んだサンドイッチ。一平さんが用意してくれた。

 ではソファーでゴロゴロしながら、ゆっくり食べようじゃないか!


「いただきまーす」


 そして僕はサンドイッチを口へ運ぼうとしたその時、


 ピンポーン


「はいはーい」


 タイミング悪く、インターフォンが鳴った。

 郵便物が届くなんて、誰からも聞いていない…回覧板とか?

 僕はボサボサの髪のまま、インターフォンの画面を覗くと、


「げっ」


 画面の向こうにいるのは、高田さんであると分かった。

 マジで来ちゃったよ……


 ピンポーン


 すると再度高田さんはインターフォンを鳴らす。

 出たくないなぁ~。

 高田さんが来ると、僕に良くないことが起きるはずだ。

 せっかくの日曜日、高田さんと勉強? 絶対嫌だ!なんとしてでも死守したい。

 しかし、居留守を使おうにもさっき声を出したせいで、人がいるのはバレている。

 どうすれば……そ、そうだ!

 僕は覚悟を決め、ゆっくりとボタンを押す。


『!』


 すると高田さんは少し驚くも、話し始める。


『あ、あの! ハル…トくんと同じクラスの高田です! 晴斗くんいますか?』


 どうやら高田さんは緊張しているようだ。

 こういうのは慣れていないのだろうか……まぁそんなことはどうでもいい。

 この場面を切り抜け、僕は自由な日曜日を手に入れる!!!

 僕はスーっと深呼吸をした後、意を決して声を出す。


「ハーイ!! ワタシ留学スルタメココニホームステイシテル、ポールデース!!」

『……え?』


 高田さんは一瞬困惑するも、ゆっくりと質問する。


『あの…留学ってなんですか?』

「オーマイガー。留学知ラナイノ? 留学ッテ、違ウ国カラ勉強シニ来ルコト」

『いや知ってるわよ! そうじゃなくて、ここ佐々木晴斗くんの家ですよね? 晴斗くんからホームステイの人とか聞いてないけど……』


 当たり前だ。

 留学生も、ポールもここにはいないのだから。


『この間、学校から聞いて晴斗くんをここに連れて来たのですが』

「ハルト? ……オー!! 彼ハココ違ウ。佐々木違イデス」

『え?!』


 佐々木というのは悪く言えばよくある名前。

 佐々木違いというのも無くはないだろう。


「カレガ起キタ後、本当ノ家ニ帰リマシタ! ダカラ、ココニハルトイナイデス!!」

『そ、そうですか……』

「ゴメンナサイネ」


 完璧だ。

 実に外国人らしい話し方で、高田さんを追い払ったぞ!


『ちなみに、ポールさんの出身地はどこですか?』


 だが、高田さんはしぶとく、まだ疑っているらしい。

 全く、この完璧な外人のどこに怪しいところがあるというのか。

 良いだろう。ここに佐々木晴斗なんていないということを叩き込んでやる!!


「ワタシ、アメリカデス。日本語話セルノデ、気ニシナイデイイデスヨ!」

『Why are you imitating so badly? (どうしてそんなに下手くそなモノマネしているの?)』

「……ワッツ?」

『You're from the United States, right? Then it's funny that you can't even speak English. (あなたアメリカ出身ですよね? じゃあ英語も話せないなんておかしいわよ)』


 何この流暢な英語……全然分からん!

 そういえば高田さんって白百合中学(超頭良い)出身だったし、できて当然……いや!

 きっと適当に言って僕にボロを出させようとしているんだ!

 英語間違えていると指摘して……もし合っていたらやばいな。

 よし! 設定変えよう!


「ワタシ、実ハロシア出身デース! 名前プルチン、デシタ!」

「は? なんで嘘つくのよ?」


 若干どころか、怪しさ丸出しだが、僕の頭を使えばいける!


「知ラナイ人ニ嘘ツイタラダメッテ法律ナイデス! ドンマイデース!」

「あのねぇ~」


 ものすごく腹が立つ外人になってしまったが、この際仕方がない。

 ここは無理矢理でも、高田さんには帰ってもら…


『Не смейтесь надо мной! Пожалуйста, впустите меня в дом как можно скорее! (私を馬鹿にするのもいい加減にしろ! 御託はいいから早く家に入れなさい!)』

「何デ話セルネン!!」


 高田さんはロシア語と思わしき言語で話すが、当然僕はロシア語が理解できるはずがない。

 き、きっと適当に言っているんだ!


『いいから入れろって言ってるの! 嘘つくならせめて身内とかそのまま佐々木違いの人の振りをすればいいでしょ?! 馬鹿にするな!!』


 あっ。その手があったか。


『こうなったら、ドア壊してでも入って、ボコボコにしてやる!』


 何か犯罪犯そうとしてるぅぅぅ!!!

 すると、玄関のドアがガチャガチャと強く揺れ始め、僕は冷や汗が出始める。


「あっ、ちょっと! やめ、やめろー!!!」


 そして僕は急いでドアを抑えようしに行くと、突如揺れが収まる。

 僕は恐ろしくて、動きを止めていていると、何やら外から声が聞こえる。

 誰かと話しているのか?

 もしや警察が駆け付けに!!


 ガチャ


「え?」


 しかし、予想は大きく外れ、最悪な結果を招き入れることに。

 

「まさかあのサクラちゃんがこんな美人さんになってるなんて、びっくりだわ~」

「そ、そんなことないですよ!」

「も~謙遜しないの!」

「母さんんんん!!!」


 こうして、買い物帰りの母さんが、高田さんを家に入れてしまったのだった。


次週、高田さんとの勉強会!!

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