第15話 ドキドキ? 高田さんと勉強会!

「くっ! この!」


 アタシは今、ハルの家に来て、ドアを壊そうとしている。

 一緒に勉強しようと思って来たのに、ハルは家に入れないどころか、馬鹿にしてくる始末。

 家に入ったらハルをぶん殴ってや……!!


「ちょっといい?」

「!」


 すると背後から女性に話しかけられる。

 流石にドアを破壊しようとしてるなんて言ったら、警察を呼ばれるかもしれない。


「こ、これにはちょっとした事情が……」


 アタシは女性に言い訳をしようと、後ろを振り返る。


「あなた……晴斗とよく遊んでいたサクラちゃん?」


 するとアタシの名前を呼ぶ女性。もしやこの人……


「ハルカさん(晴斗の母)?」


 妙に聞き覚えのある声だと思ったけど、ハルのお母さんだとは。

 最後に会ってからしばらく経ったけど、やっぱり若くて綺麗な人。


「キャー! こんなにまぁ可愛くなっちゃって!! いつ戻ってきたの?」

「は、はい。三月に戻って来て……挨拶が遅れて申し訳ないです」

「もぉ~そんなにかしこまらなくていいのよ? でも、また会えて嬉しいわ~」

「ふふ。アタシもです」


 アタシ達は軽い挨拶を交わし、懐かしむことをひと段落終える。

 そして、現在の話題に移る。


「ところで……何しているの?」

「あっ」


 アタシはハルが家に入れてくれないことをハルカさんに説明すると、


「ごめんなさいね? うちの子いまだに思春期で、可愛い女の子にはつい意地悪な態度をとって距離を置きたがるの」


 そう言いながら、ハルカさんは家のドアを開ける。


「母さんんんん!!!」



 ※※※



「それじゃあごゆっくり~」

「「……」」


 僕の部屋に高田さんがいる。長い髪は後ろに纏められ、服は白いワンピースの上に、デニムのジャケットを羽織り、制服とはまた違う雰囲気が……って、そんなことはどうでもいい!


「僕、英会話あるって言ったよね?」

「じゃあなんでいるのよ」

「……リモートだよ」

「何言ってるの? あんた今日は昼まで寝るんだーって言うぐらい暇人じゃない」

「いやそれは……って!! 母さんはどっか行ってよ!!」


 母さんは部屋を出た後、しれっとドアに聞き耳を立てていた。

 僕は母さんが一階へ降りていくのを確認して、扉を閉める。


「全く……油断も隙も無いな」

「じゃあ暇ってことも分かったし……」


 くっ! まさか嘘をついた罰として、僕を殴るつもりか?

 いいだろう……僕だって黙って殴られてきたわけじゃない!

 好きなだけ殴ればいい……ただ!


「せめて死なない程度でお願いしま……す?」


 すると高田さんは学校の教科書やノートを取り出し、机に並べる。


「今日は勉強しよって最初に言ったでしょ? ハルも準備して」

「う、うん」


 あれ? 怒ってないの?

 よ、よかっt


「英会話の件と、エセ外人の件は後でね」

「……はい」


 ちくしょう!!


 こうして高田さんとの勉強会が始まった。



 ※※※



「ここにxとyつかって展開するのよ」

「あーそういうことか。ここは?」

「えーとそこは———」


 高田さんが家に襲来してから二時間が経過した。

 一緒に勉強をしたら、どうせ番長やお金持ちお嬢様みたいなのが現れては、僕が酷い目に合うんだ……そう思っていたが、


「こうしてみたら?」

「ほんとだ!」


 案外悪くない。いや、凄く良い。

 授業で分からなかったところを、高田さんは実に分かりやすく教えてくれる。まさか本当に頭が良かったとは……。


「そろそろ休憩しよっか。息抜きも大切よ」

「うん」


 僕は床に寝そべり、一息つく。分からなかったところを勉強できて良かったが、やはり疲れるな。マメに勉強する癖をつけておいたほうがいいのかな?


「……嫌じゃなかった?」

「え?」


 僕が寝転んでいると、高田さんが少し俯きながら話しかける。

 

「やっぱり勝手に来たのは良くなかったかなと思って」


 思ってはいたのか……まぁ確かに嫌だったけど、僕も思っていたよりも悪くはない勉強会だった。


「そんなことないよ。実は高田さんと学校以外で会うのが恥ずかしかったんだよ。高田さんが……可愛いから」

「ハル!」

「母さん! 僕のセリフみたいに話さないでよ!」


 いつのまにか母さんが部屋に入っていた。


「いいじゃない! 母さんだって青春したいもん!」

「したいもんじゃない! いいから早く出てってよ!」

「ちょ、ちょっと晴斗! これだけは言っておくけど、やることは母さん達がいない時を見計らってしてよ? 母さんも昔おばあちゃんが部屋に入ってき」

「出てけ!!!」


 僕は母さんを言葉を遮って部屋から追い出し、扉の鍵を閉める。


「ハハ。ハルカさんって面白いお母さんね」

「息子の僕は笑えないよ……」


 同級生の前で母親の下ネタ話は、思春期の高校生には恥ずかし過ぎる!

 はぁ、母さんのせいで、結局僕が酷い目にあったよ。全く……


「あっ! これ懐かしい!」

「え? あっ、『エイリアンソルジャー3』?」


『エイリアンソルジャー3』、全宇宙の狩人達が戦う2D格闘ゲームである。

 高田さんが引っ越す前、このゲームでよく高田さんと遊んでたっけ……いつも僕が負けてたけど。


「これやろうよ!」

「え〜? しょうがないなぁ」


 僕はやる気がないような態度をしながらも、着々とゲームを起動させる準備をする。

 このゲームは僕がぼっち生活の中でかなり鍛え上げた数あるゲームの中の一つだ。

 昔は負けていたが、プロ顔負けの腕を持つ今の僕に、敗北の文字などない!

 日頃の恨み……晴らしてやる!―――


「くそっ! くそっ!」


 高田さんが来てから約数時間が経った。

 二人で遊ぶ用のゲームの中で高田さんが選んだのはまさかの横スクロールの格闘ゲームである。

 高田さんが言うには昔僕と遊んだゲームで一番記憶に残ってるだとか。


「ああっ!! なんでそれが入るの?!」


 僕はこのゲームはかなり遊び慣れている。

 対する高田さんは過去に僕と遊んで以来一度も触っていない。

 これは勝敗が見えているし、たまには優位な立ち位置に……そう思っていた過去の僕を殴ってやりたい。


「えーと…ここを押して…えい!!」

「す、スクランブルコンボ?! プロゲーマーですら出せたことがないと言われているのに!!」


 しかも高田さんの使用キャラはこのゲームで最もコンボ出すのが難しいと言われるキャラだ。それなのに!!


『K.O』


 K.Oの文字と共に、僕の使用キャラ、エイリアンバスター義和の無残な姿が、テレビに映し出されるのだった。


「これで30連勝ね。そろそろ勉強再開しよ」


 高田さんは説明書を一分ほど読んだだけで、この強さ……はっ!

 忘れていたが、僕はこのゲーム高田さんに一度も勝てたことがなかった!

 それどころか、全ゲームで、高田さんはプロ並みの才能を発揮していたんだ!

 運動神経に、ゲームまで……くそ!!


「ねぇ? 聞いてるの? ハルってば!」

「もう一回! もう一回やれば僕の義和の勝ち姿を見せれるから!」

「そうやって同じこと言って、このゲーム二時間もしてるわよ? そろそろ飽きたと言うか、テスト前だし」

「お願いします! これで最後だから!!」

「え~」


 このまま負けたままだと、エイリアンバスターとしての名が廃る!

 なんとしてでも勝たなければ!!


「……じゃあこの勝負で負けた方が、勝った方の言うことを聞くって条件ならいいわ」

「お願いします!!」


 この勝負に全てを賭ける……だから義和!

 僕に力を!


『レディー…ファイト!!!』

「うおぉぉぉぉぉ!!!」


 こうして、エイリアンバスターハルトは最後の激闘を繰りひ―――


「はい、アタシの勝ち~」

「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!」


 ろげることなく、普通に負けた。


「じゃあ命令するわよ?」

「ああ。覚悟は……出来てる!」


 僕は引き出しからあるものを取り出し、高田さんに渡す。


「……貯金箱?」

「僕の全財産さ。これで好きなだけ豪遊すればいいさ!」

「いらない」

「なっ?!」


 数万円という大金をいらないだと?!

 お金がいらないなら、僕に払えるものなど……はっ!


「このエイリアンバスター義和のプレミアム人形だけは死んでも渡さない!」

「まだ何も言ってないわよ!!」


 これも違うのかぁ。

 僕は高田さんが求めているものが何かを考えていると、高田さんは予想だにしないことを言う。


「呼び方……昔みたいに呼んでよ」

「え?」


 昔みたいな呼び方……呼び方か!


「タカダサン」

「エセ外人じゃない! サクラちゃんって、昔呼んでたでしょ?!」


 小学生の頃は、何気によく遊んでいた仲だった僕達。

 僕もかつては高田さんの事を『サクラちゃん』と……


「……嫌だ」

「何でよ!!」


 今更呼び捨てに変えるの中々ハードル高いのにちゃん付けで呼ぶのは…いや下の名前を呼ぶのもだけど。


「呼び方で関係が変わる訳でもないし、他のことじゃダメ?」

「嫌だ! だって名字呼びだとなんか距離感じるし…特別感がないもん」


 そう言われるものの、僕はいくつか他の提案をしつつも拒まれる。

 高田さんはだんだんと顔が曇り始め、遂には、


「ハルカさんにお願いして、意地でも言ってもらう!!」

「それだけはやめてくれ!!」


 そんなことをしたら、僕は母親の前でとんでもない羞恥心を味わうことになる。

 それだけは死守せねば!

 高田さんが部屋を出ようとするので、僕は腕をつかみ、高田さんを止めようと立ち上がるが、


「嫌なら早く言いなさい!」

「そ、それも嫌…うわっ!!」


 すると、高田さんが体勢を崩し、僕の方へと倒れこむ。

 僕は倒れこんだ衝撃で、思わず目を閉じる。


「いっ…高田さん、大丈……夫?」

「……」

「え?」


 目を開くと、高田さんの吐息が当たる距離だった。

 それもキスできそうな距離であった。


「ハル……」


 あれ? この作品って……コメディーだけじゃないの?!

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