第6話 バトルの予感?
「……暇だ」
現在僕は体育の授業で、サッカーをしている。ポジションはゴールキーパー。
ジャンケンに負けたことで決まったのだが、ボールが一向にこない。
「パス!パス!」
「止めろ!」
まぁ楽でいいけど、ただひたすら空を見上げて時間が過ぎるのは、何とも言えない悲しさが襲ってくる。
味方、もしくは相手チームの中に友達の一人でもいれば、そいつと話したりもできただろうな。
「そこだ! そこ!」
「田中をマークしろ!」
そもそも僕はスポーツ自体それほど好きではない。
運動神経は良くも悪くも普通。
遊ぶ相手がいなかったせいでもあるが、特にボール系が苦手だ。
ボールには嫌な思い出があ……
「ゴール行ったぞ!」
「え?」
ガッ!! っと、鈍い音が聞こえると、ボールが僕の顔面を直撃していると分かった。
「っ〜〜〜!!」
最近高田さんに殴られ、痛みに耐性がついているとはいえ、やはり痛い。
僕は顔を抑えていると、クラスメイトが次々に笑い声が漏れ出す。
「あっはっはっはっ! 佐々木ナイスキーパー!」
「ナイス〜」
「くっそ!」
「佐々木ww顔で止めるってwww」
笑う前に心配してくれよ!
でも良かった。
もしここで止めていなかったら、きっと僕はチームメイトから酷いバッシングを受けていただろう。
「は、ははは」
オーバーなリアクションをして笑いを狙う……いや、僕の場合本気で捉えられるか、面白くない空気になるか。
ここは僕も笑っておこう。
それに、顔面直撃したという笑い話をきっかけに、クラスメイトと仲良くなったりして……
「あっはっはっはっ!!」
「HAHAHAwwww」
笑い過ぎじゃね?
あとこのクラスにオールマイトがいるんだけど!
「あっはっ……おい!止めろ!こっち見てるぞ!」
「笑うの止めろ!」
すると、一人の発言を皮切りに、みんなの顔が青ざめていくのが分かった。
僕のことを哀れんで、笑うのは良くないと感じ取ったのだろうか……あっ。
「やべーよ! 高田がめっちゃ睨んでるよ!!!」
「殺される!」
後ろを振り返ると、男子とは別の場所で授業を受けている高田さんを見つける。
女子はソフトボールか。
高田さんは持っているバットで肩をトントンしながら、静かに睨む。
……バットを本来とは違う使い方で持つと想定したら、高田さんによく似合っているなぁ。
結局、僕はクラスメイト達との心の距離がより一層広がったのだった。
ちなみに、高田さんはソフトボールで校外に飛ばすホームランを打ち、嬉しそうだった。
※※※
午前の授業が終わり、今は昼休みになっていた。
「僕の事心配してくれるのは嬉しいけど、あれじゃあみんなが怖がるよ」
「だってハルにボール当てといて謝るそぶりもせずに笑ってた」
「ゴールキーパーなんだから、仕方ないよ」
僕は高田さんとよくいることから、クラスメイトと話す機会がなく、高田さんとしか接点がなかった。
それが続いてくると、変に彼女を避けるのも面倒になってきたから、今はこうして弁当を囲むようになった。
もちろん彼女に友情も恋愛感情もない。
あるのは『こいつがいなけりゃ今頃陽キャになれてたのに!』という怒りだけだ。
「…でもやっぱり生意気だからちょっと殴ってくる」
「や、やめなさい!」
何処ぞのガキ大将みたいな事を言い出した。
そのうち自分の歌を出して、高田リサイタルなんかを開いて近隣住民から苦情がきたりして。
「ハルがそう言うなら別にいいけど」
「そうしてください」
入学当初、僕は恐怖するあまり高田さんから逃げてばかりだったが、今では彼女の扱い方が分かってきた。
この調子で破壊光線でも覚えさせよう。
「そういえば、ハルの新しい家族どうなったの?」
高田さんはご飯を口に運びながら訊ねる。
新しい家族というのは母さんが再婚した新しい父親の一平さん(バツイチ)、その息子の航太くんのことだ。
「意外と仲良くやってるよ」
「そーなんだ。最初に聞いた時、ちょっと心配したんだけど……それならよかった」
まぁ少し気まずいというのが、まだ本音であるが、時間の問題だろう。
「ハルのお母さんはどんな感じ?」
「母さんは『春樹(父さんの名前)の事は好きだけど一平(一平さんは母さんより年下)の事も好きになったからね。父さんが生き返ったとしてももう今更? って感じ』だってさ」
「……なんか軽いわね」
「まぁそこがいい所でもあり、悪い所でもある」
「ハルはいいの?」
「一平さんは優しいし、『何かあったらいつでも頼ってくれ。それと無理に仲良くなろうとしなくても大丈夫。晴斗君のお父さんの事もあるんだし、ゆっくり慣れて欲しい』て言ってくれたからね」
「ふーん」
「唯一気になるのは航太くんの事かな? ちょっと避けられてるというか」
そう言うと、高田さんは指をポキポキと鳴らし始める。
「じゃあアタシがハルの弟に喝を入れ」
「いらんいらん」
喝を入れてどうするって話だろ。
そんなこんなで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、僕たちは次の授業準備をする。
今日は何事もない比較的平和な日常で終える……そう思っていた。
※※※
最後の授業が終わり、僕は家に帰る支度を済ませる。
「ハル!一緒に帰ろ!」
「うん。……あっ、ちょっとトイレに行ってくるから待ってて」
高田さんを教室に残し、僕は急いでトイレに向かう。
……しかし、高校に通い始めてからほとんど高田さんと過ごしているな。
僕の日常にもう少し変化があってもいいのに。
「おい」
「はい?」
突然僕に話しかけるのは、制服を着崩し、髪も派手と言うか……つまりガラが悪そうな男だ。
よく見るとボタンの色が違うし、先輩か?
「お前、佐々木か?」
「はい。そうですけ……」
しまった!
こういう場合は大体やばいことに巻き込まれるパターンだ!
相手は見知らぬ先輩、そして接点のないはずの僕の名前を知っているのは怪しい。
「そうか! じゃあ高田桜って知っているか?」
「高田さんの事を知らないのはこの学校ではあまりいないと思いますけど……」
番長倒すぐらいだし。
「まぁそうだな」
しかし高田さん何をしたのだろう。
絶対面倒なことを起こしたに違いない。
そうじゃなければこんな人が僕に話しかけるのはカツアゲかパシリにするときだけだ。
頼むから巻き込まないでくれ!
「言っておきますけど、僕は彼女と何の関係も関わりも持っていな」
『チャンチャカチャカチャカ、チャン、チャン』
「……」
「……笑点?」
この音は僕のスマホの着信音。
そしてこれは高田さんの時になるよう設定したものだ。
やばい。この状況で出ると、物凄く面倒なことになると本能が察知している!
「そ、それじゃあ僕はこれで」
僕は男から逃げるように離れ、笑点の着信音を止めようとするが
「いやいや。何ごともないように立ち去ろうとするなよ。つーかお前、やっぱ佐々木だろ?」
「いやいやいや! あんな人、僕みたいな陰キャが近づけるほどの勇気なんてありませんよ!」
僕は手振りをして身の潔白を説明するが、
「へ~じゃあ画面に映ってる高田って文字は何て説明するんだ?」
左手に持っていたスマホの画面まで見せてしまった。
「あーいやこれは同性同名の人で、読み方も『こうでん』と読むので別人で」
男は僕の言葉に聞く耳を持たず、真顔で胸ぐらを掴んでくる。
そして一言。
「お前……今から人質な?」
神様!
これ、僕が思っていた日常の変化じゃないです!!!
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