第30話 執事、窓を割る
一学期最後の登校日。
テストや通知表などが担任から渡され、ある者は夏休みの予定を言い始め、またある者は、
「佐々木……俺の夏休み終わった」
補修という地獄に落ちていた。
「……どんまい」
「俺の夏休みの予定が全部パーだよ!」
「あはは」
補修は明日から数日間行われるらしく、今日は授業が終わり次第、その予定の説明会だとか。僕も一歩間違えばここに行く羽目になっていたのだと思うと笑顔が引きつりそうだ。
「笑ってるけどお前はどうなんだよ?」
「僕は全部平均点越え」
「かー面白くねー答え! もういい! 俺は補修で一番取って、佐々木との差を思い知らせてやるからな!」
補修の時点でどうあがいても無理な気がするけど……。
まぁ畑中くんが補修という事なら、今日遊びにいく話も無かった事になる。となると僕も暇に、
「……」
高田さんの視線が痛い。
高田さんは僕がビーチに行くかもしれないという事は知らないはずなのに、何で睨んでくるんだ。
『もういい!』
……まだ根に持ってるのかな。
そろそろ平和協定でも結びたいところなのに。
しかし高田さんはああやって威嚇はするけど、テスト前日になった時にはテスト対策ノートを無言で机に置いていたり、僕の成績表を無言で見ては一瞬ホッとした表情を見せたりと。何だかんだと僕の事が気になっているのは間違いない。
「……話しかけてみるか」
いつまでもツンケンとした関係であるのも疲れてくる。ここは僕から謝って、そろそろあの態度を止めて欲しいとこ、
「はっ!?」
僕の視線の先には高田さんがいる。だがその更に向こうの窓からの景色からは、真黒な高級感のあるヘリが。
「あれって撫子のヘリ?」
「チっ!」
高田さんとは仲直りはしたいとは思う。
しかし! そうは言ってもあの黒井さんが絡むとなると話は別!
「……ハル?」
僕は急いで学校から逃げ出した。
※※※
急げ急げ!!
「ねぇねぇたっくん~」
「何だい南?」
急がないとあの人が!
「私がたっくんを好きになった理由知ってる?」
「フッ! そんな事分かりきってるよ……」
黒井さんが!!!
「……運め」
「どけえええ!! バカップル!!!」
「あふん!?」
「た、たっくんんんんん!?!?」
黒井さんが来る!!
「——はぁはぁ。ここまで来れば大丈夫だろう」
黒井さんからの魔の手から逃れるべく、いつもより急いで家に着くことができた。途中バカップルが横並びに道を歩いていたから、無理矢理二人の間を突破してしまった。
まぁここに来るまでにヘリの音は聞こえなかったから、恐らく諦め……って、フラグを早々に立てるのは良くない。
「ただいま~」
家には航太くんの「ん~」と言う小さな声が聞こえるだけ。黒井さんなら勝手に家の中に入り込んでいる可能性も無くはない。
慎重に……慎重に……良し! リビングにはいない!
じゃあ二階の僕の部屋には!
「……いないか」
胸を撫でおろし、僕は自分のベッドに横たわる。
焦って帰って来て損した。だけどあの人の行動パターンは予測不可能。家に押しかけてきても何とか追っ払えるようにしないと。
「よし! とりあえず玄関にバリケードでも設置して……ん?」
何だろう……近くからババババっと風を切る音が聞こえてくる。
しかも徐々にその音が近づいてきてる。
「……気のせいだ」
だ、大丈夫! あの人も常識は持ち合わせているはずだ!
インターホンを鳴らして、許可を得てから家へあがってくる!
「佐々木様ー! 迎えに来ましたよー」
だから窓の外でロープにぶら下がっている黒井さんの姿なんて、僕には見えない!
「……せーのっ」
「え?」
黒井さんは体を揺らし、その遠心力でロープを離そうものなら部屋の窓を割る勢いで飛び込んで、
ガッシャアアアアン!!!
「ふぅ」
「えええええ?!!」
窓ガラスの破片が飛散し、黒井さんは盛大に窓を割って侵入してきた。
「さてと……」
そして何事もなかったかのように、僕の方へと視線を向けると、
「お邪魔します」
「何してんだあんたぁぁぁ!?!?」
何とも礼儀の正しい不法侵入者の完成だ。
「何って……家にお邪魔してます」
「いやそれ不法侵入! 窓ガラス割って人の家に上がり込む人なんていると思います?!」
「HAHAHA、ここにいるじゃないですか」
以前会った時から変な人だとは思っていたけど、まさかここまで常識が外れているとは!
しかもこいつ人の事馬鹿にしやがって!
「なにぶん急いでましてね。ここからの方が早いと思いまして」
「普通に玄関から入れないんですか?」
「普通に入ったら面白くないでしょうが!」
「面白さで入り方変えるんじゃないよ!」
いかん! このまま会話を続けていても、この後僕が巻き込まれる事は確定だ! 何とかして帰らせなければ……
「さてと……それじゃあ行きましょうか」
「!?」
気がついた時には、僕の手足は縛られていた。それも瞬きをする暇もない、凄い速さで。
「ちょっと何して……離せぇぇ!」
僕は必死に抵抗するも、黒井さんに背負われ、ロープでヘリの中まで引っ張り上げられた。
「うわぁぁああぁ!!」
「暴れないで下さい。私だって好きでやったわけではないのです」
「嘘付け!!」
「本当です! ……これは!」
こ、これは?
「作者が話を盛り上げる為には主人公を酷い目に遭わせないといけないと仰るから!」
「作者って何?」
こうして、
「いやだぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕はヘリに揺られながら、相葉財閥の所有するビーチへと連れられてしまうのだった。
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