第10話 暴力女と金持ち女の因縁
僕は高田さんが関西女、もとい相葉さんを締め上げようとするのをなんとか抑えることに成功した。
しかし……
「ぐぬぬ!!」
「ちっ! ハルがいなけりゃこいつなんて……」
両者互いににらみ合うことを辞めない。犬猿の仲とはこういうことを言うのだろう……
「なんでここにいるのよ。白百合に内部進学したんじゃないの?」
「ふん! そんなんお前を倒すためだけに来たんや! こんの臆病者が!!」
「Dead or Dead?」
「いや結局死ぬじゃん」
それにしても、この二人に一体何があったのだろう……
高田さんは怒っているが、いつものパターンで考えると、やはり相葉さんが被害者なのか?
「高田さんは何をしたの?」
「なんでアタシが悪い前提なのよ!!」
高田さんに偏見を持っていたせいか、つい口が滑ってしまった。
でも相葉さんとの力の差を見ればそう思うのも必然だと思う。
「こいつはアタシの後をちょろちょろ付け回すストーカー女よ!! だからアタシは被害者で、こいつは変態」
「誰がストーカーや!! そもそもあんたが———
———これはウチが中学に進学した頃。
「さすが撫子様!」
「今日も美しい!」
周りにいるのはウチを持ち上げるやつばかり。この時、ウチを中心に世界が回っていると思っていた。
「撫子様、ごきげんよう!」
「撫子様~!!!」
「はぁ!! 今日も変わらぬ美しさ!!」
周りに自然と人が集まるカリスマ性も持ち、正直天狗になっていた。
この世でウチ以上に恵まれる人なんていないと……
「高田桜です。三年前まで東京に住んでました。……よろしく」
サクラが現れるまでは。
※※※
「サクラさんってスポーツ得意なんですね」
「別に普通よ」
「成績も撫子様を越えて一番になり……ひっ!」
クラスメイトの一人がウチを見て怯えた声をあげる。
ウチは何もしてない。
サクラにテストで負けたことを聞こえるように言おうとしたから睨んだだけ。
しかし、このままだとウチの威厳というものが無くなりつつもあるのも事実・・・・・・。
「ちょっと最近調子乗りすぎちゃう?」
「……何て?」
気がつくと、ウチは自然とサクラの前に立っていた。
いや、自然ではない。ウチより上の存在であるこの女が気に食わないからだ。
「ウチより少しは上なんか知らんけど、アンタがただの貧乏人であって、この学園の邪魔m」
すると言葉を遮るように、ウチの顔に何の躊躇もなくグーパンする。
「〇✕△っ〜〜〜?!!」
「さ、サクラさん?! 相葉様に何を?!」
言葉にならない激痛が、顔中を走り回る。
「古いお嬢様キャラみたいな事言ってきたからよ」
「だからって、野蛮ですよ! そんな……あ、相葉様?」
「……血?」
鼻を抑えると、赤黒い血がどくどくと流れ出してきた。
この血は……ウチの?
「「「キャーーー?!!」」」
クラスメイト達が怯えたように悲鳴を上げる。
「誰か! 誰か先生をお呼びになって!」
「こんなのすぐ治るわよ」
するとさっきまでサクラを崇めるように見ていた奴らは、距離を置き、ヒソヒソとサクラの事を言っていた。
これでサクラの地位を落とし、一件落着……と、ウチがこのまま許す訳がない。
「高田桜!!! アンタ覚えとけよ!!」
「フン」
この後サクラは1週間の謹慎処分となった。
だが、当然ウチの怒りは収まるわけが無い。いつか必ず、サクラに恥をかかせてやる!! そう誓ったのだった———
―――とまぁこんな感じや。この恨みをちゃんと晴らすまで、お前を逃がさんからな!!」
なるほど。
高田さんは僕と再会するまで何一つ進歩していなかったのか……
「だからそれは謝ったし、親同士和解したでしょ? それをわざわざ蒸し返す意味がわからないわ」
「アホか! そんなんされたぐらいでウチの怒りが収まるかぁぁぁ!!」
そして相葉さんの拳が高田さん目掛けて繰り出される————
「いたたたたたたた!!!」
ことはなく、一瞬で身動き取れないよう絞められてた!
「ったく、さっさと帰りなさいよ」
「うぅ…なんでウチはサクラなんかに負けるんや…」
同じ高田さんの被害者として、彼女には同情する。
高田さんも一回ぐらい負けてあげたらいいのに。
「バレないように負けてあげたら?」
僕は小声で助言するが、
「そんなことしたら調子に乗って今まで以上に絡んでくるわよ」
「ぐぬぬぬぬ!!!」
確かに、この怒り方はしつこそうだ。
……いや、まず僕は関係ないから早く帰らせて欲しいんだけど。
バババババババ
どうすれば相葉さんを帰らせる事ができるのだろう……
バババババババ
……なんかうるさくね?
ヘリの音ってこんなに聞こえるものか?
『話は聞かせて頂きました!!』
「「「!!!」」」
すると突然空から声が聞こえ、見上げると、ヘリコプターから身を乗り出しながら拡声器メガホンを使って話す人の姿があった。
「ええええええ?!?!」
「黒井!!何やってんのや!」
相葉さんはヘリに叫ぶ。
ってことはやっぱり相葉財閥の……お嬢様パワーすげぇ。
『お嬢様がボディーガードも付けずに外出したからですよ!!今そっちに降りるんでちょっと待ってて下さい!!』
え?降りるってどこかにヘリを置くような場所なんて……
ヒュュュ……シュタッッ!!!
空から飛び降りて来た男は、着地と同時に土煙が舞う。
そして煙が無くなると、シュッとした高身長のこれまた腐女子が好きそうな美形男子が現れた。
黒いスーツを着ているし、召使いとか?
「ふぅ……さてと」
そして男は何事もなかったかのように平然と身だしなみを整え、僕達に声をかける。
『申し遅れました! 私は相葉お嬢様の専属執事!
「この距離でメガホン?!」
『お嬢様!! このようにボディーガードの一人も付けずの外出は辞めて頂きでぶしっ!!』
「耳壊れるわアホ!!」
怒った相葉さんは男の頭を叩く。
なんかバブル期のお笑い番組でも見ている気分だな。
「ハル……アイツ強いわよ。着地する時ほとんど音を立てなかったわ」
「うん。僕はそんな事よりもヘリから飛び降りて生きているのが衝撃だよ」
しかし、また厄介な事になりそうだ。
今の内に帰ろうかな……
「ゴホン。では本題に入らせて頂きます」
「ってことは、ウチをただ連れ戻しに来た訳じゃなさそうやな」
「ご名答。さすがはお嬢様」
いや、帰ってくれ。
これ以上僕の平和を脅かさないで欲しいから連れ戻せ。
「連れ戻した所で、再び高田様に絡むのは目に見えています」
「まぁそうやな」
自分で言うなよ。
「そしてお嬢様が高田様と殴り合った所で、お嬢様の負ける姿が……ぷっ」
「なんでウチが負ける前提で話すねん! あと笑うな!!」
さすがにもう僕には関係ないだろうし、こっそり帰ろう。
「とまぁ未成年のレディが殴り合う姿なんて誰も見たくないでしょう…そこで!」
こっそり…こっそりと……
「皆様が笑顔になること間違いなし!美少女同士で行われるクッキングバトルを提案させて頂きます!!」
「「クッキングバトル?!」」
よっしゃ今だ!!
僕は平穏を取り戻すべく、この場を逃げ出した……が、
ガシッ
「あっ、審査員は佐々木様で」
「は、離してくれ!!!」
こうして、黒井さんに捕まった僕は、料理バトルに巻き込まれるのだった。
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