第30話アビ
助けたウサギ獣人は、アビと言った。
アビはやはり、捻挫し歩き辛い状態だった。
クロは、アビをおぶって、理久と2人でアビの家まで送り届ける事になった。
理久は、アビの手提げ袋を持つ。
そんな中、理久はふと、アビを背に歩くクロの横顔を見て思った。
(ただの一般獣人をおぶって歩く王様など、クロの他にいるのだろうか?)
あの理久の世界にいた犬のクロそのまま…
やはり人型のクロも、本当に優しくて実直で逞しい。
なのに…
そんな人型のクロのプロポーズを断り、自分はあと数時間で自分の世界に帰ってしまう。
帰れば、理久は高校や塾に追われなかなかクロには会えなくなるし…
クロも、暫く忙しくて会えないかも知れないと言っていた。
理久の胸に、激しくズキッと痛みが走った。
クロの城の回りに広がる巨大な町の庶民の家は、殆どが素朴なヨーロッパ風の石造りだ。
大きければ、5階建ての集合住宅もある
。
けれどそれらが、美しい水路の間とモザイクのような石畳みの小路が迷路のように走る中にひしめく様は…
理久に正に異世界にいる事を体感させた
。
それ程は歩かなかった。
やがて、一軒の小じんまりした珍しく木造の平屋に着き、そこがアビの家だった
。
中に入ると、ウサギ獣人青年と産まれたばかりのウサギ獣人の赤ちゃんがいた。
赤ちゃんは人間と成長は同じで、産まれて4ヶ月だそうだ。
理久は、まさか…これが男性同士の夫婦で子供が産まれると言う事かと思ったが…
実はお兄さんで、赤ちゃんはお兄さんの息子ジュリらしい。
アビの足に、薬草の湿布をし包帯を巻き治療を終えると…
アビが助けてもらったお礼に昼食をご馳走したいと言ってきた。
理久とクロは遠慮したが、アビの押しにお言葉に甘える事にし、その後宝石店へ行く事にした。
アビの家は、庭に沢山の、理久には珍しい薬草や花が咲いていた。
それらが、家の中から窓を通して絵画のように見える。
そして、よく外の日差しが入る明るい、整頓された部屋。
鼻をくすぐる、何か美味しそうな料理の香り。
なにもかもが穏やかでのんびりしていた
。
だから…
理久もすっかり、アビに対する警戒心と言う物を失くしてしまった。
「クロ!見て!ジュリ…こんなに小さい…」
理久は、大きなおめめを開けご機嫌のジュリを抱っこする事を許されて歓喜の声を出した。
アビと兄は、食事の用意で台所にいて、今いる部屋には理久とクロとジュリだけだった。
「ああ…小さいな…」
クロがそう言いながらニコニコして、ジュリで無く理久を見ていた。
「クロ…俺じゃなくて、ジュリを見てよ」
理久が軽く苦笑いする。
「ジュリも見てる。でも…理久をどうしても見てしまう。ジュリを抱いてる理久はめちゃくちゃかわいいから…」
「かわいい?男の、高校生の俺が?」
「ああ…理久は元々かわいいが、ジュリを抱いてると更にかわいい…理久…お前、何でそんなにかわいい?」
クロが、理久に密着しながら甘いイケヴォでそう言うので、理久はドキっとして焦る。
「ジュっ、ジュリの方がかわいいよ!ジュリ!本当にかわいい!それに、この毛並み…本当にキレイ」
ジュリは、ただでさえ小さくウサ耳でかわいいのに、綿毛のような純白の毛。
理久は抱っこしながらそのモフモフに悶絶しながら、次にクロに尋ねた。
「やっぱり…うさ耳は、赤ちゃんでも触ったらダメだよな?」
「いや。赤子ならまだ触っても大丈夫だ…」
すぐ横にいてそう答えたクロが、なんとなく元気が無く、耳と尻尾がしなだれてる。
「ど…どうした?クロ…やっぱり宝石店へすぐ行きたかった?」
クロは、首を左右に振った。
「じゃ、どうした?」
理久がクロの顔を覗き込む。
すると…
クロは、巨体のその顔を少し赤らめ、ボソボソ呟いた。
「そっ…その…俺より…かわいいか?俺より、毛並み…キレイか?…」
「はぁ?!」
(まさか…こんな赤ちゃんにまで嫉妬?…)
理久は呆れながらも、あっちの世界で犬のクロが、理久が他の犬や猫を撫でてかわいがるのを吠えて嫌がったのを思い出した。
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